かたかた、とキーボードを叩く音だけが周囲に響いている。
「……ドラクーンシステムって……」
 フラガが使っていたあれと同じものなのだろうか、とキラは悩む。それならば何とかできるのだろうと心の中で呟く。だが、違う可能性だってある。
「開発の人間に確認しないと」
 ともかく、未知のシステムである以上、確実性を優先したい……と思う。だから、と考えてキラが腰を浮かしかけたときだ。
「キラ」
 外部モニターが聞き慣れた声を拾い上げる。
「アスラン?」
 何故、彼がここにいるのだろうか。
 そう考えながらハッチを開ける。そうすれば、正面に彼の姿が浮かんでいるのがわかった。
「どうしたの?」
「隊長に頼まれたんだよ」
 そうすれば、アスランは即座にこう言い返してくる。
「今何時なのか、気づいているのか?」
 さらに付け加えられた言葉に、キラは小首をかしげた。
「何時って……」
 そのまま視線を彷徨わせると時刻を確認する。そこに記されていたのは予想していたよりも進んでいた時刻だった。
「あれ?」
 先ほど確認したときには、これよりも六時間は前だったはず。
「……何で……」
 というか、いつの間に……とキラは思わず首をひねってしまう。
「そんなことだろうとは思っていたけどね」
 キラの様子を見ていたアスランが盛大にため息をつく。
「その調子だと、食事も取っていないんだろう?」
 この指摘に、キラは苦笑を浮かべる。
「まだ、そんな時間だと思っていなかったから……」
 そう言えば、少しお腹がすいたような気もするけど……と付け加えれば、アスランがぐいっと身を乗り出してくる。
「ともかく、出てこい」
 言葉とともに彼の手がキラの腕を掴んだ。
「アスラン!」
「いいから……ラクスが待っているんだ」
「……えっ?」
 何で、ここで彼女の名前が出てくるのだろうか。突然聞かされた言葉に、キラは思考が停止してしまう。それでも、そう言えば今日、彼は、ラクスと会うことになっていたのではないかと思いだした。
「ラクスと会っていて帰るときに隊長から連絡があったんだよ」
 で、キラを迎えに行くことがばれたのだ、と彼はため息をつく。そうしたら、自分も一緒に食事をしたいとだだをこねられたのだ、とも。
「相手が相手だけに、邪険ができなくてな……」
 それでも、施設に入れるわけにいかないから、外のラウンジで待っていてもらうのだ、とアスランは付け加えた。
「……まさかと思うけど、一人で?」
「いや……ちょうどミゲルとラスティがいたから、頼んできた」
 悪いと思ったが……とアスランは苦笑を浮かべながらこういった。
「そっか……」
 あの二人も休暇返上でOSの整備をしているのだろう。で、目処がついたからどこかでゆっくりといちゃつきに行くところをアスランに見つかったと言うところか、とキラは判断をする。
「なら、早めに行った方がいいのかな?」
 取りあえず、人目があるところでラクスが暴走をすることはないだろう。しかし、それでもラスティには荷が重いのではないか、と思うのだ。
「じゃなくて、行くんだ、キラ」
 でないと厄介なことになる……とアスランはため息とともに口にした。
 ひょっとして、ラクスに何か言われたのだろうか。それも、アスランが焦るような内容のセリフだろう、とキラは判断をする。だとするなら、とばっちりは自分にも及ぶのではないか、と思う。
「ともかく……これだけは保存させてよね」
 でないと、今まで音頭力が無駄になる、とキラは告げる。
「それは……仕方がないな」
 ここでダメになれば、また一から始めなければいけない。一度構築しているから今までよりは時間がかからないだろうが、それでも二度手間だと言うことは同じだ。
 そうなれば、他のことにしわ寄せが行く。
 だから、キラが作業をきちんと終えるまでは待っていてくれるつもりなのだろう。それはありがたいのだが、とキラはため息をつく。
「……ともかく、腕、放して?」
 でなければ、作業ができない……と告げれば、アスランはようやく自分がまだキラの腕を掴んだままだと気づいたようだ。
「ごめん」
 慌てたようにキラの腕を解放する。
「いいけどね、別に」
 プログラムをダメにされたわけでも何でもないから……とキラは言い返す。そんなことになっていたら、呼びに来たのがアスランで、待っているのがラクスでもただではすまさない、と思う。
 もっとも、アスランの場合そんなことをするはずはないとわかっている。
 だから、安心していられるのかもしれない……とキラは思う。言わなくても彼は実行してくれているのだから。
 こんなことを考えながら、キラは手早く今までのプログラムを保存し、システムを終了させる。
「お待たせ」
 そして顔を上げれば、アスランの微笑みが目に入った。