最前列に、最高評議会のメンバーとカガリ。とラクス。 一歩下がったところにクルーゼとフラガ、それにザフトの隊長達。 そして、三列目にキラ達を一としたクルーゼ隊のメンバーとシンとマリューが並んでいた。 「……何か、場違いじゃないですか、俺」 シンがこう呟いている声がキラの耳にも届く。 「何言っているの。そんなこと言ったら、私も場違いでしょう?」 だから、気にしないの……とマリューがそんなシンに声をかけている。本当に場違いだと周囲が考えているなら、そもそもここに足を踏み入れることもできないだろうとも。 「それに、カガリさんを一人にするの? 何かあれば、ムウは確認のために走り回ることになるもの」 その時はシンがカガリのそばにいなければいけないだろう、と言う彼女の言葉は正しいのではないだろうか。もちろん、この場でそのような状況になるとは考えられない。それでも、いつ何があるかわからないのだ。 もっとも、これ以上何も起きないで欲しいというのが誰もが共通して抱いている感情ではないだろうか。 そんなことを考えていたときだ。 デッキに続くドアが開く。 反射的に、キラは背筋を伸ばした。いや、彼だけではなく他の者達も同様だ。 真っ先に入ってきたのは、オーブ軍の軍服を身に纏った人々だった。そして、その奥に首長会の一員であるという証の紫のスーツを身に纏った壮年の男性の姿が確認できる。 「……ホムラさま?」 その人物にキラは見覚えがあった。 ウズミの弟である彼がどうして……と一瞬考える。だが、すぐに彼以上の適任者がいないと言うこともわかった。 アスハとしては、現在一番首長に近しい存在の彼をプラントに派遣して、敵対心がないと言うことをアピールしたいのだ。それは最高評議会の者達にではなく民衆に、だろう。 ホムラはまっすぐに最高評議会議員達の前へと歩み寄る。その途中で、一瞬だけカガリとキラに視線を向けてきた。 「プラントの方々には、オーブの時代の宝を保護してくださったことに深く感謝をいたします」 そして、こうよく通る声でこう告げる。 「どのような状況になろうとも、変わらぬ友情を貫いてくださった方に対する当然の好意ですよ」 それに対し、シーゲルが柔らかな口調でこう言い返した。 「詳しい話は後で。取りあえず、今は落ち着ける場所に移動しましょう。つもり話もおありでしょうしね」 他の方々にもそれぞれのお役目がおありでしょう、と彼は続ける。 それを合図にしたように皆が移動を開始する。 「……今回はあっさりとすんだな」 もっと仰々しい式典があると思っていたのに、とミゲルは呟く。 「そうだね」 カガリのこともあるからそうかな、と思っていたのだ……とキラも頷いた。 「……何か隠し球があったりしてな」 「ホムラ様がいらっしゃったから、その可能性は否定できないかも」 でなければ、他の誰か――サハクのミナあたり――が来たのではないか。そうも思うのだ。 「どちらにしても、彼女の身柄はこれからオーブの預かりになるんだな。寂しいだろ」 からかうようなミゲルの声が耳に届く。 「どうかな」 カガリのことだから抜け出してくるのではないか。それはそれで頭が痛い問題だけど、とキラはため息をつく。 このとき、まだ、キラは『隠し球』の正体に気づいていなかった。その事実は知っていても、結びつけられなかった、と言うべきか。同時にそれ以上にプラントに対する感謝の気持ちを表すものはなかったのかもしれないが。 人工子宮による次世代の誕生の可能性。 オーブでかつて行われていたその研究のデーターを全てプラント側に引き渡し、今後共同研究を続ける。 それが、カガリ――そして公にはできないだろうがキラとクルーゼ――を保護してくれたプラントに対する最高の礼だとウズミは考えているのだろう。いや、彼だけではなく、現在オーブの国政をになっている者達は、だ。 「……まさか、これをこの段階で渡すとは、な」 予想外だった、とクルーゼすら呟くのだから、自分が驚いたとしてもおかしくはないのだろう。キラはそう判断をする。 「そうですね」 キラもそれに関しては同意をするしかできない。 「まぁ、これで、強硬派もしばらくは動きを止めることになるだろうがな」 というよりも、戦争が終わり、さらにオーブからこのような提案をされたのでは彼等としてもこれ以上ナチュラルに対する強硬な態度を取っていられないと言った方がいいのかもしれないが。 それよりも、この研究を確かなものにした方がいいだろう。 そうすれば、自分たちはさらに発展できるのではないか。 こう考えるのが普通のはずだ。 「そうかもしれませんけど……」 しかし、とキラはため息をつく。 「何も心配はいらない。ザラ閣下もクライン議長も、そしてエルスマン議員もお前のことを知っている。それなのに、何も言ってこないのだ。彼等の胸の内だけで収めていてくださると言うことだろう」 彼等にとって重要なのは、今までにあれではぐくまれた命がある、と言うこと。そして、その時のデーターなのだから、とクルーゼは微笑む。 「はい」 彼がそういうのであれば正しいのではないか。キラはそう判断をして取りあえず自分を納得させた。 「それよりも……先に別の問題を解決せねばならないようだよ」 視線を外に向けていたクルーゼが小さなため息とともにこう告げる。 「ラウ兄さん?」 どうかしたのか、とキラは問いかけた。 「早速逃げ出してきたようだぞ、あの子は」 許可を取っていればいいのだが、でなければ大騒ぎになっているのではないか。彼はそう付け加える。 「……連絡を入れる?」 「私がやろう。取りあえず、迎えに行ってやれ」 この言葉に、キラは素直に頷いて見せた。 |