目の前のモニターを見つめながら、フラガは小さな笑いを漏らす。
「知り合いなのか?」
 それに気づいたのだろう。クルーゼがこう問いかけてきた。それも無理はないだろう。彼が知っている軍の中枢と言えば、せいぜいキサカぐらいなものだしな……と思いながら頷いてみせる。
「シン・アスカの後見人、みたいなもんだな」
 ご両親は他にいるが、あの年齢で軍に入れるとなるとちょっと厄介だったのだ、と説明をした。
「キサカほど目立った動きはしていないが、実直な人でな。周囲からも信頼されている」
 彼がシンを推薦していたからこそ、M−1のテストパイロットに選ばれたのだ、と付け加える。でなければ、いくら優秀でも認められなかっただろう、とも。
「なるほどな。モルゲンレーテの置くにしまっておいて、有能なコーディネイターをバカから守っていた、と」
 そういうことか……とクルーゼは納得をする。
「微妙にニュアンスが違うが……まぁ、そういうことだ」
 ついでに、カガリが八つ当たりをしても壊れないような側近が必要だと言うことになったしな……と付け加えられて、苦笑を浮かべた。
「……さすがに、お前やキラを呼び戻すわけにはいかなかったからな」
 かといって、女性ではあれを抑えきれないし……という言葉に、さらに苦笑は深まる。
「それで、あの子か。まぁ、素直でいいこのようだなが」
 カガリを抑えるどころか、一緒になって暴れているのではないか? と思わず問いかけてしまう。
「今は、それでもいいんだよ。取りあえずは、カガリについて行けるという存在がいればいいだけだって」
 自分たちだって、いつまでも彼女のそばにいられるわけじゃないからな……と彼が口にした意味はクルーゼにもわかっている。
「後はおいおいと教育していくだけだって」
 まぁ、それに関しては周囲の連中がきちんとしてくれるだろう。いずれ、カガリが代表の座に着いたときに使い物になってくれればいいだけのことだ、という言葉に、クルーゼも取りあえず頷いてみる。
「そのころには、お前も戻ってきてくれているだろうからな」
 カガリもおとなしくなるだろう……という言葉に、クルーゼは首をひねった。
「何かしたのか?」
「……永遠に無理だと思うぞ、それは」
 カガリがおとなしくなる日は永遠に来ないと思うが……と続ければ、フラガが意味ありげな視線を向けてくる。
「第一、おとなしくなったカガリはカガリではないからな」
 まぁ、成長をすれば落ち着きは出てくるだろうが……と付け加えれば、フラガの口元にも笑みが浮かぶ。
「まぁ、な。キラがワガママになるのと同じくらいおかしいか」
 キラの場合は、ワガママになってくれてもいいんだけどな……と呟く言葉には同意だとクルーゼは思う。もっとも、最近のキラは違うようだが。もっとも、それが向けられるのはただ一人だけだし、とも。
「……それよりも、あの件も正式に伝えられるのだろう? いろいろと忙しくなるな」
「まぁ、それは仕方がないな。あきらめろ」
 オーブに帰ってカガリのお守り役に就任したらもっと忙しくなるんじゃねぇの、と無責任な口調で言ってくるフラガが少しだけしゃくに障る。
「その時は、きっちりとこき使ってやるから安心しろ」
 せめてもの嫌がらせに、クルーゼはこう言ってやった。

「……何か、全員がそろうのって、めちゃくちゃ久しぶりじゃねぇ?」
 前回の時は、ミゲルが抜けていたし、その後はアスラン達が忙しくて時間を合わせるのが難しかっただろう、とラスティが口にする。
「それに、気が付いたら、お前らだけうまいものを食ってたって? ラクスさまと」
 一番許せないのはそれだ、と彼は頬をふくらませた。
「……ラスティ、あのね……」
 慌てたようにキラが口を開く。
「仕方がないことだってわかっているし、タイミング的に一番よかったって言うのも理解しているつもりだけどさ」
 その言葉を遮るようにラスティが先に言葉を綴る。
「一番許せないのは、やっぱり、声もかけられなかったってことだよ!」
 うまいものが喰えないのはともかく、存在をなかったことにされたのが一番悔しいのだ、と叫ぶラスティに、キラが助けを求めるように周囲に視線を彷徨わせている。
「いいのか?」
 その光景をどこか楽しげに見つめていたミゲルに、ディアッカがこう問いかけてきた。
「たまにはいいんじゃない?」
 ラスティも、キラが元気になったからこそ突っかかっているんだし……とミゲルは言い返す。それにキラも気分転換になるのではないかと付け加えた。
「まぁ、ラスティならそのあたりの加減はわきまえているか」
 そう言う点に関しては、信頼しているからいいのだが……とディアッカは呟く。むしろ、アスランよりも確実じゃないだろうかとまで彼は付け加えた。
「アスランはな……ただのキラバカだから」
 自分たちとは違った意味で……とどこか自重を滲ませながらミゲルは頷く。
「それも凄いよな。ラスティの八つ当たりの原因になってないのか、それ」
 普通はそうだろう? とディアッカは真顔で問いかけてくる。
「大丈夫。そういう意味で、ラスティもキラファンだから」
 あのギャップが魅力的なんだと……とミゲルは笑う。そういう相手だからこそ、続いているのかもしれないな、とも付け加える。
「はいはい……ごちそうさま」
 聞くんじゃなかった……とディアッカがため息をつく。
「お前だって、いつまでもふらふらとしていないで特定の相手ができればわかるって」
 わからないのは、まだ本気の相手に出会ってないからだ……と付け加えれば、ディアッカの瞳に微かな怒りが浮かぶ。
「まぁ、お前らの場合、そうともいっていられないからな。キラとアスラン、それにラクスさまの関係が特別なんだって」
 それはそれで幸せそうでいいけどな……と言うミゲルに、今度は素直にディアッカも頷いてみせる。
「と言うわけで、まじで飯の話の計画を立てないとな。まぁ、オーブからの施設の出迎えを終えた後でもいいか」
 カガリが参加するのは難しいかもしれないが、自分たちだけでも十分だろうし……とミゲルは口にした。
「あぁ、それだけどな。一応いくつかピックアップしてあるぞ」
 ラクスに頼まれたのだ……とディアッカが囁いてくる。
「さすがはラクスさま」
 それに、ミゲルは満足そうに笑い返した。