それから数日後、オーブから正式にカガリを迎えに行くという連絡が入った。
「……トダカさんだって、くるの」
 あの日から当然のように自分達の所に入り浸っているカガリに向かって、キラはそういう。同時に、彼はザフトの制服に手を伸ばしていた。
「キサカはお父様のそばを離れられないだろうからな。当然だが……」
 どうしてお前は出かける準備をしているんだ、とカガリはキラをにらみ付けてくる。
「仕事だよ。一応、当日の打ち合わせとかあるんだって」
 こう言うときに、クルーゼ隊は都合がいいんだよ、とキラは苦笑を返す。最高評議会議員の子息が集まっているから、とも。
「つまらないな……ラクスも、今日は忙しいって言っていたし……」
 シンじゃ、今ひとつ遊べないし……とカガリは呟く。その瞬間、シンが頬を引きつらせたのがわかった。
「カガリ」
 シンはカガリの護衛でしょう? 遊び相手じゃない、とキラは注意をする。
「そうだけどな。いいじゃないか、ここにいるときぐらい」
 オーブに戻れば、きっとこんな風な時間は取れないんだから、とカガリが付け加えた。
「仕方がないよ……今は、混乱を収める方が重要だし」
 そして、この平和を恒久的なものにすることを……とキラは付け加える。
「それはそうだがな……」
 そうすれば、キラだってオーブに戻ってこれるだろうし、クルーゼも当然だ……とカガリは笑う。そうなったら、誰に遠慮することなく一緒に暮らせるな、とも。
「……キラさんが戻ってきてくだされば、俺も嬉しいです」
 さりげなくシンも口を挟んでくる。
「シンも同じ意見か! 何なら、トダカと一緒に帰るか?」
 我が意を得たり、と言うようにカガリはこう言ってきた。
「無理だよ、それは」
 一応、自分にも立場と言うものがあるんだけどね……とキラは苦笑を返す。ただでさえ、自分はオーブでは微妙な立場なのだし、とも。
「そんなこと……」  自分が黙らせる! とカガリは言い切る。
「急激な変革は人々の心に猜疑心を生み出すよ。ただでさえ、今は混乱の中にあるんだから」
 できるだけゆっくり、静かに進めなければいけないだろう、とキラは彼女に微笑みかけた。
「そうですよね。まだ、ブルーコスモスの残党も全部片づいていませんし」
 シンが即座にこう付け加える。
「お前は、どちらの味方なんだ!」
「キラさんです!」
 カガリの言葉にあまりにきっぱりと言い返す彼に、キラは思わず笑い出してしまう。
「こら、キラ! お前もだぞ、シン。今のセリフはきっちりとトダカに伝えるからな!」
 悔し紛れなのだろうか。それとも別の理由からか。カガリはこんなセリフを口にする。
「えっ! カガリ様!」
 どうやら、トダカという人物はシンが頭が上がらない存在らしい。それを知っていてのセリフだとしても、ちょっとあれではないか、とキラは思う。
「カガリ」
 他の人間ならともかく、彼女の場合、オーブの次代を担う存在なのだ。だから、と考えながらキラは口を開く。
「誰かに言いつけて何とかしてもらおうなんて、子供の考え方じゃない?」
 大人なら自分で何とかしないと……と付け加えれば、彼女は少しむっとしたような表情を作る。それでも反論をしてこないのは、カガリとしても納得するところがあったからなのかもしれない。
「それに、カガリがそうするなら、僕がムウ兄さんに今のことを報告するからね」
 だめ押しとばかりにこう口にすれば、
「それだけはやめてくれ!」
 と即座にカガリが言い返してくる。
「……あっ……」
 同時に何かを悟ったのか。小さな声を上げる。
 これなら大丈夫かな、と思いながら、キラは襟元を締めた。
「そういうことだから。どうする? 一緒に行く?」
 中に行けば、きっとフラガかマリューを捕まえられると思うけど……とキラは小首をかしげてみせる。
「行く……お前も兄様もいないのに、ここにいても意味がない」
 それくらいだったら、誰かを捕まえて何かしている方がマシだ……と彼女は言い切る。この調子では、おとなしくていてくれないかもしれないな、とキラは心の中で呟いた。
 申し訳ないが、こっそりとアイシャを呼び出してしまおうか。
 彼女であれば安心して任せられるし……と判断をする。
「わかった。じゃ、今、エレカを回してくるから」
 玄関で待っていて……とキラは言い残すと行動を開始した。
「わかった」
 カガリが納得してくれたことに安心をして、キラはそのまま部屋を出て行く。本当のことを言えば、一緒に行ってもよかったのだが。だが、それでは根回しをする時間がなくなってしまう。
 だから、と思いながらガレージへと足を踏み入れる。
 軍人用、と言うわけではないが、これには通信機が備え付けられているからこれから行おうとすることに十分役立つはず。
「断られたら、他の人に頼まないとね」
 いざとなったら開発局にねじり混んでやろう。こう決めると、キラはうっすらと笑った。