「キラ、ごめん!」 私が悪かった……とキラの顔を見た瞬間、カガリが即座にこう言ってくる。 「カガリ……」 彼女が直球勝負の人間だと言うことはよくわかっていた。しかし、せめてもう少し余裕を持って欲しかったな……とキラは心の中で呟いてしまう。同じ気持ちなのか、カガリの背後ではシンが呆然と彼女を見つめていた。 「八つ当たりをしていた……ごめん」 本当に怒りを向けなければいけなかったのはキラではないのに……と彼女は付け加える。 ここまでされてしまえば、キラとしても踏ん切りを付けなければいけないことはわかっている。カガリが、ここまでしているのだから、とは思うのだ。 あまりに予想外のことに、思考が停止してしまった……と言うことも事実である。 「……カガリ、あのね……」 それでも、何かを言わなければいけない。そう思って口を開く。だがうまく言葉が見つけられない。 いったいどうすればいいのだろうか。 混乱した頭のまま、救いを求めるかのように周囲に視線を巡らせる。だが、誰も動こうとはしてくれない。と言うことは、自分で答えを見つけなければいけないのだろうか。 本当に、戦闘中の方が楽だ……と心の中で呟いたときだ。 「そんなに難しく考えるなって」 言葉とともに大きな手がキラの頭の上に置かれる。 「ムウ兄さん……」 振り仰げば、彼が優しい微笑み浮かべているのがわかった。 「昔と一緒だろう。カガリが『ごめん』と言うなら、お前はそれを受け入れればいいだけのことだ」 あのカガリが素直に頭を下げて謝る相手は今も昔も、お前とウズミ様しかいないって……と彼は続ける。 「……あの……」 それでいいのだろうか。そうは思うものの、うまく言葉が出てこない。 「早く許してやらないと、マジでカガリが切れるぞ」 そうなると、この家ぐらい簡単に破壊しかねないからな……という言葉に、キラは思わず視線を本人へと戻す。 「信じるな、キラ! 全部嘘だ!」 先ほどまでの愁傷な態度はどこに消えたのか。いつもの口調でカガリが叫ぶ。同時に、フラガの口を押さえようと、慌てて動き出した。もっとも、その程度で彼がどうこうされるわけないが。 それはカガリもわかっているはず。 それでも、こうして彼を止めようとするのがカガリだ。 あまりにも彼女らしくて、キラが無意識のうちに笑いを漏らしてしまう。 「……キラ?」 その事実に気が付いたのだろう。カガリが動きを止めた。いや、彼女だけではない。どうしていいのかわからないように彼女のそばにいたシンや、キラの隣にいたアスランもまた同じように動きを止める。 「ダメだよ、カガリ。そんなことをしても、ムウ兄さんの性格が今から変わるはずないんだから……」 自然と、唇からこんなセリフがこぼれ落ちた。 それがどのような意味を持っているのか、カガリにもわかったのだろう。 「わかっているけどなぁ! だからといって、あることないこと言われて納得できるか!」 それはお前だってわかっているだろう、と彼女は言い返してくる。 「本当に?」 フラガが言っていることは嘘なのか、と問いかければ彼女は口をつぐむ。それが答えなのだろうと言うことは、キラにはよくわかっていた。 「ようやく、か」 困った連中だな……とイザークが呟く。 「まぁ、仕方がありませんわ。オーブとはいえ、ブルーコスモスに染まった馬鹿者がいたのですもの」 そのせいで、キラがあれこれ傷つけられたらしいと聞いている。しかも、その時の口実がカガリだったのだとか。それも関係しているのだろうとラクスは言い返した。 「……そうか」 だから、キラにとって彼女の怒りは他の誰かを相手にするのとは違う意味を持っていたのか。 イザークはこう呟く。 「それが誰なのかは知らないが……一発ぐらい殴ってやりたい気持ちだな」 さらに付け加えられた言葉に、ラクスは小さな笑いを漏らす。 「ご希望でしたら、エザリア様をとおしてウズミ様にお願いされたらいかがですか?」 許可して頂けるかもしれませんわよ……と彼女は付け加える。 「いや、いい」 それよりも……とイザークは意味ありげな笑みを浮かべた。そのまま、キラの肩を当然のように抱きしめているアスランへと視線を向ける。 「それよりは、目の前にいる相手に鬱憤を向けた方が良さそうだ」 手軽だしな……と彼は笑う。 「それはそうですわね」 確かに、あの光景は少しむかつく……とラクスも考える。いくらこの場にいる者達が皆、彼等の関係を知っているとはいえ、もう少し考えればいいだろう、とも。 「でも、実力行使はやめてくださいね」 キラが悲しみますから……とラクスは微笑みながら口にする。 「わかっています」 ただ、あの甘ったるい顔をたたき直してやるだけです、とイザークは笑う。 「頑張ってくださいませ」 そのくらいならばかまわないのではないか。むしろ望むところだ、とラクスは考えて言葉を返す。 「お任せください」 きっぱりと言葉を口にする彼に、ラクスは満足そうに頷き返した。 |