「ようやく、覚悟を決めてくださったようですわね」 アスランとカガリの様子を影からそっと見つめていたラクスがほっとしたようにこう呟く。 「カガリが決断してくだされば、キラの方は何とでもなりますもの」 本当に手がかかる双子だ、と口にしながらも、ラクスはどこか楽しげだ。 「そうですわね。式典の前に少しだけ付き合って頂きましょうか」 チャンスは一度だけですわよ、二人とも……とアスランと同じ言葉をラクスは口にする。それ以上はおそらく邪魔が入るだろう、とも。 あれだけ叩きつぶしたのに、まだ諦めない者達がいるらしい。 ラクスはそれを父から聞いていた。おそらくアスラン達もそれぞれの親から聞かされているだろう。もっとも、その理由までは知らされていないだろうが。 いや、アスランは知っているのかもしれない。 もっとも、彼の場合はそれがなくてもあの二人を守るだろうが。 同時に、どうして連中が諦めないのかもわかってしまう。 それほど魅力的なものをオーブは持っているのだ。 あれがあれば、間違いなくコーディネイターは次の発展を遂げることができる。 しかし、とラクスは心の中で呟く。 それは強引に奪ってはいけない。何故オーブの人々がそれを今まで隠していたのか、その理由を考えなければいけないのだ。 もっとも、それすらもできないからこそバカなのだろうが。 「あちらのことはバルトフェルド隊長にお任せしておけばよろしいですわね」 アイシャも張り切って動いているようだ。 ならば、自分は自分にできることをしよう。 ラクスは顔を上げると、毅然と歩き始めた。 手にした招待状を見て、キラは小さなため息をつく。それはもう何度目になるのかわからない仕草だ。 「諦めなって、キラ」 苦笑とともにアスランがこう声をかけてくる。 「ラクスからの正式な招待を拒んだらどうなるか。知っているだろう?」 よほどのことがない限り、逃走先まで使いの者が来て拉致していくんだぞ、という言葉にキラはまたため息をついてしまった。 「……わかっているけど」 実際、その光景を見たことがあるのだ。その状況に『さすがだね』としか言いようがなかったという記憶もある。 しかし、それが自分に降りかかってくる日が来るとはまったく予想していなかった。 「カガリが嫌がるんじゃないかなって……」 それ以上に厄介だと思ってしまうのはこちらの方なのだ。いまだに自分の中で折り合いが付いていないのに、とも考えてしまう。 「カガリは嫌がっているんじゃなくて、お前を怒鳴りつけてしまった自分が恥ずかしいだけだよ」 振り上げた矛先をうまく収めきれなくて慌てているだけだ、とアスランは苦笑を浮かべながら口にする。 「お前に会えばきっと踏ん切りを付けられるって」 だから、そちらの方は心配いらないと彼は続けた。 「……アスラン……」 「隊長やムウ兄さんほどじゃないけど、俺もお前達のことはよく知っているつもりだからな」 だから、信用しろ……と言われて、キラは頷いてみせる。それでも踏ん切りが付かないのは、きっと自分が『こわい』と思っているからだろう。 「それに、ここにはあのバカはいないぞ」 キラがコーディネイターだからと言って排斥するような人間はいないから……とアスランは口にしながら、そっとキラの体を自分の方に引き寄せる。 「カガリ達だって、そうだろう?」 だから安心しろという言葉にキラは取りあえず頷いてみた。 それでも、すぐに納得できるはずはない。 「……これなら、まだ戦闘の方が楽かも……」 いろいろな意味で、と思わず呟いてしまう。 「まぁ、それは否定できないけどな」 それでも、一応戦争は終わっているのだから、とアスランはキラの髪に指を絡めてくる。でなければ、こんな風に悩んでなんかいられないだろう、とも。 「そうだね」 確かに、戦場に行けば無理にでも意識を変えなければいけない。こんなことでぐだぐだとしていれば、命をあっさりと失う結果になってしまうのだ。 それだけは絶対に避けなければいけない。 これは繰り返しいわれてきた言葉だ。 キラの存在は、二つの種族がそれぞれ手を取り合って進もうと決めたときにこそ必要になる。だからこそ、何があっても生き残らなければいけないのだ、と。 でも、それは本当なのか、といつも考えていた。 自分は生きていていいのか、とも。 『人のぬくもりを知らずに生まれてきた奴は、人の痛みも理解できないのだろうが! だったら、感情などない方が道具として使えるのにな』 今でも耳の奥にこびりついてくれている言葉が、キラの心を縛っている。 「カガリが謝ってこなかったら、そのまま荷物をまとめて俺の所においで。約束したとおり、ずっと一緒にいよう?」 しかし、それをアスランの言葉が即座に打ち砕いてくれた。 「アスラン……」 「問題なのは、そうすると次の日にはラクスが押しかけてきて、他の連中も入り浸ってくれることだろうけどな」 まぁ、それに関してはきちんと防護策をとる差……とアスランは笑う。どこまで本気なのかはわからないが、そう言ってくれるのが嬉しい。彼も、あの言葉を耳にしているのに、だ。 「ありがとう、アスラン」 ふわりと微笑むと、キラはこう呟いた。 |