そのころキラは、珍しく顔を見せたミゲルとラスティとお茶をしていた。
「まぁ、気持ちはわかるけどなぁ。いい加減、会ってやらないと……まずいって」
 ミゲルのこの言葉に、キラは苦笑を返す。
「わかっているって言いたいんだろうけど……でも、早くしないとマジでクライン邸全壊するかもよ」
 そんなキラの表情を見て、今度はラスティがこう言ってきた。
「そこまではしない……と思うんだけどね」
 いくらカガリでも、と呟くように口にする。
「ただ……ちょっと、まだ心の準備ができないって言うか……ケガをしたらまずいかなとか、そう思うんだよね」
 五体満足でいたいから、と冗談めかして付け加えるが、二人ともそれには乗ってこない。むしろ表情をさらに険しくした。
「どうしたの?」
 こう問いかければ、ミゲルがわざとらしいため息をついてみせる。
「俺にまで、そういう態度が通用するとは思っていないよな?」
 そして、こう問いかけて来た。
「本気だったんだけど、半分は」
 即座にキラはこう言い返す。後の半分は、やっぱり泣かれるのがこわいから、とキラは付け加える。カガリが泣くことは滅多にないから、余計に……とも。
「一人で行きにいくいんなら、付き合うけど?」
 彼女の性格からすれば、他人の目があれば体面を取り繕うだろう、とラスティが言って来る。その分析もある意味――というよりもかなり正しいな、とキラは感心をする。
「そうだな。俺たちだけで足りなきゃ、アスランはもちろん、他の三人も呼び出すけど?」
 自分たちとしても、その方が安心だし……とミゲルが付け加えてきた。
「安心って……」  自分は誰かにそばにいてもらわなければいけない子供か……とキラは本気で悩む。もっとも、そう思っていそうな人間に心当たりがないわけではない。そして、彼等二人とも共通して面識があり、なおかつ個人的な相談を持ちかける人間というのも該当人物を上げることができた。
「アスランと隊長、どっちに頼まれたの?」
 にっこりと微笑みながら問いかければ、二人とも視線をさりげなく彷徨わせている。
「どっち?」
 教えて、とキラはさらに言葉を重ねた。
 仕方がないと思ったのか――それとも、本気でキラを怒らせるとまずいと判断したのか――ミゲルがため息とともに口を開く。
「俺が隊長で、ラスティがアスラン」
 別々から頼まれて、話をしていたら内容が同じだった、と言うことだよ……と彼は付け加える。
 ある意味、予想していた内容ではあるが、まさか本当にするとは思わなかった。それがキラの本音だった。
「……過保護……」
 それも、直接自分に来ないで周囲に根回しをする辺りが余計に……と呟く。
「それだけ心配なんだろう。あちらのお姫様も、そろそろオーブからの迎えが来るんだろう?」
 その前に何とかしたいだけじゃないのか、という言葉にはキラも頷く。
「確か、クサナギが衛星軌道上に出た……と言う話だから、そうかもしれないね」
 しかし、それとこれとは微妙に違うような気がする……と思うのは勝手なのか。
「まぁまぁ。細かいことは気にするなって。それよりも、さっさと仲直りしてすっきりと別れた方がいいぞ」
 でないと、後々アスランがいじける……と言うのはどういう意味なのだろう。本気で悩んでしまうキラだった。

 久々に顔を合わせたカガリは、確かに憔悴しているように思える。
 だからといって、キラの葛藤もわかっているからうかつに声をかけられないのだが……とアスランはため息をつく。それでも、立場上、声をかけなければいけないと言うことも事実だ。
「だから、さっさと謝れ、と言ったんだ、俺は」
 少し厳しい口調になってしまうのは、きっとキラの様子を間近で見ていたからだろう。同じ立場のクルーゼと違って、自分にはキラの方が優先順位が高いから、とも心の中で付け加える。
「簡単に言うがな……」
 カガリが小さな声で言葉を返してきた。
「考えたら……自分のせいでキラを怒鳴りつけたのは、今回で二度目だ……」
 それだけならばいいが……と彼女は視線を落とす。
「前の時、それでさんざんバカにキラはいじめられたからな。そのせいで、他人を傷つけるのを怖がっているって言うのも知っているし……だから、うまく踏ん切りが付かない」
 何か、どこかで聞いたようなセリフを……とアスランは心の中で呟く。本当に、この双子は余計なところだけがそっくりだ、とも思う。
「で、このまま別れて、終わりにしたいのか?」
 キラのためにはその方がいいかもな、と少し突き放すような口調で付け加える。
「どういう意味だ?」
「お前を吹っ切れるだろう?」
 何だかんだと言っても、キラはカガリのことを気にかけていたのだ。でも、彼女に嫌われたと思いこめば、少しは状況が変わるのではないだろうか。完全には無理だとわかっていても、そう言いたくなってしまう。
「そんなこと、させるか!」
 キラは自分の大切な弟だ! とカガリは口にする。
「その弟を悩ませて、それでよくそんなことを言えるな」
 そもそも、自分のミスだとわかっているのであれば、即座に謝るのが当然だろう、とアスランは言い返す。
「あのバカのことは俺も覚えているから、キラには無理強いはできない。でも、お前は違うだろう?」
 カガリが踏ん切れば、いつだって彼の元にいけるはずだ。そう言えば彼女はアスランから視線をそらす。
「まぁ、いいけどな。お前がそういう態度なら……俺はキラを手放さないだけだし」
 今だって、そのつもりだが……それでも、彼がオーブに帰りたいと言えば止めることはできないと思っていた。しかし、カガリがこのままなら、どんなことをしてでも邪魔して見せる、と思う。
「……キラはお前のものじゃない!」
「でも、俺の恋人だぞ。公認の」
 こう言うときは開き直った方が勝つに決まっているだろう、とアスランは心の中で呟く。実際、カガリはあまりのことに返す言葉も見つけられないようだった。
「ともかく、お前が動けないというなら、機会を作ってやる。そこでちゃんと謝れ」
 チャンスは一度だけだ。そう言えば、カガリは小さく頷いて見せた。