カガリとキラを拉致しようとした者達の取り調べを終えたバルトフェルドはまっすぐにクルーゼの元に足を運んだ。それにアイシャも同行していたのは、内容が内容だから、だろうか。
「……なるほど……その情報を入手したものは、ずいぶんと優秀だといえるな」
 クルーゼは小さな苦笑とともにこう告げる。
「じゃ、本当なノ?」
 目を輝かせてアイシャがこう問いかけてきた。やはり、こういうことは女性の方が切実なのかもしれない、とクルーゼは思う。それだからこそ、今はいない《彼》も研究を進めていたのだから当然なのだろうが。
「本当ですよ、アイシャ殿。既に、成功例もいくつか出ています」
 もっとも、と続ける。
「ブルーコスモスに知られそうになったのでね。その時点で実験を凍結し、データーを隠しましたが」
 プラントの技術力があれば、その数年間を取り戻すことは難しくないだろう。
 だが、ブルーコスモスにそれを与えてしまえばどうなっていたことか。今ですら、強引に《戦うため》だけの存在を生み出しているのだ。
「それは正しい判断だった、と言うべきだろうね」
 もし、あれらがもっとたくさんいれば、自分たちは勝てなかったかもしれない。バルトフェルドは静かに頷く。何よりも、そんなものを連中に与えてしまえば、本来の役割を果たすことは永久になくなるだろう。
「……でも、どうして知らせなかったノ?」
 自分たちに、とアイシャはまだ不満を隠せないという表情で問いかけてくる。
「残念ですが、プラント上層部にも、それを望まぬものがいたのでね。その実験そのものを打ち壊そうとしてくれたのですよ。ですから、クライン議長とザラ委員長が実権を握られるまでは内密にしていた、と言うわけです」
 彼等であれば信頼できる。
 研究をしていた者達も含めて、そう考えていたのだ……とクルーゼは口にした。だからこそ、彼等は自分たちもあの二人に預けたのだ。しかし、こちらは口に出さない方がいいだろう。
「まぁ……どこにもバカはいるからな」
 実際、自分たちはそれを目の当たりにしてきたのだ。
 だから、彼等に文句は言えないよな……とバルトフェルドはアイシャに告げる。
「そうネ。あれ以上のバカども相手じゃ、隠した方がマシだワ」
 直接会ったことがない自分たちですら、その噂は知っているのだ。だから、実際に顔を合わせたことがあるウズミ・ナラ・アスハがそう判断をしたとしても文句を言えないだろう、とアイシャも頷く。
「……おそらく、今度のことが完全に片づけば……そのデーターは引き渡されるだろうね」
 いくつかの条件と引き替えに……と言う言葉をクルーゼは飲み込む。
「そうであって欲しいわ」
 コーディネイターの未来のためだけではなく、自分たちのためにも……とアイシャは真顔で口にする。
「だからといって、あの子達のような子供がもてるとは限らないんだがね、僕たちの場合」
 むしろ、あちらのオコサマのように育つ可能性の方が高いのではないかとバルトフェルドは微苦笑を浮かべる。
「まぁ、それは現実になってから、のことだがね」
 その前にしなければいけないことがまだ山積みだ……と彼は付け加えた。
「わかっているわヨ」
 それが終わってからも、まだまだ時間がかかると言うこともわかっている、とアイシャは口にする。それでも、と夢ぐらい見てもいいではないか、と彼女は言い返してきた。
「それは自由でしょうな」
 ただ、そのための努力が必要なのだ……とクルーゼは苦笑とともに告げる。
「まずは、条約の締結だろうね。それまで……カガリ嬢の身柄は守らなければいけないわけだ」
「あの男がそばにいるから大丈夫だ、とは思いますがね」
 それに歌姫も、と付け加えれば、アイシャが首をかしげてみせる。
「まだ、キラはあのことケンカしているノ?」
 てっきり、キラもカガリの元に行っているとばかり思っていたのだが……と問いかけてきた。
「複雑な事情がありましてね」
 まぁ、聞いただけでもあのカガリの様子では納得するしかないだろう……とクルーゼは苦笑を深める。
「キラにしてみれば、彼女をあれだけ怒らせてしまった……と言うことに一番の衝撃を受けているはずですよ」
 だからこそ、恐怖を感じている。
 それを何とか乗り越えようとしている以上、しばらく見守り続けるしかないのだろう、とクルーゼは付け加えた。
「……なるほど、ね」
 難しい問題だな、とバルトフェルドは頷く。
「まぁ……ラクス嬢が機会を作ってくださるという話ですのでね。それまでには何とかなると思いますが」
 その機会を逃せば、きっと、しこりが残るに決まっている。だから、それまでには何とかさせたいところだ……というのは、自分たちの共通した思いだ。
 キラにそんな気持ちを植え込んでくれた馬鹿者はウズミがしっかりと処罰してくれているはずだし、とも。
「アスランにも頑張ってもらう予定ですしね」
 彼はその時の状況を知っている。自分に教えてくれたのもアスランなのだ。
「そのくらいの甲斐性がなければ、あの子を預けられませんよ」
 苦笑とともに付け加えれば、アイシャが意味ありげな微笑みを口元に刻む。
「そうよネ。ここで頑張らないと、シン君に取られちゃうわネ」
 その表情のままこう告げる。
「おやおや。君はシンびいきかね」
 確かに、いいこではあるが……とバルトフェルドは笑う。
「だって、いい男になるわヨ、あの子」
 貴方ほどではないかもしれないが……とさりげなくのろけを口にする彼女に、バルトフェルドだけではなくクルーゼも苦笑を浮かべる。
「では、アスランに発破をかけておきますか」
 自分としては、キラと一緒に面倒を見ていた彼の方が可愛いのでね……とクルーゼは口にした。
 それに、二人は笑い返す。
「では、あちらの方は任せておきたまえ」
 クルーゼ達が出てくるよりもその方がいいだろう。こう口にするバルトフェルドにクルーゼは静かに頷いて見せた。