急いでキラ達と合流をしなければ……と思いながら、ラクスは廊下を進んでいく。
「ラクスさん」
 そんな彼女の耳に聞き覚えがある声が届いた。
「ニコル様」
 ふわりと微笑みを作ると、ラクスは彼の方へと視線を向ける。
「ここでお会いするとは思いませんでしたわ」
 てっきりキラ達の元に言っているかと思ったのに……と心の中だけで付け加えた。そうなるように、父から根回しをしてもらっていたのに、ともだ。もちろん、目の前の相手にそれがわからないはずがないことも知っている。
「イザーク達において行かれまして。ちょうど良かったので、今度のコンサートの打ち合わせをさせて頂こうかと」
 しかし、ニコルはさらに笑みを深めるとこう言い返してきた。
「あちらにはアスランもいますが……キラさんがいてくれれば大丈夫でしょう」
 ミゲルはマリューのそばに行っているはずだ、とさりげなく彼は付け加える。他にも、バルトフェルド隊からも信頼できる人間がついて行っているし、シンもいる……とも。
「そうですわね」
 どうやら、彼は自分の護衛役としてここに来たらしい。確かに、彼であれば一番疑われないだろう、と心の中で付け加える。一番の名目があるのだ。
「確かに、そろそろお伺いをしようと思っておりましたわ」
 笑顔を微妙に変えながらラクスは言葉を口にする。
「本来であれば、クルーゼ隊の一員であるニコル様にお手伝いをして頂くのは心苦しいのですが」
「あぁ、お気遣いなく」
 にっこりと微笑みながらニコルは言葉を返してくる。
「キラさんとカガリさんに僕のピアノを是非聞いて頂きたいですから」
 キラには他の機会があるかもしれないが、カガリであれば難しいだろう。彼はこうも付け加える。もちろん、その意味がわからないラクスではない。
「大丈夫ですわよ。これからも機会はありますわ」
 もっとも、カガリもアスランと似たり寄ったりで、芸術方面には疎いようだ。ただ、アスランのようにまったく素養がないわけではなく、単に興味がないだけらしい。
 だから、カガリはラクスの歌は気持ちよく聴いてくれている。それだけでもアスランとは大違いだ、と思う。
「もっとも、カガリの興味を引かなければいけませんけど」
 それができれば、彼女はきっとニコルのぴあのを聞いてくれるはず……とラクスは付け加える。
「まぁ、キラさんのご姉弟ですからね。誰かさんとは基本が違いますよね」
 ニコルもカガリが何を言いたいのかわかったらしい。苦笑とともにこう言ってくる。
「そうですわ。ですから、興味を持って頂けるように頑張らないといけません」
 その前に、厄介な連中を片づけなければいけないのだが。この言葉を口にしなくてもニコルには伝わったらしい。
「そうですね。まだちょっと残っている厄介ごとをさっさと片づけて、楽しいことを考えましょう」
 きっぱりと言い切ったニコルに、ラクスは満足そうな微笑みを浮かべた。

「……なぁ……」
 目の前の光景から視線をそらないまま、ラスティがキラに声をかける。
「実は、あの二人って……仲がいいのか?」
「……そうかも」
 キラも同じ光景に視線を向けたまま頷いて見せた。
「カガリが凄く楽しそうだ」
 だが、この言葉に頷いてもいいものだろうか。ちょっと悩む。
「そうなのか?」
 というよりも、本気でケンカをしているようにしか思えないのだが……とラスティは心の中で呟く。まぁ、イザークが楽しんでいるらしいというのは事実だろうが。
「そうだな。カガリが本気で怒っていれば……口よりも手が出ている」
 アスランもため息をつきながらこう言ってきた。
「……イザークは女性には手をださな……とは思うけどな」
 でも、そうなったらどれだけ自制できるか……とディアッカも参戦してくる。
「どうする? 止める?」
 キラがみんなを見つめながらこう問いかけてきた。彼ならば、いや、彼でなければ不可能だろう、そんなこと。
「その方がいいかもな」
 不意にある音が耳に届く。それに気づいて、ラスティはこう口にした。
「……イザークが気づいているようだから、心配はいらないと思うが……」
 むしろ、あのままケンカをしてもらっていた方がいいのではないか……とディアッカが言う。その方があちらに気づかれずにすむだろう、とも。
「バカを捕まえるには誘い込んだ方が有利か」
 確かに、その方があれこれ準備ができていいか、とはラスティも思う。だが、それと彼女に気づかせないのとは違うのではないかとは思う。
「カガリが知っていれば、絶対つっこむな」
 自力で何とかしようとして……とラスティの疑問に答えをくれたのはアスランだ。
「そっちの方が厄介だよね」
 フォローが難しくなる、とキラも頷く。
「いきなりなら、状況を把握する前にこっちが終わらせてしまえばいいだろうし」
 そういう問題なのか、とかそんなことが可能なのか、とか、言いたいことはたくさんある。だが、キラは可能だと考えているのだろう。そして、ラスティ自身、不可能だとは思っていない。
 実戦経験はともかく、実力だけはあるメンバーがここにはそろっているのだ。
「そうだな。その時はキラがカガリのフォローをしてくれ」
「何で?」
「お前が一番、カガリの扱いになれているからに決まっているだろう?」
 それだけが理由ではないと、キラも気づいているだろう。しかし、それ以上は何も言ってこない。それはきっと、自分でも他人を傷つけるのが苦手だ、と自覚しているからだろう。
「……わかった」
 それでもどこか不満そうに見える。そう言うところも、やっぱり似ているな……と思いながらラスティはカガリへと視線を戻す。
 まるでそれを待っていたかのように彼らがいた部屋のドアが開かれた。そして、そこにいたのは見たこともない連中である。
「何だ、貴様らは!」
 イザークのこの叫びを合図に、ラスティ達は行動を開始した。