戦争が終わってしまえば、ただの一兵士でしかない自分たちにできることはほとんどない。だから、待機を命じられていたとしても当然のことだ、とはわかっている。
「……とは言っても……」
 無意味に過ごすのもな……とアスランはため息をつく。
「たまにはいいんじゃない?」
 苦笑とともにキラが言い返してきた。
「まぁ……僕も初めてだけどね」
 こんな風に何の仕事もないまま待機……と言うのは、とキラは続ける。
「でも、あの二人を最終的に止められるとすれば……僕たち以外にはあの方々だけだろうし……」
 それこそ、彼等にそんな状況を押しつけるわけにはいかないだろう……という言葉に、アスランも苦笑を浮かべながら頷くしかない。
「確かにな。ただでさえ、オーブのごたごたが響いているようだしな」
 早速というか何というか。ウズミが反撃に出たのだ、という。それに対して、地球軍の勢力を味方に付けているセイランが諦める気配を見せないのだとか。
 それでも、ウズミはプラントの助力をあてにしていないらしい。
 彼が何故そのような判断をしたのか、アスランにも理由は想像ができる。しかし、それでいいのだろうか……とも思うのだ。
「大丈夫だよ」
 その時だ。キラがこう言ってくる。
「キラ?」
「ラクスがね。ちゃんと手配をしてくれているから」
 ザフトとばれなきゃいいんだしね……と彼は苦笑とともに付け加えた。
「……あぁ、なるほど」
 と言うことは、少なくとも誰かそばに信頼できる人間がいる、と言うことか。そして、最悪の事態にだけはならないようにしているのだろう。
「本当はムウ兄さんが『行く』っていっていたんだけどね。さすがに、カガリを止める時のことを考えると、ね」
 自分だけでは役不足だろうし、そのためだけにクルーゼを呼び戻すわけにはいかないから……という言葉に、アスランも思わず頷いてみせる。
「確かに。カガリだけなら何とかなるが……二人だときついか」
 どちらかだけであれば、自分たちが二人がかりで止めることができるだろう。しかし、二人となれば……とアスランも思う。
「そう言うこと」
 逆に、フラガだけでも二人一緒には止められないだろう……とキラは言い切る。
「あのムウ兄さんでも止められないなんて……」
 事実とはわかっていても、やはり……とアスランはため息をつく。
「ラクスほど、見かけと中身のギャップが大きい人間もいないかもな」
 ためをはれるのはニコルだけだろう。だが、彼は間違いなく《男》だから、その点では納得できるかもしれない。となれば、はやりラクスが一番と言うことにならないか。
「いいんじゃない。カガリにしても、刺激になっているようだし」
 いずれ、この経験がプラスになる日が来るよ……とキラは笑う。
「だといいけどな」
 言葉とともにアスランはそっと彼の髪に指を絡めた。
「でも、キラと同じ顔でラクスの性格……」
 カガリのことだからそれはあり得ないと言っていい。だが、別の可能性があるのか……とアスランは今更ながら思いつく。もっとも、それはかなりの確率で阻止できるかもしれないが。
「……大丈夫……そうなっても、ラウ兄さんがしっかりと矯正してくれるよ……」
 キラはキラで別のことを考えていたらしい。
「だといいがな」
 ラクスの影響は多大だからな……とアスランは苦笑を返す。
「……ともかく、女性陣のがんばりを見守るしかないんだがな、今は」
 それ以外にできることはない、と付け加えれば、キラも苦笑を浮かべた。
「ある意味、それが一番こわいんだけど……ウズミ様に早くオーブを掌握して頂くしかないんだろうね」
 いっそ、セイラン家のホストにウィルスでも送りつけてやろうか……とキラはその表情のまま付け加える。
「いいかもな、それ」
 少なくとも、その準備をしている間は暇だと思わないですむだろう。アスランがそう言えば、キラは小さく頷く。
「だよね。何もできないって言うのは、一番辛いし」
 だったら、いっそ休暇にしてくれと思うよ……と彼は付け加える。それなら、何の遠慮もなく眠ったりできるのに、とも。
「そうだよな」
 ふっとあることを思いついてアスランは微妙に微笑みの色を変える。
「アスラン?」
 どうかしたの? と表情の違いに気づいたキラはアスランの方に顔を寄せて来た。その瞬間、アスランはキラの体を引き寄せる。そして、そのまま唇を重ねる。
「……アスラン……」
 すぐに唇を解放したが、それでもキラの機嫌を損ねるには十分だったらしい。
「大丈夫。キラが叫ばなければ、ばれないから」
 それがあるからこそ、怒鳴りつけてこないのだろう。そう思ってアスランはこう口にした。
「それに……こう言うときだからこそしたかったんだ」
 即座に真顔を作るとこういう。そうすれば、キラが何も言えなくなる、永久勝手の行動だ。
「アスラン……」
 あきれたのかそれとも困っているのか。キラが盛大にため息をつく。
「愛してるよ、キラ」
 きれいに微笑みながら、アスランはさらに言葉を重ねる。次の瞬間、キラの頬が真っ赤に染まった。
「アスラン!」
 その表情のまま、キラが怒鳴る。
 間違いなく、それが耳に入ったのだろう。ばたばたと足音を立ててカガリ達がこちらに向かってくるのがわかる。
「本当のことだからね」
 誰に何を言われても困らない、とアスランは言い切った。
「……バカ……」
 その言葉に、キラがため息をつく。
「アスラン、貴様!」
 同時に、カガリの怒鳴り声が周囲に響き渡った。