ぐったりとアスランに体を預けながら、キラが必死に呼吸を整えようとしている。そんな彼の体を、アスランは抱き上げた。
「……ずるい……」
 そうすれば、キラがこんなセリフを口にしてくる。
「ずるいって、何が?」
 気が付かないうちに何かをしてしまったのだろうか。そう思いながら、アスランはこう問いかけた。そうすれば、キラは頬を微かに赤くする。
「だって、僕は動けないのに、アスランは平気じゃない」
 いつもそう思っていたんだけど……と彼は続けた。
「それこそ……負担の度合いが違うんだから、仕方がないよ」
 どうしても、キラの方が負担が大きいのだから……とアスランは付け加える。だから、こうして動けなくなるのも仕方がない、とも。
 しかし、それでもキラは納得できないらしい。
「それでも、やっぱり、ずるい……」
 ぶつぶつと呟いているキラに苦笑を漏らすと、アスランはそのままシャワールームへと向かう。
「アスラン!」
「そのままだと気持ち悪いだろう? でも、一人じゃ立てなさそうだし」
 だから、ちゃんと洗ってやるよ……とアスランはキラの耳元で囁く。
「……誰のせいだよ、誰の」
 それがさらにキラの機嫌を降下させたらしい。アスランの耳元で彼はこう叫ぶ。
「俺のせいだよ」
 わかってるって……と笑いを漏らす。それがキラの機嫌をさらに降下させるとはわかっていてもやめられない。彼にこんな表情をさせられるのは自分だけなのだし、それだけでも十二分だとも思うのだ。
「だから、ちゃんと責任を持ってきれいにしてやるよ」
 それから、ココアを入れてやるから……と付け加える。
「……僕は、もう食べ物でごまかされるような年齢じゃないんだけど……」
「でも、好きだろう?」
 キラの言葉にアスランは即座にこう問いかけた。
「……好きだよ……」
 ぼそりと、キラは小さな声で肯定の言葉を口にする。
「それに、俺も好きだよな?」
 さらに追い打ちをかけるようにアスランはさらなる問いかけの言葉を口にした。
「アスラン!」
 それに、キラは顔を真っ赤にして叫ぶ。
「本当のことだろう?」
 それだけは間違いのない事実だ、とアスランはいつでも胸を張って言うことができる。そして、キラも否定はしないはずだ。
 だが、と心の中で付け加える。
 彼が言葉にしてそれを伝えてくれるのは本当に珍しい。さっきだって、生きるか死ぬかの戦闘が終わってほっとしたからこそ、先に言ってくれたに決まっている。でなければ、自分がさんざん焦らしてからでなれければ、あんなセリフを口にしてくれなのだ、キラは。
「……バカ……」
 今も、この一言しかくれない。だが、それでも十分だ……とアスランは心の中で呟いていた。

 目の前で、次々とセイラン家の私兵が捕らえられていく。その光景はある意味壮観だと言っていいのだろうか。
「……キサカ……」
 さすがのウズミも、目の前の光景に何と言っていいのかわからない。
 なぜなら、自分たちの前で次々と捕縛しているのは、オーブの軍人達ではないのだ。もちろん、ザフトのそれでもない。
「まさか、ギルドを動かせるとは……」
 ウズミの護衛のために残ったキサカも、その役目すら忘れてこう呟いている。
「まぁ……カガリの友人となってくれたのであれば……心強いとしか言いようがないのですが……」
 しかし、確か彼女もカガリ達と同じ年齢ではなかっただろうか。それなのに、この手際の良さは……と彼はうめくように口にする。
「キラも、こちらに戻ってきたときにはカガリなど太刀打ちできないほどしっかりとしていたしな」
 だが、とウズミは心の中で呟く。それは、彼等が自分たちよりもよっぽど死に近しいところにいたからだろう。それもわかっている。
 キラとラウ。
 彼等の命を守るためだったとは言え、友人達に預けてよかったのか。
 自分が自らの手で大切な者達を守らなければいけなかったかのかもしれない。そう思う。
 だが、とウズミは心の中で付け加える。
 自分が手放したからこそ、彼等は誰よりも大きな存在になり得たのではないか。もちろん、その裏にどれだけの努力が隠されているかも知っている。
 だからこそだ。
 そんな彼等のために自分がしてやれることは一つしかないだろう。ウズミはそう思う。
 彼等がいつ帰ってきても、決して命をねらわれるようなことがない国を作る。
 そのためには現在この国に巣くっている《膿》を全て絞り出さなければいけないだろう。
 その中でも一番厄介な存在。
 何よりも、それを排除しなければいけない。
 だが、それは国内の混乱を引き起こすことでもある。
 しかし、今であればそれは最小限に抑えることができるのではないか。
「ならば、私も動かなければなるまい」
 次世代を担う者達のために……
 ウズミのこの言葉に、キサカは、ただ静かに頷いて見せた。