目を開けば、目の前には見覚えのある天井が広がっていた。
「……あれ?」
 何で……とキラは一瞬、悩む。
「目が覚めた?」
 次の瞬間、声とともにアスランの顔が視界の中に飛び込んできた。それで、ここがエターナルで与えられた自分たちの部屋なのだとわかる。
「……ひょっとして……」
 またやった? とキラは彼に問いかけた。
「今日は仕方がないよ」
 そうすれば、苦笑とともにこう言い返される。
「……本当に……」
 どうして自分はこうなのだろうか。クルーゼ達の元でならともかく、ここはバルトフェルドの隊なのに、とも思う。
「報告はすませてある。バルトフェルド隊長もゆっくりと休めとおっしゃっていたよ」
 自分が報告をした時点でばれていたらしいな……とアスランは苦笑を浮かべながら付け加える。その事実に、キラは思わず毛布を頭の上まで引き上げてしまった。
 確かに、彼ならば知っているだろう。それはわかっている。前に彼の隊を手伝いに行ったときにやったことがあるのだ。それで大騒ぎになったことも覚えている。あの時は、たまたま同じ場所に同期入隊の人間がいたから、それで何とかなったのだ。でなければ、入院ぐらいさせられていたかもしれない。
 しかし、そのせいでアイシャの庇護意欲を買ってしまうことになったと言うことも否定できない事実ではあるな……とキラは心の中で付け加える。
「キ〜ラ」
 しかし、そんなことをアスランが知っているわけはない。彼は優しい声でキラの名を呼びながらぽんぽんと毛布を叩いてくる。
「頼むから、顔を見せて?」
 ね、とアスランはさらに言葉を重ねてきた。ようやく、ゆっくりとキラの顔を見ても怒られない状況になったのだから、とも彼は付け加える。
「僕の顔なんか見なくても、いいじゃない」
 それよりも、一応ラクスに連絡を入れておいた方がいいのではないか。キラはこう言い返す。公的には婚約者同士なのだし、とも付け加えた。
「……ラクスから、今忙しいから後にしろというメールが届いていたよ。カガリと、何か画策しているらしい」
 あはははは、と乾いた笑いを漏らした彼の様子に、キラは慌てて毛布から顔を出した。
「カガリと、ラクスが?」
 何か、とんでもない組み合わせだ……と思ってしまうのは自分だけではないのではないか。そんなことを考えてしまう。
「そう……あの二人が……」
 何をやらかしているのか……とアスランはため息をつく。
「……何か、考えたくない……」
 この時期に動いていると言うことは、目的は一つしかないだろう。だが、そのための方法をと考えれば、こわい結果にしかならないのだ。
「俺も、だ」
 はっきり言ってこわいなどと言うものではない……とアスランも頷いてみせる。
「父上達が適当なところで止めてくれると思うんだが……」
「……ムウ兄さんは、今ひとつあてになりそうにないから……」
 そうでなければ安心していられるんだけど、彼の場合カガリを煽って求めることはしてくれないだろう。そう思ってしまうのだ。
「キラ……忘れようか、二人で」
 不意にアスランがこんなセリフを口にしてくる。
「アスラン?」
 忘れたくても忘れられるわけないだろう、とそう思う。
 ラクスだけならばともかく、自分の片割れまで関わっているのだ。そして、彼女を守り、支えるのが自分の役目だ、とそうも思っているのだから。
「今だけでもいい……っていうか、本国に戻るまででいいから」
 でないと、ゆっくりと休むこともできない……と言う意見に関してな賛成だと言っていい。
「……どうやって?」
 そんなことをするのは不可能ではないか。そう思いながら、キラは問いかける。
「こうやって」
 次の瞬間、アスランがキラの唇に自分のそれを重ねてきた。それが何を意味しているのか、キラにもわかる。それに、ここしばらくご無沙汰だった、と言うこともだ。
「……アスラン……」
「ダメか」
 今だからこそ、キラに触れたい……とアスランは囁いてくる。そうすれば、お互い生きていることを実感できるから、とも。
 その理由はキラも納得できる。
 いや、自分だって同じ気持ちだ、と言ってもいいかもしれない。
「……明日、起きれなくなるのがいやだよ……」
 取りあえず、これだけは主張しておく。明日の勤務時間に顔を出さなければ、何を言われるかわかったものではないのだ。
「わかってる」
 そうなれば、イヤミを言われるのは自分だし……とアスランはどこか楽しそうな口調で囁きながら、毛布の中に滑り込んでくる。そのままキラの体をしっかりと抱きしめてきた。
「……キラ……」
 囁きとともに頬にキスが落ちてくる。
 触れあった場所から、ぬくもりが伝わってきた。それが、生きていると言うことを改めて実感させてくれる。
「アスラン、大好き」
 その彼の背中に自分から腕を回しながら、キラはこう囁いた。