生き残った者達はそれぞれ母艦へと戻っていく。キラやアスランも同じだ。 「キラさん! アスランさん……」 そんな彼等を出迎えるために、シンはデッキへと降りていた。 「キラさん?」 しかし、目の前でキラはぐったり力を失った状況でアスランの腕の中にいる。しかも、そのまぶたを固く閉じて、だ。 いったい、何かあったのだろうか。 そう思いながら呼びかける。 「あぁ、シンは初めて見るんだな」 アスランが苦笑とともにこう言ってきた。その表情からは、少しも不安が感じられない。 「激しい戦闘の後、キラはいつもこうなんだよ。ミゲルや隊長は『電池切れ』と言っていたかな」 一晩ねれば、いつも通りに戻るから安心していい……と彼は続ける。 「そう、なんですか?」 それでも、どこか不安を隠せないという口調でシンは問いかけた。万が一と言うこともあるのではないか。そうも思ったのだ。 「そうだよ。呼吸も平常だし、脈も落ち着いているからね。本当に、ただ眠っているだけ」 まぁ、知らない人間が見れば焦るよな……とアスランは付け加える。自分たちも、一番最初の時は何が起こったのかわからなかったのだ、とも。 「だけど……どんなに激しい戦闘の後でも、すぐに何かあるかもしれない……と言うときにはこうならないんだよな」 キラなりに安心できると判断したときでなければ見られないのだ、という言葉に、シンは取りあえず納得をした。 「一応……降伏したから……」 もっとも、それはこの場にいる者達だけで、月や地球にいる連中がどう出るかはわからない。だが、すぐに戦闘が再開されることだけはないだろう……とシンも思う。 「そうだな」 ともかく、キラを頼む……と言いながらアスランはそっとキラの体をシンの方へと差し出してくる。 「あ、はい」 このままではどこまで流されていくのかわからない。だから、シンも慌てて彼の体を受け取った。しかし、それでもキラの意識は戻らない。それがいいことなのかどうなのか、シンにはわからなかった。 「控え室まで連れて行ってくれ。取りあえず、俺はバルトフェルド隊長に報告をしてくるから」 さすがに、キラが目覚めるまで放っておくわけにはいかないだろうから……と彼はため息をつく。 「一応、ご存じだ、とは思うんだけどな。キラのことを」 だから、俺でもいいんじゃないか……と思うんだが、とアスランが付け加えたのは、間違いなくキラの方が立場が上だから、だろう。 「わかりました。取りあえず……前だけゆるめておきます」 さすがに勝手に脱がすわけにはいかないだろうから……とシンは口にする。 「そうしてやってくれ」 着替えその他は自分がやるから……と言う言葉に、少しだけねたましさを感じてしまう。こう言うときに、キラに選ばれたのは彼で自分ではないと認識させられるのだ。 でも、とシンは思い直す。 自分が無体なことを信じてくれているから、アスランも自分にキラを預けてくれたのではないか。 それを『認められた』と認識するか、それとも『箸にも棒にもかからない』と思われていると考えるかで状況は代わってくるのではないか。シンはそう判断をする。 「頼むな」 「はい」 ともかく、キラを預けてくれることだけは感謝しよう。そう考えて、シンは素直に首を縦に振った。 「ご苦労様でした」 ヴェサリウスへ帰還すれば、即座に整備チーフが即座に近づいてくる。 「……被害は?」 「少なくとも、うちのパイロット達とその下に配属された者達にはないようです」 他の者達はわかりませんが……と彼は即座に言葉を返してきた。 「そうか」 だが、自分が知りたかったのはそれだけだ。他の者達のことまで面倒を見きれないからな……と心の中で呟く。 「あぁ。キラはダウンだそうです。エターナルから連絡がありました」 「バッテリー切れか」 久々だな……と低い笑い声を漏らす。そうすれば、チーフもまた苦笑を返してきた。 「ここしばらく、開発の仕事ばかりでしたからね、キラも」 そのせいで、体がなまっていたのかもしれない……と彼は口にするが、もちろん本気ではない。 「まぁ、これからは政治の仕事だろうからな」 我々は少し休めるのではないか……と口にしながら、クルーゼは彼の肩を叩く。 「そうなってくれるとありがたいですな」 少しはゆっくりとしたいものです、と彼は笑う。 「では、後を頼んでは申し訳ないかな」 「いえいえ。まずはごゆっくり……と申し上げたいところですが」 クルーゼの立場であればそれが無理だろう……彼は続ける。 「仕方がないな。既に諦めているよ」 それでも、今回の後始末が終われば、少しは時間が取れるのではないだろうか。そんな期待をしていることもまた事実ではある。 「と言うことで、ブリッジにあがる。ミゲル達には十分休むようにと言ってくれ」 何事もないかとは思うがな……と口にすると同時に、クルーゼは移動を開始した。 「了解です。取りあえず、何があっても大丈夫なようにはしておきます」 その背中に向けてチーフがこう言ってくる。それに手を挙げることでクルーゼは了承の意を伝えた。 |