「しまった！」
　目の前の空母は確かに撃沈した。しかし、それでも最後の死力を振り絞ったかのようにミサイルを抱きしめたメビウスが何機かはきだされた。
「気づかれていないわけはない、とは思っていたが……」
　アスランはこう呟きながらそのメビウスへと今度は照準を合わせる。
「行かせるか！」
　次の瞬間、ミーティアの全ての砲門が火を噴く。
　それらは間違いなく敵のメビウスを貫いた。だが、アスランはその威力にこそ驚く。
「……ザフトは、何を開発していたんだ……」
　思わずこう呟いてしまう。
　ジャスティスとフリーダム。この二機があれば地球軍の基地を殲滅することも可能なのではないか。
　さらにプロヴィデンスもある。
　ひょっとしたら、地球連合を火の海にすることも不可能かもしれない……とそんなことすら考えてしまう。
「……だから、キラは……」
　これらを『こわい』と言っていたのか……と初めて認識をする。だが、逆に言えば、これが強行派の手に渡らずに自分たちに与えられたことは幸いなのかもしれない、と思い直す。
　自分はともかく、キラやクルーゼであればそんな愚行はしない。二人とも、ナチュラルに大切な存在がいるのだから。
「ともかく……今は本国を守ることだけを考えるか」
　自分たちがなすべきことはそれしかない。
　そう考えて、アスランは恐怖も何も意識の隅に追いやる。その代わりに、周囲の様子を確認した。
「……かなりの数のメビウスが既に出撃しているな……」
　それらを全て叩かなければいけない。
　もっとも、それに関しては他の隊のジンもあてにできるだろう。だから、自分は少しでも多く撃破できるポイントで攻撃をすればいい。取りこぼしたものは、他の者達に任せるしかないだろうから。
　そう判断をすると、アスランはジャスティスを移動させる。
　無意識のうちに、フリーダムの位置を確認してしまったことに気づいたのは、その最中だった。

　ラスティからの連絡に、キラは微かに眉を寄せる。
「……無謀だよ……」
　ブリッツも出撃してからそれなりの時間が経っているはずだ。ストライクのようにバックアップパーツを交換するだけでバッテリーも交換できるわけではない。確かに、自分が手を出して、それなりに限界を引き延ばしては来たが、それでもｊひふりーダムやジャスティスのように無制限というわけにはいかないのだ。
　でも、と心の中で呟く。
　確かに、それが一番いい解決方法だ、と言うこともわかっている。
「……隊長達にも連絡が行って、Ｇｏサインが出たのなら……僕には反論のしようがないね」
　口論をする暇なんてあるはずもないし、とも付け加えた。
　ならば……とキラは心の中で付け加える。今の自分にできることは、ニコルが動きやすい状況を作ることだろう。
　それにはどうすればいいのか。
「……ともかく、こちらに意識を向けさせるしかないんだろうな」
　そうすれば、ブリッツの不在に気づくものはいないだろう。いたとしても、撃墜されたのでは……と思うのではないか。
「空母からメビウスも発進しているようだしね」
　それらが核を発射する前に何とかしなければ……とキラは思う。そうでなければ、多くの命が失われる。しかも、その多くは戦う術を持たない者達なのだ。
　だから、とキラは唇をかみしめる。
「ともかく、本国にミサイルが到達しないようにしないと」
　一発でもプラントに撃ち込まれたら、こちらの負けだ。
　だから、とこことの仲で付け加えながら、周囲の様子を確認する。
「……あれが、先頭だね」
　ふっと、そのそばにジャスティスがいることにキラは気づいた。
「アスランが行っているのか……なら、任せても大丈夫だよね」
　なら、自分は別の場所に行くべきだろう、と思う。でなければ、戦力的に無駄になる、とも。
「こっちかな」
　反対側から近づいてくる機影が確認できる。それが核を積んだメビウスだとは限らない。だが、敵であることには間違いないだろう。
「急いだ方がいいね」
　あれらの動きにまだ誰も気づいていない。だから、とキラはフリーダムの向きを変える。そして、そちらに向けて全速で移動を開始した。

　いったい、戦局はどうなっているのだろうか。
　シンは、目の前の状況をうまく理解できない。
「落ち着いて」
　そんな彼の耳に、アイシャの冷静な声が届く。
「ダイジョウブ。少なくとも、キラ達はまだおとされていないワ」
　だから、自分の仕事をきちんとする、と彼女は続ける。
「わかっています」
　そう言葉は返したものの、うまくできているのかどうかはわからない。
「ここまで大きな戦闘は、私だって初めてだワ」
　優しい声でアイシャが言葉を口にし始める。
「でも、しなければ行けないことはいつだって同じ。冷静さを失わなければ、それでいいのヨ」
　だから、落ち着きなさい……と彼女はまた口にした。冷静さを失えば、状況を見誤る可能性がある。自分たちがしなければいけないのは、状況を的確に判断をして、パイロット達のフォローをすることなのだから、と。
「わかりました」
　確かに、自分たちがミスをするわけにはいかない。
　それに、状況が理解できないなら、理解できるようになるだけだ。
　ここにいるのは、自分一人だけではないのだから……とシンは心の中で呟く。自分が失敗しそうになればアイシャが忠告をしてくれるだろう。もちろん、それに甘えてはいけないのだ……と言うこともわかっている。
　だから、まずはキラがどこにいるのかを探そう。そう思って、モニターをにらみ付けた。