ミーティアを装備したフリーダムを、報告があった宙域へと向ける。
「……戦艦並みだね、本当に……」
　スピードも、破壊力も、だ。
　これだけの力を手に入れなければ、安心できなかったのだろうか。そんなことも考えてしまう。
　でも、クルーゼや自分にこれらを預けてくれた……と言うことは、彼等もまだ最悪の可能性をおそれているからかもしれない。だから、まだ大丈夫だ、と思うのだ。
　二つの種族が共に歩んでいける世界を手に入れる可能性は残っている。
　しかし、その時表に立つのは自分ではない。カガリとラクス、それにアスラン達だろう。
　別段、それに関しては文句はない。
　むしろ望むところだと言っていい。
　自分は決して、表に出てはいけないのだ。自分の存在が知られれば、きっと今まで皆が隠そうとしてきた真実まで調べ上げようとする者達がいるはず。それだけは何としても避けなければいけない。
　せめて、世界が二度と戦火に包まれない、という確証を抱けるようになるまでは。
　そのためには、この戦いに勝たなければいけない。
　キラはそう考えて唇をかみしめる。
「……見つけた……」
　だが、その唇はすぐにもほどかれる。その視線の先には地球軍の空母があった。どうやら発見されたことに気が付いたのだろう。今にも発進しようとしているメビウスが確認できる。
「ごめんなさい」
　自分の一発で、どれだけの命が失われるかわかっていた。
　それでも、彼等を見逃した後に引き起こされる悲劇を考えれば、撃たないわけにはいかないのだ。
「でも、もうあの悲劇を繰り返すわけにはいかないんだ！」
　それこそ、新たな憎しみを生む出す。
　それに、とキラは心の中で付け加える。あそこには今、カガリもいるから、と。
「だから、ごめんなさい」
　言葉とともに、キラは引き金を引いた。

「……空母、撃破されました！」
　この報告に、アズラエルは目を剥く。
「撃墜！　メビウスは？」
「……発進前、でした……」
　それはすなわち、お宝ごと霧散した……と言うことだろう。
「何をしているのですか！」
　どうして、そのようなことを許したのか！　とアズラエルは叫ぶ。
「新型です……見たこともないパーツが付いています……」
　それのせいで、機動力が格段にアップしているのだ、とオペレーターが口にした。その表情が驚愕に彩られている。
「……新型は、一機だけか？」
　バジルールが冷静さを崩さずにこう問いかけた。それは、指揮官としての矜持からだろうか。
「いえ……同じパーツを付けているものが後一機、その他にもう一機確認できています」
　全部で三機。
　と言うことは、全ての機体が出撃している、と言うことだろう。
「……彼等は、今、どうしていますか？」
　衝撃が抜け去ったのだろうか。それとも麻痺したのか。あるいは、目の前でバジルールが冷静な態度を取っているからかもしれない。アズラエルの頭もようやく冷えてきた。
「現在、別の機体と対峙中です」
　そのうちの一機は、新型です！　と言う報告が戻ってくる。
　どうやら、ザフトの方も彼等の情報を掴んでいたらしい。そして、それに対する対処も既に考えてあったのだろう。
「他の者は？」
　あの三人が無理なのであれば、他の者達にその二機を止めさせるしかない。そう思ってさらに問いかけの言葉を口にする。
「……ダガーでは、確認するのも不可能です」
　それだけスピードが速いのだと続けられた。
「……何としてでもあれを破壊させなさい。でなければ、我々の勝利は不可能です」
　どのような損害を出したとしても、とアズラエルは命じる。その中には、ＭＳのパイロットだけではなく他の者達の命も含まれていた。もっとも、自分以外のものの、だが。
「……善処は尽くさせます」
　それに対し、バジルールはこれだけを言い返してきた。
　善処ではダメなのだ。
　しかし、機体の性能が違いすぎる以上、それ以外にないと言うこともわかっている。
「……本当に、忌々しいですね」
　どうして、あれが自分たちの手の中になかったのか。あれさえあれば、あるいは……とそう思いながら、アズラエルは虚空をにらみ付けていた。

　自分がここにいていいのか。
　カガリはそう思いながらも、目の前の光景から視線をそらすことができない。
　あそこで星ではない光が生まれるたびに誰かの命が失われているのだ。その中に、自分の大切な者達がいない、とは限らない。もっとも、その可能性は低いだろうが。
「……何が何でも、生きて帰ってこい！」
　それでも思わずこう呟いてしまうのは、自分が不安だからだろうか。
「大丈夫ですよ、カガリさん」
　そんな彼女の肩をマリューがそっと抱きしめてくれる。
「みんな強いわ。だから、きっと帰ってきてくれるわよ」
　何よりも、カガリがそれを信じていなければいけない、という言葉に素直に頷く。
「……人のエゴ、と言うものは……こわいものだな」
　それとも欲望と言うべきなのだろうか。
「そうですわね……」
　素直に同意を示してくれるマリューの気持ちがありがたい。そんなことを考えながらも、カガリはただ、目の前の光景を見つめている。
　そして、大切な存在の無事を祈りっていた。