目の前の光景に、シンはのどがからからに渇いている自分に気が付いた。
 前回目の当たりにした戦場とは、まったく雰囲気が違う。
「……こわい……」
 思わずこう呟いてしまった。もちろん、だからといって自分に与えられた仕事を放り出して逃げるつもりはないが。
「そうネ」
 その呟きを聞きつけたのだろう。アイシャが声をかけてくる。
「アイシャさん?」
 しかし、彼女がこんな風に言うとは思っていなかった。どうして、と思いながらシンは視線を向ける。
「でも、それは人として当然のことでショ?」
 重要なのはそこから先だ、と彼女は微笑む。
「その恐怖を乗り越えられるかどうか。それが戦場に立つものにとって大きな差になるわネ」
 彼等は、それを克服できた人間よ……と彼女が付け加えたのが誰なのか、シンにもわかった。
「そして、アナタもね」
 だから頑張りなさい、とアイシャは付け加える。
「……俺も、ですか?」
 自分は直接戦場に出ているわけじゃないのに、とシンは思う。
「そうヨ」
 アイシャの笑みが深まる。
「アナタはまっすぐに戦場を見つめているでしょう?」
 それができるのは、恐怖を克服できた存在だけだ、と彼女は言い切る。
「その後のことはその後のことヨ。今はみんなのフォローをすることがアナタの役目。そうでショ?」
 さらに付け加えられた言葉に、シンは素直に頷く。
 ともに戦場に立つことはできなくても、必要だと思える情報を彼等に流すことは自分でもできる。それだけで十分だ、とアイシャは言ってくれているのだろう。
「はい」
 彼女の言葉は、キラのそれとは違った意味ですんなりと頷ける。それは、きっと、彼女が自分に姉のように接してくれるからだろう。
「では、お仕事にもどりまショ。 アンディににらまれているわ」
 本当かどうかはわからないが、確かに無駄話をしている場合ではない。それはシンにもわかっている。だから即座に視線を目の前のモニターに戻した。

 本当であれば、自分たちこそが先陣を切るべきだったのではないか。
 ジンをはじめとする機体は全てバッテリー駆動だ。だから、戦闘が長引けば長引くだけバッテリーの残量が気になってしまう。戦場でバッテリーが切れると言うことは《死》と同意語であるはずだから、だ。
 しかし、ジャスティスやフリーダムの動力は核だ。バッテリーが切れる心配は全くない。
 だから……とアスランは考える。
『アスラン』
 そんな彼の耳に、キラの穏やかな声が届く。
「……キラ……」
 すぐ側にいるわけではない。それなのに、彼には自分の心がわかるのだろうか。アスランはそんなことも考えてしまう。
『みんな大丈夫だよ。だから、落ち着いて』
 焦っても、いい結果は出ない。キラはそう続ける。
「わかっているよ、キラ」
 わかってはいるのだが、納得できないだけで……とアスランは口の中だけで付け加えた。
『大丈夫。まだ、あの新型は出てきていないって言うし。みんなもおとされていないから』
 自分たちの出番ではないのだ、とキラはさらに言葉を重ねてくる。
「キラ」
『敵の空母を見つけだないと……出て行っても戦闘が長引くだけだよ』
 ミーティアを装備した自分たちのスピードであれば、空母を撃墜してそのまま離脱を繰り返すことも可能だろう。そうすれば、少しでも本国への被害を減らせるのではないか。キラはそうも口にした。
「……そうだな」
 その言葉の裏にどのような思いが隠れているのか、キラならわかってくれるだろう。アスランはそう考える。
『今、みんながそれを探している最中だと思う。だから、もう少し我慢して』
 キラの言葉に、アスランは「わかった」と一言だけを返した。

 だが、結果的に彼等はそれほど待たなくてよかった。
 戦艦の後ろにいる空母にジンのパイロットが気づいたのだ。
 その事実は即座にクルーゼへ。そして、そこからキラ達へと報告される。
「私だ。出るぞ」
 それを確認したところでクルーゼはブリッジにこう告げた。
『こちらブリッジ。了解しました。直ちに、発進シークエンスを開始します』
 その言葉に、クルーゼは頷く。
「……終わらせるよ、これで」
 次の瞬間、プロヴィデンスをカタパルトへと移動させた。

「新型が出てきたそうです!」
 ドミニオンのブリッジでも即座に報告の声が上がる。
「あの三人を出してください!」
 アズラエルが即座に指示を出す。それは、命令として彼等に伝えられた。