緊張が高まっていく。
　おそらく、相手の艦影を見かけたその時が戦端を切る合図となるだろう。誰もがそう考えていた。
　そして、その結果が世界を大きく左右するだろう、とも。
　だからこそ、自分たちは全力を尽くさなければいけないのだ、と言うことを誰もが理解していた。

「……ザフトに発見されました！」
　先発隊がそれぞれ攻撃を受けています、とオペレーターが報告をしてくる。
「ＭＳ隊に応戦させろ！　決して、お宝を積んだメビウスに近づけるな！」
　アズラエルが口を開くよりも早く、艦長がこう指示を出す。それは自分が考えていたものと同じであるから、アズラエルも何も言わない。
「……確か、バジルール、でしたかね」
　彼女の名前は……と口の中だけで呟く。
　地球軍には新しい英雄が必要だし、女性だとさらにいいのではないか。ふとそんなことも考える。あの三人を表舞台に立たせるわけにはいかないのだからなおさらだ、とも。
「理事」
　その時だ。バジルールが呼びかけてくる。
「何ですか、艦長さん？」
　ひょっとして、今の考えは間違っていたのだろうか。そう思いながら聞き返す。
「あの三人はどういたしますか？」
　しかし、彼女が判断を求めてきたのは、自分が連れてきたあの三人のことらしい。それならば、確かに自分の許可を必要としているか、とアズラエルは納得をする。
「そうですね」
　確かに、彼等が出て行けば全ては簡単に終わるかもしれない。
　しかし、そうできない事情、と言うものもあるのだ。
「ザフトの機影に、報告にあった新型がいますか？」
　直接答えを返す代わりにこう問いかける。その言葉に、バジルールは即座に確認をさせた。おそらく、それは他の艦の探索域内での結果も確認するためだろう。
　あやふやな情報を口にしないところも気に入った……とアズラエルは頷く。
「現在は確認されておりません」
　さほど時間をかけずに彼女はこう報告をしてくる。
「そうですか……バッテリーの問題もありますしね。それらが出てくるまでは彼等は温存と言うことでお願いします」
　あれら程度であれば、十分に太刀打ちができるだろう、と言外に問いかける。
「わかりました」
　それをどう受け止めたのかはわからない。だが、彼女はこう言うと静かに視線を移動させる。
「全艦、微速前進！　絶対に突出するな、と告げろ！」
　そして、次の指示を出す。その光景を、アズラエルは取りあえず満足そうに見つめていた。

　ザフトもまた、それぞれの隊が応戦をしている。
「……どうやら、肝心の連中はまだ出てきていないようですね……」
　周囲の状況を確認しながら、ニコルはラスティに告げる。
『こっちを少しでも減らしてから、って言うところだろう』
　つまり、一発でも多くプラントに核を打ち込みたいんだろうな……と言うところなのだろう。こう付け加えるラスティにニコルも同意を示す。
「と言うことは、こいつらをいくら叩いても無駄、と言うことですか」
　厄介な……とため息をつけば、
『違うだろ』
　と即座に言い返される。
『こいつらの数を減らしておけば、それだけ本番の時に撃墜しやすくなる……もっとも、こっちもフォーメーションをしっかりとしないといけないがな』
　バッテリーの問題もあるし、新人連中は体力の配分もわからないだろうからな……と彼は続けた。
「そうですね」
　確かに、そちらの方が大きな問題だ、と思う。
　同時に、キラとミゲルの指示がどれだけ的確であったか、と言うことも改めて認識させられる。彼等のおかげで、自分たちは安心して戦闘に集中できたのだ。
　だが、今の自分たちが同じようにできているかというと問題であろう。
　それでも、やらなければいけない……と言うのは事実だ。
「僕たちは一緒に戻らなければならないような事態だけは避けないといけないですね」
　どちらかが残っていれば、指示を出すことができる。だが、二人いっぺんでは、新人達が困るだろう。そう判断してこう告げた。
『そうだな。こっちの方がバッテリーの容量が大きい。取りあえず、そういう状況になったら、お前が先に戻れ』
　お前が復帰してきたら、俺が戻るから……とラスティは付け加える。
　確かにその方がいいだろう。自分が彼の立場でも、同じ結論を出したのではないか、とニコルも考える。
「わかりました」
　取りあえず、一機でも多く撃墜してミサイルを撃ち落としやすくしなければ。
　心の中でそう付け加えると、ニコルはビームライフルの照準をロックした。

　現状を、クルーゼは冷静な視線で見つめていた。
「……隊長……」
　アデスが静かな声で彼に問いかける。
「取りあえずは、彼等だけで大丈夫だろう……それよりも、何とか敵の空母を確認するようにと伝えてくれ」
　核とそれを発射するためのメビウスを搭載した……と付け加えなくても彼にはわかったようだ。
「個別に叩くよりも、発進前の母艦を叩いた方が確実だろう」
　微かな笑みとともに彼はこう告げる。
「確かに」
　発射されてしまえば全てを防ぐことは難しい。だが、その前ならば可能なはずだ。それを理解してくれれば、後は彼に任せても大丈夫だろう。クルーゼはそう思う。
「見つかり次第、出る。エターナルのキラとアスランにも、その情報は流して老いてくれ」
　ミーティアが使えれば、さらに確実性が増す。こう言い残すと、クルーゼはデッキへ向かう。
「御武運を」
　そんな彼の背中をアデスの言葉が追いかけてきた。