「遅れました」 「申し訳ありません!」 こう口にしながら二人はブリッジに滑り込む。そのまままさしくお手本という仕草で敬礼をして見せた。 「いや、かまわないよ。今回のことは、半分公務みたいなものだからね」 それに、予定外の行動を取ってくれたのはあちらだ、とバルトフェルドが苦笑を浮かべる。 「と言うことで、準備ができ次第、出航だ」 絶対に連中をプラントに近づけさせないよう、最大限の努力をしないとな……と彼は言葉を続ける。 「わかっています」 キラがきっぱりと頷き返す。こういう時のキラは、妙に頼もしく思えるな、とアスランは心の中で呟く。 「とは言っても、今から肩肘を張っても意味がないからな。お前達はおとなしく待機をしているように。ベッドにしけ込む以外なら、自由にしていていいぞ」 さらりととんでもないことを付け加えられたような気がするのは、錯覚でも何でもないだろう。 「バルトフェルド隊長!」 しかも、アイシャやシンだけの場所ならともかく、他にもクルーがいる場所で何を言ってくれるのか! とそうも考えてしまった。 「冗談だよ」 しかし、ここで平然とこう言い返す態度を見ているあたり、さすがは喰えないと思ってしまう。 「諦めたようがいいよ、アスラン……」 最初から太刀打ちをする気になれないのか。キラはため息をつきながらこう囁いてくる。 「バルトフェルド隊長の性格の悪さは、うちの隊長と五十歩百歩だから……でないと、付き合えないよ」 どちらがどちら、とはキラは言わない。だが、それだけでちょっと納得してしまうあたり、自分もクルーゼとの付き合いは長いのだ。 「……まぁ、ムウ兄さんは言うまでもないし……キラとカガリは除外するとしても、ミゲルもミゲルだしな……」 他にクルーゼと長く付き合っている人間をアスランは知らない。そう考えれば、それだけのサンプルの中から推測をするしかないのか、とアスランは思う。 「ひどいな。君の保護者殿を悪くは言いたくないが……あれと同列に見られるのは、ちょっと個人的に辛いものがあるぞ」 少しもそう思っていないだろう――いや、むしろ楽しんでいるとわかる口調でバルトフェルドが口を挟んできた。 「あら、本当のことショ」 しかし、そんな彼の敵――というか、キラ達の味方――は意外な所から現れた。 「アイシャ……」 それはないだろう……とバルトフェルドが呟く。しかし、アイシャはいつもの微笑みだけでそれを黙殺する。そう言うところは、さすがは付き合いが深いと言うべきなのだろうか。そう思うと同時に、キラの自分に対する態度が彼女のそれに似ているような気もしてならない。 「それよりも、二人とも。一応、ラクスさまに連絡を入れておいた方がいいわヨ」 向こうで何かあったみたい……とさりげなくアイシャは口にしてくれる。 「本当ですか!」 だとするなら、すぐにでも確認しなければいけない。だが、出航間近のこの状況でそれが許されるのだろか、と思う。 「詳しいことは聞いていないけど、ネ。今、シン君が情報を集めているワ」 それならば、相手はフラガかマリューだろう。 「そう言うことなら仕方がないね。回線の使用を許可するから、状況を確認してこい」 内容次第では、クルーゼとも情報を交換しなければいけないだろうな……と口にしながらも、彼はあくまでも楽しげだ。それはきっと《ラクス》が絡んでいるからだろう、とアスランは判断をした。 「わかりました」 しかし、それを問いかけるわけにはいかない。 「では、失礼をさせて頂いて、確認してきます。報告は差し上げた方がよろしいのでしょうか?」 キラが冷静に、こう問いかけている。 「そうだね。取りあえず状況だけは知っておきたい」 好奇心があることも否定しないがね……と本音を口にしてくれるから、逆に信頼できるのかもしれない。 「では、そのようにさせて頂きます」 その言葉とともに、二人はそろってきびすを返す。そのままブリッジを後にした。 「あぁ、シン君がいるのは、パイロット控え室ヨ。そこの端末を使う許可を出してきたワ」 二人の背中に向かってアイシャがこう声をかけてくる。 「ありがとうございます」 この言葉と同時にブリッジにつながるドアが閉まった。 「しかし、何があったんだ?」 それを確認してから、アスランはため息をはき出す。 「……わからない……」 そして、キラもまた、不安を隠せないという表情でこう呟いた。 「まぁ、ラクスもいるし、そばにはムウ兄さん達もいるから、何も心配はいらない……と思うがな」 それに……とアスランは付け加える。 「どうせ、ハロを連れてきているんだ……俺は、あんな機能、付けた覚えはないぞ」 何やら、怪しい改造をしてくれたようだしな、あれらに……と言えば、 「アスランが付けたわけじゃないんだ、あれ」 とキラが言い返してくる。 「付けてない。せいぜい、トリィと同じ程度だ」 最初の機能は……とアスランはため息とともにはき出す。 「そうなんだ……」 キラがさりげなく頬を引きつらせながらこう呟く。 「そうなんだよ。鍵開け機能はもちろん、捕縛用のネットや電撃装置なんて、付けてない!」 きっぱりと言い切るアスランにキラは苦笑を返す。 「そうなんだ」 まぁ、ラクスならやるよね……と言い切るキラに、アスランは苦笑を返すのが精一杯だった。 |