「大丈夫ですわ。こちらは皆、無事です」 ふんわりと微笑みながら、ラクスは言葉を返す。 「おかげさまで、ここに潜んでいるブルーコスモス関係者も一掃できそうですわ」 そう告げた瞬間、モニターの向こうにいる相手が困ったような表情を作った。 『まさかとは思いますが』 自分たちの存在を餌にしたわけではないですよね、ラクス……とこう問いかけられる。 「もちろんですわ」 さらに笑みを深めながらラクスはこう言い返す。 「もっとも、その可能性を考えていなかった……と言えば嘘になりますけど」 しかし、これだけ大がかりなことをしているのだ。しかも、自分が一緒にいる以上、それなりの警備が行われていて当然だろう。それなのに、こんな風に襲ってくるような者達がいるとは思わなかった……とラクスは口にする。 『それで、ハロか……』 あきれたように呟きながら、アスランがモニターに姿を現した。自分から見える彼の姿勢から判断して、間違いなくキラに抱きついて体を支えているのだろう。まぁ、二人の関係を考えればそれは当然なのだが、少し面白くない。 自分が同じようなことをしようとしても、きっとキラは微笑みとともに拒むに決まっているのだ。 しかし、アスランは当然のように抱きついている。 もちろん、カガリが抱きつこうとしてもキラは拒まないだろう。だが、それはアスランに対する気持ちとは違うこともラクスは知っている。それは、彼女がキラにとって大切な《片割れ》だからだ。 そんなことを考えれば、キラに《恋人》として抱きつくことができるのは彼だけだといっていい。 どうせなら、自分もその立場になりたいのだが……と心で呟く。それでも、ラクスは決してそれを表に出すことはしない。 「えぇ。とても役に立ってくださいましたわ」 ねぇ、カガリ……と言いながら、ラクスは彼女をモニターに映るように引き寄せる。 『アスラン……』 その彼女の表情はどこかこわばっているような気がした。その理由が何であるのか。ただ、それを見た瞬間、アスランが顔をしかめたことだけは間違いない事実ではある。 『お前は、婚約者になんというものを贈るんだ!』 取りあえず、彼女の口から出たのはこんなセリフだった。 『残念だが……』 ため息とともにアスランが口を開く。 『俺が付けた機能は、トリィのものとほぼ変わらないぞ。ただ、サイズが大きくなったから、実験的に会話機能は付けたがな』 それ以外の物騒な機能は付けていない! と彼は言い切る。 『そんなもの付けられるようだったら、トリィにとっくに組み込んでいる!』 『アスラン……そんなことしたら、すぐに取り外すからね』 彼の言葉に、キラも即座にこう言い返した。 「そうなのか?」 だが、そんな仕草から、彼の言葉が嘘ではないと感じ取ったらしい。取りあえず問いかけの言葉を口にしている。 『そうだよ。いくらラクスがプラントでは重要な存在で、なおかつねらわれる可能性が高い、と言っても、ペットロボットにそんな機能を組み込むわけないだろう?』 側に置いているときに、万が一のことがあっては困るだろうが、とアスランは言い切る。 「……それもそうだな……」 ため息とともにカガリは頷く。 「ともかく、こちらはみんな無事だ。だから安心してくれていい」 だが、すぐに表情を和らげると、キラに視線を向けてこういった。 「ラクスがいてくれれば、何も心配はいらないようだしな」 「当然ですわ。オーブからの大切なお預かりものですもの。無事にお返しするのが私の義務ですわ」 もっとも、とラクスは言葉を重ねる。 「それに、大切なお友達を守るのは当然のことですもの」 そうでしょう? とラクスは小首をかしげて見せた。 『ラクスがそう言ってくれるなら、大丈夫だね』 キラがこう言って微笑んでくれる。 「もちろんですわ。ですからこちらのことは心配なさらないでくださいませ」 それよりも、戦闘の方に集中して欲しい、とラクスは言外に付け加える。戦場で、パイロットにとって集中力がどれだけ大切なものかよく知っていた。だから、彼等には後顧の憂いなく戦って欲しい、と思う。 「無事に帰って来いよ!」 わかっていると思うが……とカガリも口にする。 『当然だろう。みんなとも約束もあるしな』 だから、何も心配はいらない。そう言って二人は笑顔を浮かべた。 「では、私からも約束を」 ラクスは柔らかな口調で言葉を口にする。 「この戦いが終わったら、コンサートを開きますわ。お二人だけではなく、クルーゼ隊の皆様もご招待させて頂きます。ですから、かならずいらしてくださいませね?」 でなければ、ただではすみませんわよ……とラクスは付け加えた。 『……コンサートか……』 その瞬間、アスランは視線を彷徨わせる。その理由を一番よく知っているのは自分ではないだろうか。 「別段、真正面の席で爆睡されても怒りませんわよ、今回は。無事にその場にいてくだされば」 もっとも、周囲から彼がどのように思われるから知らないが……とラクスは心の中で呟く。それでも、彼が自分の婚約者だという事実が覆らないだろうが。 『ラクス……』 取りあえず、今はアスランの情けない表情を見られただけでよしとしよう。そう思うラクスだった。 |