その報告を受けた瞬間、誰もが表情をこわばらせる。
「というと……我々はクルーゼ隊から離れるのですか?」
 その表情のまま、イザークがこう問いかけた。
「いや、そういうわけではない。取りあえず、今回限りの暫定処置だ、と聞いている」
 もっとも、とクルーゼは微かな微笑みを浮かべる。
「今後はどうかはわからないがね。君達のような優秀な人材を、私が独り占めにしているなどと考えられては不本意だし、ね」
 軽い口調でこう言われているものの、実際に彼が周囲からそう言われているのではないか。そんな風に感じられる。
 あるいは、キラとアスランが――一時的とはいえ――エターナルでバルトフェルドの指示を受けているのもその関係なのかもしれない。
 だったら、最初から自分たちをそれぞれが手元に配属されるように動けばよかったのではないか、とイザークは思う。
「君達も、いつまでも私の下でこき使われているわけにはいかないだろう。いずれ、自分の隊を率いることになる。今回のことは、それの予行だと思えばいい」
 だが、さらに付け加えられた言葉に、逆に重いものを感じてしまう。
 果たして、自分たちのその責任を負うことができるのか。そう思ったのだ。
「今回は私も出るからな。できる限りのフォローはしよう」
 だから、そんなに難しく考えることはない、とクルーゼは笑みを深める。
「ミゲルもキラも、それなりにフォローはするだろうからな」
 もっとも、状況次第で難しいだろう。そう付け加えられた言葉に誰もが納得をしてしまう。
 戦場では結局自分の判断が一番なのだ。
 しかし、とイザークは心の中で呟く。
 クルーゼ達のように、他の者にまでそれを広げることができるのだろうか。
 しなければいけないと言うことはわかっている。そして、周囲が自分たちに何を期待しているかも、だ。
「そう言うことだからね。取りあえず、この場にいる者達に関しては……三組に分ける。それぞれがそれぞれの責任をきっちりと果たしてくれることを希望するよ」
 君達なら大丈夫だろ思っているがね。いつもなら嬉しいと思えるこのセリフが、こんなにも重くのしかかってくるものだ、とは思わなかった。それはきっと《責任》と言うものの重さだろう。
「……そう言えば、アスランとキラは?」
 ここにいなくていいのか……と不意にディアッカが呟く。
「あの二人は、歌姫とオーブの姫の付き添いだ」
 キラにはおまけがあるがな……とクルーゼは別の意味での笑いを漏らす。
「隊長?」
「最高評議会を味方に付けた歌姫は、最強、と言うことだよ」
 その言葉に、イザークだけではなく、その場にいた全員がため息をついた。

 ダンスを踊るだけ……という約束だったにも関わらず、それ以外のシーンが増えてしまったのはどうしてなのだろうか。
「……本当に、時間内で終わるのかな……」
 今頃、クルーゼ隊はミーティングを行っているはずだ。事前にその内容を知らされている、とはいえ、その場にいるいないというのは大きな違いを持っている。意思の疎通ができなくなる可能性だってあるではないか。キラはそう思うのだ。
「終わらなくても、時間になったら帰っていいと思うぞ」
 その時は、自分が文句を言わせない……とアスランは口にする。
「そうだな。どちらが優先か……と言うことを考えれば、自ずから答えは出てくるだろうな」
 本来であれば、このようなことに割いている時間はないのだからな、とフラガも頷いてみせる。
「元は、と言えば、あの二人の会話のノリで決まったようなものだし」
 それはそれで問題だろうが……とフラガはため息をつく。
「基本的に、あの二人は軍人じゃないからな」
 戦闘があるかもしれない、と言うときの軍人にとって、どれだけ時間があっても足りない……と言うことを理解していないのだ……とフラガは呟く。それだからこそ、今回のようなこともするのだろう。
「ともかく、俺が許す。適当に力を抜け」
 戦争後のことはそれから考えてもいいのではないか。フラガはそう言ってキラの頭をなでる。
「そうできればいいのですけどね」
 一番の問題は、あの妙に盛り上がっている監督だ、とキラはため息をつく。
 あの人物さえ妥協してくれれば……とそうも思う。
「……どうやら、タイムリミットが早まったようだぞ」
 不意にアスランがこう言ってくる。その手の中には端末が握られていた。
「何かあった、と言うことだね」
「そう言うことだ。帰還命令が出ている」
 これを無視することはできない。アスランはそう口にするときびすを返した。そして、そのままラクスの元へ歩み寄っていく。
「……僕も着替えないと……」
 さすがにこの恰好で戻るわけにはいかないし……とキラは呟きながら、立ち上がる。
「君!」
 そんなキラの行動に気づいたのだろう。スタッフの一人が慌てて止めようと声をかけてきた。
「非常召集です! 申し訳ありませんが、これ以上おつきあいできません!」
 そんな彼に向かって、きっぱりとこう言い切る。
「ですが……」
「行ってください、キラ! それにアスランも、おつきあい頂きありがとうございました」
 しかし、ラクスのこの言葉が周囲に響いたところでスタッフも何もできなくなる。その事実に安心しながら、キラは即座に行動を開始した。
「さて、皆様。私たちは私たちの義務を果たしましょう」
 キラの背後でラクスがこう言っているの聞こえる。
「外に車を回してもらった。急ごう」
 アスランが近づきながら声をかけてきた。
「そうだね」  キラもまた、それに頷き返す。
「僕たちは僕たちの義務を果たそう」
 そして、こう言い切った。