「ですから……私どもが仲がいい、というのをプラント内に広めたいのですわ」
 にっこりと微笑みながらラクスがこんなセリフを口にしてしまう。
「……ラクス……」
 その意図はわかる。わかるが、そんなことをしている時間はないのだ、とキラは心の中で呟く。
「そのまま、それをオーブの方々にもお見せしようかと思いまして」
 にっこりと微笑みながらさらに彼女は続ける。
「……見せるって……」
 しかし、それは逆効果にはならないだろうか。そうも考えてしまう。だが、ラクスの中では既にあれこれプランができているらしい。
「カガリには既に、そのためにドレスを着て頂く約束ができておりますし」
「えぇっ!」
 ラクスの言葉に、キラは思いきり驚きの声を上げてしまった。しかし、そんなことを言ってはいられない。
「カガリがドレス?」
 こっちの衝撃の方が大きかったのだ。
「それがどうかしたのか?」
「……いけないのか?」
 アスランとカガリがほぼ同時にこうセリフを投げかけてくる。
「っていうか……カガリ、ドレス、嫌いでしょう?」
 クルーゼと二人だけで出かけるときですら、スカートもはかなかったじゃないか、とキラは言い返す。それどころか、公式の場でもマーナさんが無理矢理着せないと絶対に着ないって聞いているし……とも付け加える。
「そう、だけど……な」
 まさか、自分がそこまでの情報を掴んでいるとは思わなかったのだろう。カガリが気まずそうに視線を彷徨わせている。
「本当は、クルーゼ様の方がよろしいのでしょうけど……でも、お忙しいあの方の手を煩わせてはいけませんでしょう?」
 だったら、自分も除外してくれればいいのに……とキラは心の中で呟く。しかし、それを目の前の相手に言っても無駄だ、と言うことは簡単に想像が付いた。
「ですから、キラとカガリに踊って頂こうかと思いまして」
 私の新曲にあわせて……とラクスはさらに微笑みを深める。
「……ラクス……」
 だから、どうすればそういう状況になるのか。いや、せめて本職を使ってくれ……と思うのは自分のワガママなのか、とキラは悩む。
「キラのダンスはお上手ですわよ。少なくとも、誰かさんのように足を踏みませんもの」
 さりげなく付け加えられた言葉に、アスランがむせている。
 と言うことは、彼はそう言うことをしたのか……とキラは判断をした。
「カガリの後で、私とも踊ってくださいませ」
 取りあえず、そのシーンだけでキラはいいから……と言う言葉も気にかかる。
「キラ《は》?」
「カガリは他にも付き合ってくださいませね」
 そちらには、シンもフラガ達にも付き合って頂きましょう……そう付け加える彼女に、誰も逆らうことができなかった。

「……あきらめろ……」
 二人を送りがてらクルーゼの元へ顔を出せば、即座にこう言われてしまった。
「……隊長……」
 と言うことは、自分の所に話を持ってくる前に彼等を説得――脅迫と言った方がいいのかもしれない、とキラはとんでもないことを考えてしまう――していたのか、ラクスは。
「もっとも、それに割ける時間は最大で一時間、と申し上げてある。その程度であれば、艦の整備等で待機していなければならない時間と変わらないだろう?」  お前の休憩時間が減るが……と言う彼のセリフに、キラは首を横に振ってみせる。
「その程度はかまいませんが……」
 でも、本当に自分たちが出ていいのか。キラは言外にそう問いかける。
「あの男に対する嫌がらせには、それが一番だと思うが?」
 そうすれば、クルーゼは低い笑い声とともにこう言い返してきた。
「……隊長?」
「せいぜい、ラクス嬢と仲がよさそうに振る舞ってこい」
 何か別の理由があるのだろうか。そう思うのだが、クルーゼは曖昧な笑みを浮かべたままで何も答えを返してくれない。そして、彼がこういう表情をしているときは問いかけても無駄だ、と言うこともわかっている。
「……後で、教えてくださいね」
 それでも、人をだしにするのであれば、そのくらいはしてもらおうかとキラは思う。
「わかっているよ」
 カガリのことがなければ、アスランでもかまわなかったのだがな……と付け加えたあたり、彼も今回のことに関しては複雑なものを抱いているらしい。それでも反対できなかったのは、やはり相手が《ラクス》だからだろうか。
「それと……カガリに釘を刺しておいてください」
 頼むから足を踏まないでくれ、と……とキラは付け加える。でなければ、いざというときにペダルを踏み込めないことになってしまう、とも付け加える。
「あの子も、かなり上達しているらしいよ。ムウの話では」
 こう言いながらも、クルーゼの視線は周囲を彷徨っていた。と言うことは、彼もどこか疑念を持っている、と言うことなのだろうか。
「いっそ、兄さんが練習に付き合ってやってください」
 婚約者として……とキラはため息をつく。そうすれば、カガリの実力もwかるだろうから。こう言い返したのは、キラの精一杯の嫌がらせだった。

 そのころ、月のプトレマイオス基地から地球軍の艦隊が次々と発進していた。もちろん、それはザフトによって感知されている。
 即座に、その報告は最高評議会へと伝えられた。