「ラクス嬢が来たらな、お前にもフォローに動いてもらわなければいけない」 だから、今は休んでおけ! と言われても……と思いながらキラはバルトフェルドを見つめる。 「と言うことだからな、アスラン。どんな手段を使ってでもいい。今日は一日ベッドから出すな」 さらにこういうセリフを言われては、黙っていられない。 「バルトフェルド隊長!」 知られているとはわかっていても、こんな風に揶揄されるのは恥ずかしいと感じてしまう。 いや、そうではないらしい。というのも、シンがさりげなく頬を染めているのがわかったのだ。だが、アスランはあの見事な鉄壁の無表情を貫いている。それに関しては簡単すべきなのかもしれない、とキラは悩む。 そんな彼等の様子を見てバルトフェルドは小さな笑いを漏らした。そのまま口を開く。 「同室なんだ。彼に見張りを頼むのが普通だと思うがね」 さすがはこっちの面でも一日の長がある相手、と言うべきなのか。 それとも、普段からそういう生活を送っているからなのか。 いくらキラでもそこまでは知らない。それに、知らなくてもいいことだ……と思っている。他人の情事なんて、知りたくもない、と思う。知りたくなくても教えてくれる嫌な大人がいないわけではないが。 「だったら、シン君でもかまわないのではありませんか?」 ここでになうべき仕事を持っていないのは彼だけだろう、とキラは言い返す。 「ダメだな」 しかし、その言葉をバルトフェルドはあっさりと却下してくれる。 「どうしてですか?」 「簡単だ。そいつじゃ、お前を抑えておけないからだよ」 だからあきらめろ、と彼は笑う。 「それに、俺はまだ馬に蹴られたくないからな」 思い切り意味不明の言葉を口にされる。だが、彼が意味ありげな視線をアスランに向けたところで何を言いたいのかがわかってしまった。 「……バルトフェルド隊長……」 「そう言うことだ。アスランにシン。かまわんから、キラを部屋に放り込んでこい。その後、シンは戻ってくるように」 久々にシミュレーションに付き合ってやろう……と彼は笑う。 「……僕も、そっちの方がいいな……」 アスランと一緒にいるのはいやではないが、そちらの方が気分転換になりそうだ、とキラは考える。シンがあれからどれだけ実力を伸ばしたのか、それもわかるだろうし、とも思う。 「ダメだ。お前はベッド」 今日はもう端末にも触れるな、と言い切られてしまった。 「と言うことだ、アスラン」 「わかりました」 キラを一日、ベッドから出しません! とアスランは言い切る。 「それとお前も今日は休むんだぞ。どう考えても……ラクス嬢を止められる可能性があるのは、お前達とクルーゼぐらいだからな」 そして、係を止められるのはキラとクルーゼだけだろう、と彼は笑う。だが、クルーゼには隊長としての役割がある以上、キラに負担がかかるのはわかりきっているのではないか、とも。 「どうしても、俺とシミュレーションをしたいのだったら、あの二人がいなくなってからにしてくれ」 好きなだけ付き合ってやる、と言われても嬉しくはない。それでも、それ以上だだをこねられるほど子供でもないのだ、自分は。何よりも、彼の指示はある意味正しいと思ってしまう。 「……カガリは、台風ですか……」 否定してやれないところが悲しい、とキラはため息をつく。 「台風と言うよりは暴風程度だな。それに嵐が加わるから威力が倍増するという事だろう」 つまり、問題の根本は《ラクス》と言うことになるのだろうか。そんなことも考えてしまう。 「では、失礼します」 その隙をねらったかのように、アスランの腕がキラのそれを掴む。 「アスラン!」 低重力というのは、こう言うときに困る。キラが抵抗をする前にしっかりと小脇に抱えられてしまった。そのままアスランはさっさと移動を開始する。しかも、だ。体格差があるせいで、キラにはその腕から抜け出すことができない。 「……諦めてください、キラさん……」 そんなキラの背中に、慰めようとするかのようなシンの声が届く。しかし、そんなことをされても嬉しくはない。 「アスラン、放せってば!」 じたばたと暴れてみても、逆にアスランは腕に力をこめるだけだ。 「隊長命令だ。仕方がないだろう?」 追い打ちをかけるように、平然とした口調でアスランはこう言ってくる。 「わかっているけどね!」 でも、やらなければいけないことはまだまだあるのだ、とキラは怒鳴るように主張をした。 「……キラは、俺と一緒にいるのは、いやなのか?」 不意にアスランはこう言い返してくる。 「そんなことはないけど……っていうか、今が平時なら、べったりとくっついていたいけど……」 でも、今はそんな状況ではない。一分一秒が惜しいから、とキラは付け加えた。地球軍の動きはもちろん、オーブで何が起こっているかわからないのだし、とも。 「それは……わかっているよ、キラ」 アスランが穏やかな声で言葉を口にし始める。 「俺だって、どっちも気になる」 でも、と彼は続けた。 「だからこそ、休めるときに休んでおいた方がいいと思う」 その方が、いざというときのためにいいだろうし、と言うことはキラだってわかっている。それでも、鍛えてある以上、後しばらくの無理は利くはずなのだ、とそうも思うのだ。 「それにさ……」 不意にアスランが口調を変えて言葉を口にしてくる。 「少しでいいから……俺を甘えさせて?」 今日だけでいいから、と彼は続けた。 「それも、ダメか?」 こう言われてキラが『ダメ』と言える性格ではないことをアスランだって知っているはずだ。 「……明日、起きれなくなるのはいやだからね」 仕方がない、というようにキラはため息とともにこう告げる。 「わかっているよ」 こういった、アスランの表情が本当に嬉しそうだった。 |