同じ頃、ラクスもまたオーブ――と言うよりはセイランの一方的な声明を目にしていた。 「本当に、最低な方ですわね」 それとも、部をわきまえないといった方がいいのか……と心の中で付け加える。 「ご自分の力量をわきまえていない殿方は見苦しいですわ」 こんなことをして、カガリを取り戻せると思っているのか……とラクスは目を細めた。だが、同時に人の心に植え付けられたイメージを払拭するのは難しいこともわかっている。 「取りあえず、オーブに別の噂を流して差し上げましょうね」 いろいろと真実を織り交ぜながら……とラクスは呟く。そうすれば、そちらの方がより力を得ることになるのだから、とも。 「言葉を使って攻撃をしてくるのでしたら、こちらも同じ事をして差し上げますわ」 いくらでもネタはあるのだから、とラクスはふわりと壮絶な笑みを浮かべる。 「それもいいですわね。そうすれば、オーブの皆様がご自分達で判断をする材料が増えますもの」 どちらが正しいと判断をするのか、彼等に任せればいい。そうも思う。 それに、とラクスは心の中で付け加える。 セイランをはじめとしたオーブの親地球軍派がそちらで手を放せなくなれば、それだけウズミ達が動きやすくなるのではないか。 「……ともかく、キラ達が自由に動ける環境だけは整えておきませんと」 もっとも、最高評議会はもちろん、ザフトの者達もあの声明を鵜呑みにしているものはいない。それは、彼等がどれだけ真摯に自分たちの役割を果たしてきたのかを知っているからだろう。 彼等の実績が、あんなばかばかしい声明一つで覆されるはずはない。 だが、絶対といえないと言うこともわかっている。 「私にできることは、彼等のために言葉で戦うことぐらい、ですものね」 それでも、とラクスは思う。 もし許されるのであれば、全てが終わったときにこの声明を出した馬鹿者を殴らせてもらおうと。 「皆様に頑張って頂かないといけませんわね」 だから、彼等のために心をこめて平和の歌を歌おう。 ラクスが心の中でこう呟いたときだ。 「ラクスさま、お時間です」 まるでタイミングを計っていたかのように入り口の方からこんな声が飛んでくる。 「今、行きます」 言葉とともにラクスは立ち上がった。その口元には、既にいつもの穏やかな微笑みが浮かんでいる。 滑るような動きで、ラクスはそのまま入り口へと向かっていった。 「なかなか、大変なことになっているようだね」 楽しげな笑いを漏らしながらバルトフェルドがこう告げる。その瞬間、モニターの向こうでクルーゼが忌々しいという表情を作った。 「もっとも、人ごとだから笑っていられると言うことはわかっているがな。だからといって、ザフトの中にあれを真に受けるものがどれだけいると思う?」 真に受けたとしても、誰も何も言わないだろう。むしろ、よくキラを連れてきた……と言うに決まっている。だから、少なくともクルーゼとキラの立場が悪くなることはない、と付け加える。 『当たり前でしょう』 それに関しては心配をしていない、とクルーゼは言い切った。 『問題は、オーブ軍の方だがな』 こう言ってきたのは、フラガだ。 『まぁ、アスハとサハクの関係者は信じていないだろうが……セイランがどこまで勢力を伸ばしていたのかがわからないんだよ』 厄介なことにな、と彼は続ける。 「それはすなわち、ブルーコスモスの手の者……と言い換えていいのかね」 『否定できないところが辛いね』 苦笑とともに彼は頷いて見せた。 『もっとも、そちらに関してはあちらに残ったウズミ様達が何とかしているはずなんだがな』 あの人達が仕掛けるゲリラ戦はえぐいぞ〜、という言葉にバルトフェルドもまた苦笑を浮かべる。 「噂だけは聞いていたが、ね」 本当、自分がバナディーヤにいた頃に彼等が敵に回っていなくてよかったよ……と付け加えた。 『そのころにはこいつもキラも、既にザフトにいたからな。そんなことはしないって』 もしそうでなかったら、誰かの力試しと言うことでそこいらに放り出されたかもしれなかったが……と彼は続ける。 『あぁ、それも良かったかもな。あのバカを放り出して……そのままあんたに叩いてもらえば、こんなことをしでかそうなんて思わなかったかもしれないな』 いっそ、あの世に行ってもらえれば、もっと楽だったかもしれない、という言葉には本音が含まれているのかもしれない。 「それはそれで楽しかったかもしれないねぇ」 キラや目の前の相手が敵でなければ勝てる自信はあったし……とバルトフェルドは心の中で呟く。そうすれば、獅子身中の虫もいなくなって、オーブが混乱することはなかっただろう。彼等にしても、後顧の憂いがなかったはずだ。 もっとも、今更そんなことを言っても仕方がない、と言うことはお互いにわかっている。 『ともかく、キラ達と一緒にうちのオコサマを一人行かせるから。前同様、頼んでかまわないかな?』 口調を変えると、フラガがこう問いかけてきた。 「もちろんだよ。うちの連中も楽しみにしている」 つぶす暇はないが、それでも気分転換に構える相手が来ることを喜んでいるものがいるのは事実だ。 キラやアスランでもかまわないのだが、二人の場合、本人達が優秀だからこそ手を出せない面もある。だが、シンであればそれがない。からかうにも適任だ……と言われていることは本人には内緒にしておこう、と心の中で付け加える。 もっとも、目の前の二人にはそれはばれているようだが。 『構い過ぎて、キラの所に逃げ出さないようにして頂ければかまいませんがね』 クルーゼが苦笑とともにこう言ってくる。 「もちろんだよ。そのあたりの加減が、任せておいてくれていいよ」 同時に、彼等のことは心配いらないようだ。それならば、何も心配はいらないだろう、とそう判断をした。 |