パトリック達の言葉に、クルーゼは仮面の下で眉を寄せる。 「いったいいつの間に、このようなものを開発されたのですかな?」 だが、口調だけはいつものものを崩さずにこう問いかけた。 「開発自体は……昔からだよ。もっとも、形になったのは君達がダッシュしてきたあの五機とモルゲンレーテの試作機のデーターを見てから、だよ」 それがなければ実現はしなかった……とユーリが言葉を返してくる。 「だからこそ、これらはお前達に預けたいのだ」 言外にいろいろな意味を含ませてパトリックが告げた。 「お前達であれば、間違いは犯すまい」 あの男のような……と付け加えられた言葉は苦渋に満ちている。 「本当に、彼がブルーコスモスの?」 「でなければN・ジャマーキャンセラーのデーターを盗んだだけではなく、こちらのマザーまで破壊しようとは思うまい」 もっとも、物理的には不可能であることはわかっていたらしい。それとも、最初から自分が逃げ出す時間を稼ぐことだけが目的だったのか。中のデーターを破壊するウイルスを仕込んでおくだけだったが……と彼は苦笑を浮かべる。 「それも、キラ・ヤマトのおかげで大きな被害も出ずに即座に復旧できたがな」 ここのシステムも、キラが作り上げたものだ。もちろん、バックアップに関しても最善のものをくみ上げていたのだろう。 「だから、というわけではないが……この中の一機はキラ・ヤマトに任せたい」 この言葉に、クルーゼはかすかに目を見開く。 だが、確かにキラであれば適任だろう、ともすぐに思い直す。 「これのシステム、もでしょうか」 「そうだな。その方がよかろう」 休暇中に申し訳ないが……とパトリックは付け加える。だが、最初からそのつもりで自分たちを呼び戻したのだろう、ということは簡単に想像が付いた。 「わかりました……では、明日からでも、作業に入らせます」 キラには、とクルーゼは口にする。同時に、他の二機についても早急にパイロットを決めなければならないだろう、とも思う。 もっとも、キラの負担を減らすことを考えれば、一機は自分が使うべきなのではないか、と考える。隊の内部でのバランスを考えてもそれがいいだろう。 となれば、残る一機は誰に預けるべきか。 それはそれで問題だ、と思う。 「すまんな……あちらの動きがはっきりとしない以上、打つ手がないのだよ」 だからこそ、今のうちにできうる限るの準備をしておかなければいかないだろう、と付け加えられた言葉の意味もわかる。 「いえ……本国を守るのは我々の義務です」 そして、オーブを……という言葉をクルーゼは飲み込む。だが、少なくともパトリックには伝わったのではないか。 「そうだな」 彼は小さく頷くと視線を背後にある三機へと移す。 「これが……戦争を終わらせるための必要悪であることを、祈るよ」 そして、こう呟いた。 「……宇宙ですか?」 シンはフラガを見つめながらこう問いかける。 「そうだ。もちろん、お前さんにも付き合ってもらうぞ」 何せ、実戦の場を経験している数少ないパイロットだしなぁ、と彼は笑い返してきた。だが、その言葉は正確ではない、と思う。 目の前の相手のように実際にその場で戦ったわけではない。 ただ、呆然と戦場を眺めていた、というのが事実だ。 「……何せ……あいつらが訳のわからない行動を取ってくれているからな……」 本当に困った方々だ……とフラガはため息をつく。それが誰のことを指しているのか、シンにもわかってしまった。 「セイランの方々ですか?」 「まぁな……あいつらも、家の弟が気に入らないらしい」 いや、カガリの婚約者だから気に入らないのか、とわざとらしいため息をついてみせる。 「そのくせ、キラをさっさと呼び戻せ、といっているらしいし……何か、胡散臭いんだよな、あいつら」 額面通りに物事を受け止められないのだ、とフラガは付け加えた。 「……まぁ、こっちにはウズミ様も残られるし……カガリは連れて行く予定だしな」 いくら何でも、そこまでは追いかけてこないだろう、と彼は笑う。 「そこまで状況は?」 「好きあらば、実力行使、って所だ」 いやだねぇ、もてない男は……と付け加えられた言葉から、セイラン家の跡取りであるユウナが何をしでかそうとしたのかわかってしまう。 「合意の上の行為でなければ、意味はないと思いますが」 むしろ、訴えられたとしても文句は言えないだろうともシンは考える。 「だよなぁ」 カガリであれば、そう言うことに関して容赦はしない。ついでに言えば、そんなことがあったからと言ってクルーゼが彼女を嫌いになるはずもない。 むしろ、彼女と一緒になって嫌がらせをするに決まっている。 「どうあがいても、あいつに未来はないよな」 だからこそ、逆ギレされるのがこわいのだが、という言葉には納得をするしかない。 「そうですね」 「そう言うことだ。だから、危険はさっさと回避をすると」 ついでに、うまくいけば、キラ達と合流できるかもしれないしな……と付け加えられた言葉が、シンには一番重要だった。 キラに会える。 その時までに、自分はどれだけ成長していられるだろうか。 少しでも彼に自分を見てもらえるようにがんばらないと、と心の中で呟いていた。 |