メビウスを撃ち落としながら、キラはあることに気が付いた。
「ブリッジ!」
 それを確認するために、キラは怒鳴るようにこう口にする。
『こちらエターナル。どうしたノ?』
 即座にアイシャの声が戻ってきた。
「あの型のメビウスに、核ミサイルが搭載可能かとうか、大至急確認して!」
 この言葉とともに、キラは近づいてきていたメビウスを撃ち落とす。
『チョット待って』
 そのキラの口調から何かを感じ取ったのか。アイシャはこう即答してきた。
『だから、アナタは戦闘に集中する!』
 結果がわかる前にやられては意味がないでショという言葉はもっともなものだ。
「わかりました」
 こういうものの、集中なんてできるはずがない。
 もし、自分の考えが当たっていれば、地球軍がここにいるわけも説明できる。だが、それは決して良いことではないのだ。
 ひょっとしたら、オーブを地球軍に占領されたことよりも厄介かもしれない。そんなことすら考えてしまう。
「……本当にタイミングが悪い……」
 何故、今なのか。
「気づかなかったよりはましかもしれないけど、ね」
 せめて、彼等を保護してからであればもっと気持ちが楽だったはずだ。そうも考える。
『キラ!』
 再びメビウスを撃ち落としたとき、通信機からクルーゼの声が届く。彼にまで心配をかけてしまったのか、とキラは唇を噛む。
「聞こえています、隊長」
 だが、すぐに言葉を返した。
 まだヴェサリウスにいるはずの彼が声をかけてきた……ということは、聞かなければいけない指示がある、ということだろう。そう判断したのだ。
『落ち着け。優先順位を間違えるな』
 クルーゼの短いが的確な指示が耳に届く。
「はい」
 確かにそれはそうなのだが……とキラは心の中で呟いた。
『あちらは、まだ時間がある。本国へ報告すれば、体制が整えられる』
 だが、こちらは今のタイミングを逃せば、一生取り返しが付かないことになるのだぞ、と彼は言葉を重ねてくる。
「……わかっています」
 また一機、撃墜すると同時にキラは言葉を返す。
『いいこだな、キラ』
 しかし、これは反則だろう! と心の中で叫ぶ。今の一言は、どう考えても隊長としてのものではなく肉親としてのセリフではないか。
「隊長!」
 それこそ、状況を考えて欲しい、とキラは思う。
『おやおや、仲がいいことだ』
 そんな彼等の会話に、バルトフェルドまでが割り込んでくる。
「……お願いですから……人で遊ばないでください……」
 この最中に撃墜されたら泣くに泣けないではないか……とキラは思う。
『では、早めに片づけて帰っておいで』
 その時に、いろいろと話をしよう……とバルトフェルドは続ける。もちろん、クルーゼも一緒に、だ、と付け加えた。
『だから、さっさと終わらせてしまえ』
 これは命令なのだろうか。それとも、とキラは一瞬悩む。
「わかっています!」
 だからといって、この状況をいつまでも続けるつもりもキラにはない。
 さっさと終わらせて、仲間達とゆっくり過ごすんだ。その中にはもちろん、カガリ野心も含まれている。
 アスランは文句を言うかもしれないけどね……と心の中で付け加えながら、キラはレールガンとビーム砲を起動する。
 そして、メビウスをロックした。
「みんな、気を付けてね!」
 回線をオープンにしてこう叫ぶ。
 次の瞬間、幾条ものビームがそのままメビウスを破壊していく。
「……微妙に、照準がずれた?」
 それとも、ロックをするときの一連の動作を規定しているプログラムにバグがあるのか。どちらが正しいのかはわからないが、修正が必要だと言うことは事実だ。
 だが、キラの攻撃で敵の動きに混乱が生じたことも事実。そして、それが自分たちにとって優位に働いていることも、だ。
 こうなれば、数でしか太刀打ちができない地球軍が不利であることは明白だろう。
 ミゲルやイザーク達の追撃を受けて、地球軍が撤退を始めた。
「……ともかく、これで、カガリ達を迎えに行ってもらえるかな」
 ほっとした口調でキラはこう呟く。
「カガリに文句を言われそうだね」
 いろいろと……とキラは苦笑を浮かべる。だが、それはクルーゼが何とかしてくれるのではないか。
 そう思ったときだ。
 ヴェサリウスからプロヴィデンスが発進したのが確認できた。