コロニーの外から振動が伝わってくる。 それを感じた瞬間、シンはとっさにM−1に飛び乗っていた。 「シン!」 「出ません! 状況を確認するだけです!」 自分が出ても、間違いなく彼等の足手まといにしかならない。実戦経験を持っていない以上、それは仕方のないことだ……とわかる程度には成長しているのだ、とシンは心の中で呟く。 「そうじゃない!」 だが、ムウは違う言葉を投げつけてくる。 「フラガさん?」 いったいどうしたのか、と言外に問いかけた。 「すぐに動けるようにしておけ! マリュー」 「わかっているわ」 直接言葉を返す代わりに彼はこう言ってくる。同時に側にいたマリューに向かってこう声をかけている。それに頷き返すと、マリューはまっすぐにシンのM−1へと駆け寄ってきた。 「乗せてくれる?」 そして、こう言ってくる。 「あ、はい」 頷きながらも確認をすれば、もう一機の方にはフラガとカガリが乗り込んでいるのがわかった。 「タイミングを見てあちらと合流をすることになるわ。そうすれば、きっと、あちらもそれほど被害を出さずにすむはずよ」 こちらを守らなければならない人員も即座に戦闘に加われるから……と彼女は説明をしてくれた。 「わかりました」 そう言うことならば、この状況で待機なのだろう。 「でも、カガリ様、大丈夫ですかね」 「だから、ムウと一緒なのよ」 彼であれば、カガリもわがままを言い続けられないだろうから、と彼女は笑いながら口にした。 「そういう理由で、貴方とカガリさんは一緒にできないわけ」 カガリの言葉で戦場に飛び出すかもしれないから、といわれた言葉を、シンは否定できない。 もちろん、それがどれだけ無謀な行動なのかもわかっている。 確かに、自分は戦場の空気を知っていた。そして、その中で恐怖を押し殺すことも、目の前の惨状から視線をそらさないこともできるだろう。 しかし、自分がそのまっただ中に放り出されたとき、どれだけ動けるか……と聞かれれば自信がないとしか答えられない。まして、人の命を預かるとなれば余計に、だ。 だが、カガリがそれで納得をしてくれるか、というと話は別だろう。 そして、自分では彼女に逆らえないこともわかっている。 もちろん、それはこの場にいる大人達も同様のはずだ。 「……俺では、カガリ様を守りきれないことも、わかっています……」 口に出すことはとってもいやだけど……とシンは心の中で呟く。 「そう認められるだけの勇気があるなら、大丈夫よ」 マリューがこう言ってシンの髪をなでてくれる。そして、さらに言葉を重ねた。 「貴方は、きっとキラ君達に負けないくらい、強くなれるわ」 彼等は自分の実力をよく知っている。そして、それを少しでも高めようとしているはず。 シンはまず、その第一歩を踏み出したのだから、と。 「だから、今は自分と私を無事にキラ君達と合流させることを考えてね」 彼女の言葉に、シンはしっかりと頷いて見せた。 「さて……」 テストでは何度か動かしていたが、実戦は初めてだな、とクルーゼは呟く。だが、キラが整えたOSを信頼できないはずがない。 「クルーゼだ。出るぞ」 ブリッジに向けてこう声をかける。 『隊長、申し訳ありませんがもう少しお待ちください』 だが、それに対し、こんな言葉が返ってきた。 「……何故だ?」 タイミングを逃しては、先に出たキラ達の負担が大きくなるだろう。そう考えて問いかける。 『現在、本艦とメンデルの間に地球軍のメビウスがいます。それを排除するまで待って欲しいと、キラから連絡がありました』 でなければ、自分たちの目的が敵に知られてしまうのではないか。 キラがそう言っていた……と言われては、反論もできない。 「状況をこちらにも渡してくれ」 それでタイミングを判断する……と付け加えれば、ブリッジの方も納得したようだ。 『了解しました。そちらに回線をつなぎます』 次の瞬間、プロヴィデンスのモニターに外部の様子が映し出される。それで確認をすれば、確かに報告を受けたような状況であるのが見て取れた。 これでは、自分たちがこの場に来た本当の目的がばれてしまうだろう。それでは、今後の動きが取りにくくなる。 「あの子達に負担をかけてしまうことになるな」 それはある意味、いつものことだ。だが、今回は、自分が指示を出すこともできない。そう考えれば、口惜しいと思える。 しかし、自分が焦ってもどうしようもないこともわかっていた。 「まぁ、私が手塩にかけて育てた部下達だ。この程度は乗り切ってくれるだろう」 いや、乗り切ってもらわなければ困る。 こう呟きながら、クルーゼは目の前の光景を見つめていた。 |