後少しでメンデルにたどり着く。
 そうすればカガリやムウ達と合流できるか、とキラがほっとしていたときだ。
「このタイミングで!」
 周囲に警報が鳴り響く。
「……ばれていたのか?」
 それとも偶然か。
「どちらでも、同じだけどね」
 地球軍を撃破して、カガリ達と合流をする。
 自分たちの目の前にある目的はそれだけだ。
 ただ、その後の行動は少し変わってくるかもしれないが……とキラは小さなため息をつく。
「キラ……」
 それを聞きつけたのだろう。先にパイロットスーツに着替え終わっていたアスランが近づいてくる。
「大丈夫だよ」
 そして、キラの着替えを手伝ってくれながら、こう囁いてきた。
「アスラン」
「大丈夫。キラは一人じゃないだろう?」
 予定では、クルーゼが彼等を迎えに行ってくれることになっている。その間だけであれば、自分たちだけで十分地球軍を抑えていられるだろう、とも。
「確かに、新しい機体だけどな……でも、ミゲル達も一緒だ。だから、フォローは任せても大丈夫だろう?」
 違う? という言葉に、キラは「違わない」と言い返す。
「ただ……」
 ふっとため息とともに言葉を付け加える。
「ただ、何?」
 言いたいことは今のうちに全部言ってしまえ、とアスランはキラの瞳をのぞき込んできた。答えは出してやれないかもしれないけれど、聞くだけはして上げられるから、とも。
 それがアスランの優しさだ、ということもわかっている。
 しかし、自分の弱さを彼に見せてもいいものか……と思うのだ。
「カガリがおとなしくしてくれているかなって……そう思っただけ」
 取りあえず、一番無難そうなセリフを口にしてみる。
「それと、シン君」
 二人いっぺんに動き出せば、いくらフラガでも止めるのは難しいのではないか。キラがそう言えばアスランは苦笑を浮かべる。
「否定できないね、それに関しては」
 カガリだけならばともかく、シンも一緒じゃな……と付け加える言葉に、少しだけだが棘が含まれているような気がしたのはキラの錯覚ではないだろう。
「まぁ、隊長がさっさとみんなを回収してくれればいいだけのことだけどね、そっちは」
 軽い口調でキラはこう締めくくる。
「まぁ、隊長のことだから心配はいらないと思うが……」
「そうそう。いざとなれば、こっちはミゲル達に押しつければいいしね」
 地球軍のMSが実用化されていない……ということを前提にしてのセリフだ。いや、実用化されていても、普通のナチュラルが操縦しているのであれば何機襲ってきてもミゲル達なら大丈夫だろうと思う。
 だが、万が一、地球軍にいるコーディネイターかでなければあの連中が出てきたらどうなるか。
 そして、その時に自分たちのOSがバグを起こしたら……と考えれば不安になってしまう。
「ミゲルだって、その気だしな」  だから心配はいらない……とアスランはまた言葉を重ねてくる。それに、キラはわかったというように微笑み返した。

 同じようにヴェサリウスのパイロット控え室でも出撃の準備は進められていた。ただし、エターナルでのそれとは違って、緊張感を孕んだものだったが。
「……俺、隊長がパイロットスーツを着ているところ、始めて見た……」
 ぼそっとミゲルがこう呟く。
「マジ?」
 彼が見たことはない……ということは、この場でそれを見たものはいない、ということと同意語ではないだろうか。
「マジ……キラならわからないけどな」
 キラの場合は、自分たちとはまた立場が微妙に違うから……とミゲルは付け加える。
「って、肉親関係?」
 それで特別扱い? とラスティが言い返してきたのには深い意味はないのだろう。だが、それで納得をされてもこまるのではないか。そう思って、ミゲルはさらに言葉を重ねることにする。
「じゃなくて、キラは開発もやっていただろう?」
 開発中の機体のテストを隊長が引き受けていたこともある……とミゲルは言い返す。テスト中の機体だと何があるかわからないから、とキラが着るように頼んだ可能性があるだろうとも付け加えた。
「……あぁ、そうか」
 そっち、忘れていた、とラスティは即座に言い返してくる。
「って事は、今回もテスト……という位置づけなのか、隊長の中では」
 新型の……と彼は呟くように言葉を続けた。
「かもしれないな。キラ達の機体も、実戦はこれが始めてだしな」
 ということは、何か予想外のアクシデントがあるかもしれない。そう考えれば、自分のポジションが重要になってくるな、とミゲルは思う。
「いつでもフォローできるよう、イザーク達にも言っておくか」
 アスランはともかく、キラであれば即座に復帰してくれるだろうが、それでも多少のロスは否定できない。その間に襲われれば、キラだってやばいのではないか。そう思ったのだ。
「了解。じゃ、言ってくる」
 ラスティが即座に行動を開始する。
 これならば、自分は動かなくても大丈夫だろう……とミゲルは判断をした。
「今回も、無事に帰ってこられればいいな……っていうか、帰ってこないとな」
 そして、ラスティと楽しいことをするんだ、と心の中だけで付け加える。
「ということで、がんばりますか」
 無事に全員が生きて帰ってこられるように、と口にしながら、ミゲルはヘルメットに手を伸ばした。