シャワーを浴びて出てくれば、即座にアスランがタオルを頭にかぶせてくる。
「アスラン」
「まだぬれてる。ちゃんと、乾かさないとダメだって」
 言葉とともに、彼の手が優しく動く。
「大丈夫なのに」
 本当に、と口にしながらもキラはアスランの手のしたから逃げ出そうとはしない。
「キラは大丈夫かもしれないけどね」
 くすっと笑いながら、アスランは言葉を口にし始めた。あるいは、キラがどうしてアスランの手のしたから逃げ出そうとしないのかわかっているのかもしれない。
「俺がいやなんだよ」
 この髪の毛は自分のお気に入りなんだから……と彼は付け加える。
「……髪の毛だけ?」
 ふっとこんな問いかけを唇に乗せた。
「まさか」
 即座にアスランはこう言い返してくる。
「この髪の毛はもちろん」  そして、キスが一つ髪の毛におとされた。
「瞳も」
 その次にはまぶたの上に。
「鼻も」
 さらにキスはアスランの唇が綴った場所へと降ってくる。
 そうしているうちに、アスランのキスはキラの顔だけではなく首筋から下の方へもおとされた。
 それなのに、とキラは心の中で呟く。
 どうして、唇にはしてくれないのだろうか。
「……アスラン……」
 だからといって、自分からねだっていいものかどうかもわからない。だから、彼に呼びかけてみたものの、その後の言葉が続かなかった。
「何、キラ」
 だが、そのことがアスランには逆に気になってしまったらしい。
「どうかしたの?」
 教えて……といいながら、今度は頬にキスを落としてくる。
 この調子だと、自分がねだらなければこのまま焦らされるのかもしれない、と思う。
「……あのね……」
 もう少し、真ん中にずれてくれないかなって……とキラは蚊の鳴くような声で何とか自己申告をする。
「真ん中って……キスのこと?」
 この口調から判断して、ひょっとしてこれは故意だったのだろうか……とキラは思う。もちろん、彼がそんなことを自分で考えつくはずがない。ということは、当然、そんなことを教え込んだ人間がいると言うことで。そして、幸か不幸か、思い当たる人間がしっかりといる。
「そう……」
 後で覚えていろ、とキラは心の中で該当人物に向かってはき出した。
「ちゃんと、唇にして」
 他の場所じゃなく……とキラは囁く。
「キラが望むなら」
 小さな音を立てて、まだ頭の上にかぶせられていたタオルが落ちる。だが、それすらも気にならない。
 身長差の関係で、少し仰向かされたキラの唇にアスランのそれが重なってくる。 「……んっ……」
 体格差を見せつけられることには少し思うこともあるが、それでも、こうして抱きしめられているときは純粋に嬉しいと感じる。だからかまわないか、とも。
 何度か触れて離れて、それだけでも気持ちいいのだが、どこか物足りない。
「……アスラン……」
 吐息とともにキラは次の行為をねだる。
「ベッド、行ってもいい?」
 さすがに最後まではしないから……と逆にアスランがそれよりも先の行為を希望する言葉を口にした。
「……バカ……」
 そんなこと、この状況で確認するな……とキラは思う。ものすごく恥ずかしくなるだろう、とも。
 とは言っても、自分もそろそろ我慢ができない状況になりつつあることも否定ができない。
「バカでもいいよ」
 だから、教えて……とアスランは唇に直接問いかけてくる。
「……明日のテストに、支障が出なければ……いいよ」
 ベッドに行っても……とキラは言葉を返す。
「わかった。気を付ける」
 言葉とともに、アスランはキラの体を抱き上げる。いくら低重力のこの場だとはいえ、さすがにあまり嬉しくはない。だが、それに対する文句を言う前にアスランの唇にキラのそれは塞がれてしまった。
 そのまま、アスランに運ばれてしまう。
 数歩先にあるベッドにたどり着くまでのわずかな時間が、どこかもどかしい。
 そう思ってしまうのはどうしてなのだろうか。
 ふわりとベッドの上に下ろされる。
「……アスラン……」
 即座に彼の体が覆い被さってきた。
「大好きだよ、キラ。愛している」
 そうすれば、彼は微笑みとともにこう囁いてくれる。
「僕も」
 そっと彼の首に腕を回すとキラは目を閉じた。

 ゆっくりとお互いの体温を感じられたのも、この航海ではこれが最後だった。