ジャスティスのコクピットから顔を出せば、ミゲルの姿が確認できる。
 しかも、だ。
 どうやら、アスランで遊んでいるらしい。
「本当にミゲルは……」
 困った人だね……と呟きかけてキラはやめる。ここがヴェサリウスでないことを思い出したのだ。
「……何か、用があったのかな……」
 自分に、と首をかしげる。だが、作業中だったので、彼は声をかけることをためらったのだろう。その代わりにアスランで遊んでいたのか。
 そんなことも考えてしまう。
「アスランに悪いことをしたかな」
 だとするなら、と呟きながら、ゆっくりとハッチを蹴る。そして、そのまま彼等の元へと近づいていった。
「キラ!」
 そんな彼に、真っ先に気づいたのはアスランだ。
「仕事はいいのか?」
「取りあえずね」
 嬉しそうに問いかけてくる彼に、キラは頷き返す。
「明日、もう一度テストをして、不具合がでなければ、後は様子見、かな?」
 何かあっても、ミーティアから分離をすれば、普通に戦争はできると思うし……と付け加える。
「そうか。ご苦労様」
 側にいるのがミゲルだけだからか。アスランはこう言いながらそっとキラの体を抱きしめる。
「……アスラン……」
 しかし、とキラは小さなため息をつく。
「一応、人前」
 約束しただろう、と付け加えれば、アスランは慌てたように手を放した。
「気にしなくていいのに」
 っていうか、今更だろ、とミゲルが笑いながら口を挟んでくる。
「誰かさんと違って、一応公私の区別だけは付けておきたいだけだよ」
 コクピットでことに及んで、OS全消去なんて真似はできません……とキラは言い返す。
「ったく……最後までそれは言われそうだな。お前と主任と隊長には」
「当たり前でしょう」
 それだけのことをしてくれたんだから、とキラは言い返す。
「……そう言われては、返す言葉もございませんけどな」
 変な言葉を使うな……と思う。だが、どうも自分に怒られることも含めて状況を楽しんでいるのではないか、とそんな気もしてきた。
「そういや、あのファイル、役に立っているか?」
 にやりと笑いながらさらにこう問いかけてきた姿からも、それが如実に伝わってくる。
「まぁ……それなりに」
 アスランが口を開く前にこう言ってごまかす。
「ありがた迷惑だったけどな」
 アスランはアスランでこう口にした。
「え〜、何で?」
 迷惑だなんて、その理由はどうしてなのか……とミゲルは真顔で言い返してくる。自分の経験から言えば、そんなセリフが出てくるはずはないのに、とも。
「俺たちには俺たちのやり方って言うか、ペースがあるんだよ。あそこまでしなくても、ちゃんとキラも満足してくれている!」
 そこまで言い切るか、とキラは心の中で呟く。だからといって、文句があるわけではない。
「そうだね」
 微笑みながらミゲルを見つめれば、彼の頬が引きつる。
「俺らよりも若いくせになぁ」
 それでも、ぼそりと言い返してきたのは、せめてもの嫌がらせだろうか。
「理性がないよりマシだと思うけど」
 即座に、キラはこう言い返す。
「で、そんなことをいいに、わざわざ来たの?」
 まさか、そんなことはないよね……とさらに笑みを深めれば、ミゲルは刻々と首を縦に振ってみせる。
「取りあえず、整備陣がチェックをしてくれと寄越したデーター、と後隊長からの伝言」
 こう言いながら、一枚のデーターカードを差し出してくる。これはきっと、プロヴィデンスのデーターだろう。こちらに来るときに、主任に頼んできたものだ。
 だが、クルーゼからの伝言、とはいったい何なのだろうか。そうも思う。
「伝言も、この中?」
「いや、俺が聞いてきた」
 形に残さない方がいいだろうという判断だそうだ……と彼は続ける。
「あちらとの合流場所が確定。一週間程度で到着だそうだ」
 そこで、テストもするという予定だから、という言葉にキラは思わずため息をつく。
「要するに、それまでに完成させろって言うことだね」
 クルーゼがわざわざ伝言を持たせてきた、ということは……と付け加える。
「そう言うことだろうな……」
 まぁ、がんばってくれ……とミゲルはキラの肩に手を置いた。
「がんばるしかないだろうね」
 これから、自分たちのことで《ザフト》に迷惑をかけることになるのだ。それを考えれば、努力しないわけにはいかない。
 そして、地球軍が計画しているであろうあれこれを頓挫させるためにも、だ。
 もちろんそんなことは口にはさせないが。
「……でも、ちゃんと食事と睡眠だけは取ってくれよ」
 不安そうにアスランがこう言ってくる。その言葉に、キラは取りあえず頷いて見せた。