「ということは……ここを修正すれば、何とかなるかな」
 ミーティアのシステムとジャスティスのファトゥム−00のそれが干渉をしているらしいのだ。だから、どちらかを修正しなければいけない。
 ミーティアがフリーダムと共通のパーツである以上、修正すべきなのは後者に決まっている。
 干渉しあっている場所はわかっているから、後は適合値を見つけ出せばいい。
 それがわかっているだけ、気分的には楽かもしれないな、と心の中で呟きながらキラは一度大きく伸びをした。
「それにしても……もう少し考えて欲しかったかな」
 設計の段階で、と付け加えたのは、ミーティアの装備を確認したからかもしれない。
 はっきり言って、MSに戦艦並みの火力を持たせてどうするんだ。
 そんな気がしなくもない。
 そして、それらを運用するのには、確かに《核》が必要だろう。
「いったい、どっちが先なんだろうね」
 Nジャマー・キャンセラーのデーターを奪われたことと、これらの開発。
 製造時期から想像すれば、おそらく奪われた後なのだろう。だが、その前に設計を行っていなければならないわけで……とキラは小さなため息を漏らす。
「まぁ、気持ちはわかるけどね」
 おそらくは、最初にシステムと機体の構想があったのだろう。
 それを形にしていくうちに既存のエネルギーシステムでは間に合わないと言うことに気づいて、それでも今まで手がけてきた構想を捨てたくはない。
 机上の空論でもいいから、形にしてしまいたかったのだ、とそう考えたのではないか。
 だから、きっと、このような事態にならなければこうして自分の手にゆだねられることはなかった機体なのだろう、これらは。
「なんて、考えている暇はないか」
 それよりも先にしなければいけないことがある。
「優先順位を、間違えてはいけない」
 自分に言い聞かせるようにキラは呟く。
「ということで、続きをしないとね
 食事の時間までにまた終わらなくなってしまう。そうなると、アスランだけではなく最近はアイシャまで騒いでくれるのだ。
 最悪、強制休暇と言うことになりかねない。
 そんなことになれば、いつまで経っても作業が終わらないではないか。
「単体でなら、実戦でも大丈夫なんだろうけどね」
 本当に、面倒……とキラは本音を呟く。
 それでも、再び指は動き出す。そのまま、キラは意識を目の前のプログラムに集中させていった。

「アスラン!」
 久しぶり、と声をかけられて振り向けば、何故かここにミゲルがいた。
「……何をしに来たんだ?」
「そりゃないだろ。一応、お仕事だって」
 別段、邪魔をしに来たわけではない……と彼は口にする。
「まぁ、既に誰かさんの邪魔はしているようだけどな」
 くすっと意味ありげにミゲルは笑う。
「何が言いたいんだ、お前は」
「キラを見ているのを邪魔しているだろう、今」
 悪かったな……という言葉に、いったいどう反論をしてやろうかとアスランは思う。しかしすぐにはいい言葉が見つからない。せめてもの嫌がらせににらみ付けるが、ミゲルにはまったく通用していない。
「それにしても……今は、キラに声をかけられないな……」
 さらりとアスランの怒りを受け流すとこう口にする。
「急ぎ、なのか?」
 仕事に関係している、となれば仕方がない。そう考えて、アスランは問いかけた。
「まぁ、早い方がいいが、な」
 だが、キラの邪魔をするほどではない……と彼は言い返す。
「なら、後三十分ぐらい、付き合え。そうすれば、いやでも降りてくる」
 アイシャさんにあれこれ言われているからな、と付け加えた。
「なんだ? 三食とは言わないが朝晩ぐらいはちゃんと食え、とでも言われているのか、あいつは」
「そんなところだ」
 それでも忘れていれば、強制休暇だ。それでは、キラも困ることになるから、諦めて食事の時間には手を止めるようにしているらしい。
「そっか」
 まぁ、それはそれでいいかもしれないな……とミゲルは頷いてみせる。
「誰でもできる手段、って言うのじゃないことだけが残念だなぁ」
 ヴェサリウスでそんなことができる、とすれば、それこそクルーゼだけだろう、と彼は続けた。自分では、何か軽食を差し入れる程度でごまかしそうだし……とも。
「……それで食ってくれればいいんだけどな」
 宇宙に出てしまった以上、何があってもおかしくはない。だから、キラも焦っているのではないか。
 それはわかるのだが……とため息をつきながらもアスランは心の中で呟く。もう少し、自分たちをあてにしてくれてもいいのではないか。
「まぁ、キラにはキラの考えがあるんだし……お前は、そんなキラがゆっくりと休める環境を作ってやれって」
 だからといって、逆に疲れるようなことはするなよ? とミゲルは笑いかけてくる。
「うるさい!」
 言うに事欠いて、それか! とアスランは反射的に彼のボディに拳をたたき込む。しかし、いつもであれば余裕でよけるはずの彼が、何故か、今日に限ってそれをしない。
「おい! ミゲル!!」
 目の前で腹を押さえてうずくまっている彼に、アスランは慌てて声をかける。
 いや、それだけではなく彼の顔をのぞき込もうとしたときだ。
「引っかかったな」
 にやり、と笑いながら、ミゲルは顔を上げる。
「お前の拳ぐらい何でもないな」
 キラのけりならともかく、と付け加えるミゲルに怒りが隠せない。
「ミゲル!」
 アスランは周囲をはばからずにこう怒鳴っていた。