しかし、とアスランは思う。
「なんて言うか……よく取れたな、ここ」
 ザラの名を使えばともかく、他の人間が取るのは難しいと言われているのに……と感心したように呟く。
 それも、一部屋ではなく二部屋、というのだからさすがとしか言いようがない。
「……まぁ、ミゲルだから」
 何かを知っているのか。キラは苦笑とともにこの一言を口にした。
「裏技の一つや二つ、持っているよ、彼は」
 さらに付け加えられた言葉に、アスランも苦笑を返すしかない。
「じゃ、それを知ろうというのは無理だな」
 それよりも、どうせなら限られた時間を少しでも有効に使いたい……と考える。休暇中とはいえ、いつ呼び出されるかわからないのだ。
 だから、とアスランはゆっくりとキラの側に歩み寄っていく。
「アスラン?」
 どうかしたの? とキラは小首をかしげてみせる。
「……せっかく、ゆっくりできるんだから……ね」
 そんな彼の体をそうっと自分の方に引き寄せた。
「あのね、アスラン」
 どこか困ったような口調で、キラが口を開く。
「……あのね……僕、シャワーぐらいは使いたいんだけど……」
 だから、と告げるキラの頬が真っ赤に染まっている。
「いいよ」
 いつもは凛としているのに、こう言うときは可愛いままだ。そんなことを考えながらアスランはキラを抱きしめている腕にさらに力をこめる。
「でも、俺も一緒にはいるからね」
 そのまま、こう宣言をした。
「アスラン!」
 とたんにキラの口から非難の声が上がる。
「いつも、一緒に入っているだろう?」
 それにこう言い返せば、キラの鼓動が激しくなったのが布越しにも伝わってきた。
「ちゃんと洗ってあげるから」
 耳元でさらにこう囁く。
「だから、一緒に入ろう?」
 さらに付け加えれば、キラは困ったようにアスランを見上げてくる。そんな彼のふっくらとした唇にそっと自分のそれを重ねた。だが、すぐに離れる。
「ね?」
 といえば、キラはむっとしたような表情を作った。
「キラ?」
「……アスランは、ずるい……」
 キラのこの言葉にアスランは困惑してしまう。
「ずるいって……」
 何が? と思わずその表情のままこう問いかけた。
「だって……」
 キラが言いにくそうに周囲に視線を彷徨わせている。だからといって、このままごまかされるわけにはいかない、と思う。
「だって?」
 何? と次の言葉を促す。
 それに、キラは小さなため息を漏らした。何とかしてごまかそうと考えているのだ、ということがその表情からわかる。それからは、任務中の言動がまったく想像できない。もっとも、それも昔からのことだから自分にとっては普通のことだけど……とアスランは心の中で呟く。
 どうやら、諦める気がないとキラにもわかったのだろう。
「キスだけで、全部ごまかそうとするじゃない」
 仕方がないというようにこう呟く。だが、それはアスランがまったく予想もしていなかったセリフだ。
「別段、キスでごまかそうなんて思ってないぞ」
 というよりも、できることとできないことがあるだろう……とアスランはキラの肩に額を押し当てて脱力をする。
「それに……これだけ、だからな」
 自分がキラにリードできるのは……とアスランはそのまま苦笑を浮かべた。
「バカ」
 そうすれば、キラが言葉とともにそっと抱き返してくれる。
「アスランがいるから、頑張れるんだよ、僕は」
 今はこう言ってくれるだけで十分だ、とアスランは思う。
「……ともかく、シャワー、一緒に浴びような」
 そして、キラをちょうだい……ともう一度口にした。
「……バカ……」
 キラがまたこう言い返してくる。
 だが、その声が微妙に甘い響きを含んでいるように感じられるのは自分の錯覚だろうか。
 それでも、キラは腕の中にいてくれる。だから、少しだけ自信を持ってキラをシャワールームへと連れ込むことにした。