「しかし、何であいつもここを選んだんだか……」
 あんまり喜ばないだろうな、あの二人は……とフラガは呟く。
「どうして、と聞いてもかまわないのか?」
 即座にカガリがこう問いかけてくる。いや、彼女だけではなく、側にいるシンやマリューもどうしてなのか、というように彼を見つめてきていた。
「……お前ら、な。個人のプライバシーだぞ、それは」
 といっても、別段おかしいことでも何でもないが……とフラガはため息をつく。調べればわかることだし、とも。
「ここにあったコーディネイト施設で、ラウとキラが生まれたってだけだ」
 ラウの時はともかく、キラの時はいろいろと大変だったが……とさりげなく付け加える。
「大変って……」
 何が、とシンが呟く声が聞こえた。
「……カガリさんのこと?」
 マリューが何かを気が付いた、というようにこう問いかけてくる。
「簡単に言えば……そう言うことだ」
 キラを母胎に戻そうとしたときには既にカガリがいた。だからちょーっとややこしい事態になったのだ、と聞いている。フラガはそう言って苦笑を浮かべる。
「キラが小柄なのは、きっとそのせいなんだろうな」
 何とか母胎に戻したが、それでも先にいたカガリの方が強かったらしいし……と意味ありげな視線を彼女に向けた。
「今の力量関係は、あの時に決められていたんだな、かわいそうに」
 誰かさんのせいでキラは一生振り回されるんだ……とフラガは付け加える。
「だって……」
「あぁ、お前が悪いわけじゃない。タイミングの問題だって」
 元々、キラはナチュラルと双子として誕生するはずだったことは事実。もっとも、ナチュラルとして生まれる子供も体外受精をするはずだった。しかし、そのタイミングがずれただけだ、と彼は付け加える。
「しかも、その時に行った処置がブルーコスモスの皆さんを刺激したらしくてな……ここもテロの対象になったんだよ」
 キラは知っているがどうかはわからないが、ラウは覚えているはず。
 だから、少なくともラウは喜ばないだろうな……とフラガはさりげなく付け加えた。
 真実はもっと複雑だ。
 そのことを、自分たちだけではなくアスハの上層部やサハクの双子、そして、プラントの中枢にいる者達も知っている。
 だからこそ、キラはプラントでもかなり融通を利かせてもらっているのだろう。あるいは、アスランとの関係もその一環で認められているのか。
 いや、それだけはない、と思いたい。
「……ということは、ここにいることは危険なのですか?」
 シンがこう問いかけてくる。それは以前の彼からは考えられない言葉だ。
「キラ達に迷惑をかけまくった甲斐が出てきているな」
 ぼそり、とフラガはこう呟く。
「フラガ一佐?」
 何をおっしゃりたいのでしょうか……とシンは突っかかってくる。
「フラガさんでいい」
 こう言うところは、まだまだオコサマだよな……と内心苦笑を浮かべた。いや、彼がオコサマなのではなく、キラ達が大人にならざるを得なかった、というべきか。
「ともかく、今のところは安全だろうな」
 説明だけはしておくか。そう思いながらフラガは口を開く。
「施設の方は……キラ達が生まれた後にテロで破壊されている。その上、バイオハザードまで引き起こしてくれたからな、連中は」
 だから、シンは別の場所でコーディネイトされたはずだ、と付け加えれば、彼は小さく頷いてみせる。
「ここが使えるようになったのは……数年前、ジャンク屋ギルドがハード・バキュームをして完全にウィルスその他の影響を排除したからだな」
 もっとも、それも正確ではない。
 元々、ここでバイオハザードなど引き起こされていなかったのだ。
 その代わりに、ブルーコスモスが致死ガスを流し込んでくれただけだと言っていい。それも、テロで非難をしようとする者達がいた宇宙港から、だ。
 キラとカガリが生き残ることができたのも、たまたまその場に自分とラウがいて、研究所の所長であったユーレン・ヒビキ、そしてその妻であったヴィアが機転を利かせてくれたからだ、と言っていい。
 それがなければ、今頃、ここに自分たちは存在していなかった。
 しかし、その事実を告げる必要はない。
「だから、ここは一応ジャンク屋ギルドの所有になっているのか、今は」
 地球軍にしても、彼等を敵に回すことはできないはずだしな……とフラガは笑う。
「まぁ、多少の不便はあるが、ラウ達が来るまでは安全だろう」
 幸か不幸か、MSは二機あるし、技術者もいる。
 食料その他は豊富だから、飢えることはないし、と軽い口調で付け加えれば、三人はほっとしたような表情を作った。
「しかし、昔受けさせられたサバイバル訓練からすれば、月とすっぽんの環境だよな」
 あの時は、マジであの世に行くかと思った……とフラガはさりげなく話題を変えることにする。
「サバイバル訓練って?」
 カガリが興味津々といった様子で問いかけてきた。どうやら、うまく食いついてくれたな、とフラガは内心でほくそ笑む。これがキラであれば、こうも簡単にはいかないはずだが、とは思うが。
「あぁ、カガリは免除だったな。キラは、受ける前にプラントに行ったし」
 ナイフ一本だけ持たせられて、オーブ国内の無人島に放り出されるんだよ、とフラガは付け加える。食料や水、身の安全をナイフだけで確保しながら、迎えが来るまで生きぬけってさ〜、と言えば、カガリだけではなくシンも尊敬の眼差しを向けてくる。
「だから、食料と水と身の安全がある程度確保されている現状はマシなんだって」
 後は、キラ達と無事に合流するだけだ、と笑う。もっとも、これが一番難しいかもしれないのだが。その考えは自分の中だけにとどめておいた。