送りつけられたメールを見た瞬間、クルーゼは小さなため息をついた。
「よりによって、メンデル、とはな」
 確かに、あそこであれば合流はたやすいだろうが……と彼は呟く。だが、自分にとってもキラにとっても、あそこはある意味微妙な感情を抱かせる場所でもある。
「あの子が辛い思いをしなければいいのだが」
 もっとも、あの子供は真実を全て知っているわけではない。
 いや、あの子だけではなく周囲にいる多くの者達も、だ。だから、自分たちが口をつぐんでいれば大丈夫だろう、と思う。
「あそこでコーディネイトされたものは、オーブには大勢いるから、な」
 だからきっと大丈夫ではないか。そう考える。いや、そう考えたいだけかもしれない、とクルーゼは口元に苦笑を刻んだ。
「まぁ、ここでその真実を知っているのは私だけだし、あちらでは取りあえずムウだけだろうしな」
 あの男の口さえ封じてしまえば、ばれる心配はない。
「あれも、キラを悲しませることだけはするまい」
 だから大丈夫だろう。
 そう思いたいのだが、一抹の不安がどうしても消えてくれない。
 それはどうしてなのか。
 クルーゼが小さなため息をついたときだ。
『隊長』
 聞き覚えのある声が端末越しに届く。
「入りたまえ」
 言葉とともに端末を操作してドアのロックを外す。
「失礼します」
 そうすれば、黒を基調とした軍服を身に纏ったアデスが中に入ってきた。
「あちらとの連絡が取れました」
 予定通り、メンデルで合流をする……と彼は報告をしてくる。エターナルともその方向で話は通っているとも。
「そうか。ご苦労だったな」
 穏やかな笑みとともにクルーゼは言葉を返す。
「いえ、当然のことです」
 しかし、と彼は微かに苦笑を滲ませながらさらに言葉を重ねてきた。
「メンデルでそうなんをしていた民間人を保護、ですか」
 詭弁ですな、と彼は正直に告げてくる。そんなところもまた信頼できる要因の一つではあるのだ、と思いながらもクルーゼは頷く。
「もちろん、詭弁だよ。だが、時には詭弁も必要ではないかね?」
 君達には迷惑をかけることになるが……とこうも付け加える。
「それに関しては迷惑だと思っておる者はおりませんよ。彼等が、隊長とキラにとって大切な相手だ、ということは前回のことでわかっております」
 むしろ、彼等が地球軍の手に落ちることで二人の判断に狂いが出るようでは困る。はっきりとそう言いきる彼に、クルーゼは低い笑いを漏らす。
「そう言うことならば、遠慮なくこき使わせてもらおう」
 取りあえず、地球軍に悟られないように頼む、と付け加えれば彼はしっかりと頷いて見せた。

 ようやく、自分たちもまた宇宙へあがる準備ができた。その事実が忌々しい、と思う。
「まったく……余計なことをしてくれたものです」
 地球軍が所有していたマスドライバーはザフトの攻撃で破壊されていた。だからこそ、オーブのそれを手に入れようと思ったのだ。
 だが、地球軍が踏み込もうとした目の前で、カグヤにあったそれは自爆した。
 それが誰の仕業かなどということはバカでもわかる。
 もっとも、とアズラエルは心の中で呟く。
 彼がそのような抵抗をしてくれたおかげで、こちらに時間ができたことも事実。そして、あれが自分たちの《勝利の鍵》となるべきものを持ち帰ってくれたのだ。
 それを用意するのに時間がかかったこともまた事実。
 だから、この件に関しては妥協してもいいだろう。
 そう考えていたときだ。アズラエルの背後に人の気配が近づいてくる。
「あぁ、来ましたね」
 ようやく《完成》したコーディネイターを超える《ナチュラル》。彼等さえ今度の戦いで成果を上げれば、きっと、誰もがあれらを『不必要だ』と判断するだろう。
「いよいよ、出番ですよ」
 科学者達からは彼等の運用に関して『多少問題はある』と言われている。だが、この戦いが終わるまで持てばいいのだ、と考えていた。
 代わりはいくらでもあるのだから、とも。
「せいぜい、使い物になることを証明して見せなさい」
 それだけがお前達の生き残るための道なのだ、とも。
「あぁ……ただし、うかつに壊さないように。まだまだ利用価値があるものもありますからね」
 あちらにも、と彼は笑う。
「どこにいるかは、すぐに情報が入ってくるでしょう」
 もっとも、殺さなければ何をしてもかまわない。いや、むしろその中の一つに関しては傷ついていてもらった方がいいかもしれない、と思う。
 その方が処置をするのに楽だ、とも。
「楽しみですね」
 いろいろと、とアズラエルはまた笑いを漏らす。
 その脳裏には、自分たちの勝利しか描かれていなかった。