自分たちの関係を知っているからだろうか。
 エターナルで与えられた部屋も、キラと一緒だった。
「気遣いはありがたいと言えばありがたいんだが……」
 だからといって、ここで暴走するわけにはいかないだろう。そんなことになれば、自分ではなくキラの評価を下げることになりかねない。アスランはそう考えて小さなため息を漏らした。
「この前、失態を犯したばかりだから……な、俺は」
 キラが許してくれたらいいようなものの、そうでなければ自分はどうしていただろうか。そんなことも考えてしまう。
 クルーゼはもちろん、パトリックや周囲も、取りあえず自分たちの関係を認めてくれてはいる。だが、それはあくまでもキラが《キラ》だからだ。パトリックの場合、彼の才能を自分たちの側にとどめておけるなら……と考えている可能性は否定できないのではないか、とそうも考える。
 だから、キラが何か大きな失敗をすれば、パトリックがキラを排斥しようとしたとしてもおかしくはない。
 キラを守ろうとするあまり、そんなことにも気づけなかった自分の馬鹿さ加減に、アスランはあきれたくなる。
 だからこそ、と思うのだ。
 同じ失敗は絶対にしない、と。
 しかし、それには理性を総動員させなければいけない、ということも事実だ。
「適当に、発散すればいいんだろうが」
 自分でしている所なんか、キラに見られるわけにはいかないだろうし……と思わず呟いてしまう。
「だったら、一緒にすればいいだけなのに……何を悩んでいるのさ、アスランは」
 しかし、その呟きをキラに聞かれてしまうとは思ってもいなかった。
 いや、それ以前にどうしてキラが帰ってきたことに気が付かなかったのか……とアスランは慌てる。
「キラ……」
 その、俺は……とアスランは自分の中の混乱を隠せないまま口を開こうとした。だが、どうしても言葉が出てこない。
「さすがに、最後まではできないかもしれないけど……一緒にするのはかまわないんじゃないのかな」
 というか、その方がいいってミゲルも言っていた……ときらは平然と口にする。
「ミゲル?」
「そう。あぁ、アスランにって、書類を預かってきていたんだ」
 ミゲルから……と口にしながら、キラは自分の荷物が入ったバッグを開ける。そして、その中から一通のファイルを取り出した。
「はい」
 言葉とともにキラがそれをアスランの前に差し出してくる。
「……人に仕事を押しつけるつもりなのか、あいつは」
 それとも何なのか……と不信げに呟きながら、アスランは表紙を開いた。条件反射のように何気なく中身に視線を落とした瞬間、絶句してしまう。
「あいつ……」
 こう言うときに何を考えているんだ……と何とかそう口にする。
「どうしたの、アスラン?」
 そんなアスランの態度を不審に思ったのだろう。キラがこう問いかけてくる。だけならまだしも、アスランの手元にあるファイルをのぞき込んできた。
「キラ!」
 個人的なものだから、と口にして、アスランは慌ててそれを閉じる。
「本当?」
「本当だって」
 こんなもの、キラに見られたらどうなるか。ただでさえ下がってしまった自分の評価がさらに落ちてしまうかもしれない。そうなったら汚名返上どころではないのではないか。そう考えてこういう。
「……アスランがそういうなら、そうかもしれないけど……」
 キラが今ひとつ納得できないような表情を作っているのは、きっと過去のあれこれがあったからだろう。それはわかっている。でも、と考えてしまうのだ。
「まぁ、いいや」
 言葉とともにキラはアスランの隣に腰を下ろしてくる。そして、そのまま甘えるように方に頭を預けてきた。
「キラ?」
「重かったら、ごめん」
 アスランの呼びかけに、キラはこう言葉を返してくる。
「そんなこと、言うわけないだろう? ただ、どうしたのかなって思っただけだって」
 こう言いながら、アスランは自分の指にキラの髪を絡める。だが、それはすぐに指の間をすり抜けて行ってしまう。
 その事実とともに、髪の毛が滑っていく感触が心地よくて、ついつい同じ動作を繰り返してしまった。
「夕食を一緒に、ってバルトフェルド隊長とアイシャさんに言われたんだけど……ちょっと眠いかなって」
 こうしていれば、熟睡して遅れるって言うことがないだろう……とキラは苦笑とともに口にする。
「そう言うことなら、こっちの方がよくないか?」
 くすりと笑いながら、アスランはキラの頭を自分の膝へと導く。
「アスラン?」
「大丈夫。俺が起こしてやるよ」
 何時? とアスランは問いかける。
「一応、六標準時」
「了解」
 こう口にしながらも、アスランは下の方に見えるキラのうなじから目が離せなくなっていた。だからといって、それで理性を手放すわけにはいかない。それも良くわかっている。
「俺が気を付けているから、ゆっくり休んでいいよ、キラ」
 ね、といいながら、それでもこのくらいは許されるのではないか。そう思って再びキラの髪にそっと指を絡める。
「うん。ありがとう」
 アスランの葛藤に気づいているのか、いないのか。キラはこう言うとふわりと微笑む。
 そのまま、彼はそっと目を閉じた。