取りあえず整えたOSのチェックをかねてヴェサリウスからエターナルへとフリーダムを移動させる。同じようにアスランもジャスティスを移動させていた。
「……隊長のプロヴィデンスもテストしてみないと……」
 取りあえず、フリーダムで不具合が出ないなら、基本は大丈夫だろうが……と付け加える。
「ドラクーンシステムだけは、僕じゃ使えないし……」
 フラガはもちろん、クルーゼにだって認められるだけの実力を持っている自分でも、あれだけは使えない。
 いや、この世界で使えるのはあの兄弟だけなのだ。
 それがどうしてなのか。オーブでも調べてみたがわからないらしい。
 ただ、彼等の家系にだけある特別な《能力》らしいという結論が出ただけだ。
「詳しく調べたくても、ラウ兄さんはプラントに移った後だったしね」
 着艦のための手順を踏みながらも合間合間にキラはこんな呟きを漏らす。
 そして、それがわかった頃にはムウももう自由に動けなかったはずだ。もっとも、今、彼がどうなっているかはわからない。M−1のテストという名目で宇宙にあがっている以上、モルゲンレーテの者達も理由を見つけようと躍起になっているはずだ。
 だが、逆に言えばそうやってあれこれやらなければならいことがあれば余計なことを考えている時間もないはず。その方が彼等にとってはいいのではないか、とキラは思う。
『フリーダム、着艦の準備ができました』
 その時だ。キラの耳にエターナルからの声が届く。その声が、柔らかい女性のものだと言うことに気づいて、キラは苦笑を浮かべる。
「貴方がCIC担当ですか、アイシャさん」
 ということは、とうとう観念して《ザフト》の軍服に袖を通したと言うことなのだろうか、と思いながら声をかけた。
『仕方がないでショ。一緒にいないと、アンディが寂しがるんですもノ』
 彼女らしいセリフに、キラだけではなくアスランも笑いを漏らしたようだ。いや、ブリッジのクルー全員かもしれない。
『アイシャ……』
 ただ一人、バルトフェルドだけが困ったように彼女の名を呼んでいる。
 相変わらず、ここではアイシャが最強なのか……とキラは思う。それはそれで安心できる事態だ、ともだ。
『ともかく着艦して。話の続きはブリッジで、ネ』
 そのようがゆっくりとできるわ……と言われて、キラは苦笑を浮かべる。それだけ話をすることがある、ということなのか。
「わかりました」
 だからといって、彼女に逆らう気にはなれない。
 クルーゼ隊ならともかく、バルトフェルド隊ではそれほどわがままを言うわけにはいかないだろう。それが許される立場ではない、ということもわかっているのだ。
「アスランも一緒だしね」
 前の時は他のメンバーも一緒だったが今回は二人だけだし……とも付け加える。
「まぁ、何とかなるかな」
 アスランもようやくいつもの彼に戻ってくれたことだし、あちらはミゲルが何とかしてくれるだろう。
 だから大丈夫だよな……キラは判断をする。そのままフリーダムをハッチの中に滑り込ませた。

 久々に顔を見せたミナは、どこか面白そうな表情を浮かべている。
「話がまとまった」
 そして、カガリ達の顔を見ながらこう切り出す。
「……何が、ですか?」
 いったい何の話だろう。そう思ってシンはついつい問いかけの言葉を口にしてしまった。もちろん、それに関しては即座に後悔をしたが。
「あぁ、お前達は知らなかったのか」
 だが、それに関して、彼女はあえてさらりと受け流す。だが、それが逆にこわいと思うのは自分の考えすぎなのだろうか。そんなことすらシンは考えてしまう。
「私は伝えておくように言ったはずだが?」
 しかし、ミナの関心はシンではなく別の相手に向けられたようだ。
「忘れていた、といういいわけは通じないぞ、カガリ」
 人の上に立つものは、どのようなときでも自分の義務を忘れてはいけないのだ……と彼女の注意はカガリへと向けられる。それも自分のうかつな一言のせいだと思えば反省だけではすまないような気がしてしまう。
「仕方がないだろう。はい、そうですか……と信じられる内容ではなかったからな」
 だから、自分なりに裏付けを取っていた最中だった……とカガリは言い返す。
「いくらミナの言葉でも、鵜呑みにするのはまずい……と思ったのだが、いけなかったか?」
 まっすぐにこう言い返すカガリに、ミナが微かな笑みを浮かべる。
「それで、わかったのか?」
「先ほどな。だから、ここにみんなを集めたんだろうが!」
 それとミナの話のタイミングがあっただけだ、とカガリは口にする。
「なるほど……それなりに人脈を広げているようだな、お前も」
 それはそれでいいことだ……と彼女はうっすらと微笑んだ。
「では、先ほどの言葉は撤回しよう」
 今回は、とミナはその表情のまま口にする。
「そして改めて命じる。お前達はカガリとともにクサナギでL-4へ向かえ。そこでクルーゼ達と合流し、その後は彼の指示に従うように」
 その方が安全だ、とミナは言い切った。
「……安全って……」
「ここにも馬鹿の手が入っていたってことだよ」
 チェックしていたつもりだったのだが、とフラガが口を挟む。
「残念ですが、この場にいるもの以外完全には信用できない状況だ、ということだ」
 そして、キサカもその後にこう続ける。
「取りあえず、私はここに残る。必要な情報があれば、そちらに届けよう」
 現状であれば《サハク》の首長である自分たちに手を出すようなことはできないはずだ。だが、まだ成人をしていないカガリなら、と考えるものがいてもおかしくはない、とミナは口にした。
「まぁ……そういう連中との話し合いはギナがやっているがな」
 あいつも楽しんでいるようだしな……と彼女は笑う。
「大丈夫なのか、それで」
 いろいろとあったことを覚えているからだろう。カガリがこう問いかけている。
「私たちは二人で《サハク》だ。だから、大丈夫だろう」
 一人が道を間違えそうになったときはもう一人が止めればいい。ミナはそう言って笑った。
「だから、お前もお前の半身の所へ行くがいい」
 そうすれば、あちらも安心するだろうからな……といわれて、カガリも頷き返す。
「次にあうときは……全てが終わったときだ」
 平和な未来が来ることを希望しよう……と口にすると、ミナはきびすを返した。
「その時は、ご自慢の料理を振る舞って頂こう。キラと一緒にな」
 そんな彼女の背中に向かってカガリがこう声をかける。それにミナは軽く手を上げて答えた。