どうやら、アスランの方も落ち着いたらしい。ジャスティスのOSを確認している彼の姿を見ながら、ミゲルはそう判断をした。 「まぁ、キラが何とかしたんだろうな」 でなければ、この短時間であそこまで見事に復活しないだろう。そう思うのだ。 「……何、にやにやしているわけ」 不意にキラの声が頭の上から降ってくる。 「あら、いたの」 昨日の様子からすれば、てっきり今日も強制休暇だったのではないか。そう思っていたのだ。だからこそ、こんな意味もないセリフを安心して口にしていたのだが、そうではなかったらしい。 「いたのって……いなかったら困るでしょう?」 乗り込んでいなかったら……とキラは言い返してくる。 「っていうか……てっきりベッドの中だ、と……」 アスランのあの機嫌の良さ判断して……と正直に口にすれば、キラの拳が遠慮なく振り下ろされた。 「そこまでバカだと思っているわけ、僕たちが」 「いや、成り行きって言うものがあるだろうって……そう思ったわけで」 アスラン、せっぱ詰まってたようだし……と付け加えれば、キラは小さくため息をつく。 「そうやって、アスランで遊んでくれていたわけじゃないよね」 「俺にもそこまで余裕がないって」 さすがに、とミゲルは苦笑を浮かべる。 「お前の分も仕事回ってきているしな。まぁ、それは当然だと思っているんだが……チーフを怒らせたのはまずかった」 関係のない仕事も来ているのは、きっと懲罰の一環だろう……とは思っている。 「……コクピットの中で、ちょーっとラスティを啼かせたのがまずかったのかねぇ」 最後まではやってないのに……と呟けば、本日二回目の拳を食らってしまった。 「そうぽんぽん殴るなって」 「その前に、自分の行動はいいわけ?」 コクピットでって、チーフでなくても普通は怒る! とキラは冷笑を浮かべながら言葉を口にしている。これが、爆発二歩手前、ということは今までの付き合いからよくわかっていた。 「……仕方ないじゃん……一応、休暇中だったんだし……」 俺としては、休暇中はラブラブで過ごす気満々だったしさ〜、と軽い口調で付け加える。 「だからといって、コクピットはないだろう!」 休暇返上でがんばってくれていた人たちに悪いだろう、とキラが言い返してきた。 「はい……否定のしようもございません」 その中にキラが含まれているかどうかはわからない。だが、一番大変だったのは彼とクルーゼであることも否定できない事実だ。だから、今回は素直に謝っておく。 「それよりも、何か用があったんじゃないのか?」 わざわざ自分に声をかけたのは、偶然じゃないだろう? と聞き返す。 「取りあえず、これ、目を通しておいてくれる?」 そうすれば、待ってましたとばかりにキラは手にしていたファイルを差し出してきた。 「……何、これ……」 何か、取っても分厚いんですけど……とミゲルは呟く。 「んっとね。これから半月あまりの勤務スケジュールと、パイロット一人一人のシミュレーション計画」 いつもは自分が前日に準備をしておいたんだけど、さすがに無理そうだから……とキラはにっこりと微笑む。 「今回は、ミゲルにお願いしようかな、って思って」 さすがに、そっちまで手が回らないだろうから……と付け加えられる。 「……お前が忙しいのはわかっているが……何で、俺?」 他の誰かでもいいじゃないか……と思う。 もっとも、きらができないのであれば、自分がやらなくてはいけない……ということもわかってはいることだ。 しかし、これ以上仕事を増やして欲しくない……と思う。 「他の誰かに任せた方がよかった?」 隊長とか……とキラはさりげなく付け加える。だが、それを耳にした瞬間、ミゲルは思いきり首を横に振って見せた。 「そんなこと、頼めるわけないだろう」 「でも、アスランはあれをさっさと使いこなしてもらわないといけないし、イザーク達だと誰に任せても不安じゃない」 しかも、だ。 今回はバルトフェルド隊との共同任務……ということで、オロール達はガモフであちらのパイロットの面倒を見ているらしい――それは、彼等が地上でしか任務に就いたことがない以上仕方がないことでもある――ということは、彼等に押しつけることは不可能だ、ということだ。 となれば、消去法で自分しかいない、ということも理解できる。 「……ラスティと一緒にいる時間が、また減る……」 それはそれで、欲求不満になりそうだ……と本気で思う。 「ミゲル」 「はいぃ?」 キラの声に、思わず声が裏返ってしまった。 「そう言うことは、心の中だけで言おうね」 口元には満面の笑みが浮かんでいるのに、瞳には冷たい光がたたえられている。その瞬間、ミゲルは自分の失態に気づいてしまった。 「……悪い……」 ひょっとしたら、ねる間もなくなってしまうかなぁ……とミゲルは思う。 「そう思うなら、こっちはよろしく。明日から、僕とアスランはしばらくエターナルの方に移動をするから」 キラの宣言がミゲルの耳には判決文を読む裁判官のそれに聞こえたことは事実だった。 |