そう長くはないが、取りあえずゆっくりと眠ることができたからだろうか。思考がはっきりとしている。
 それはいいのだが……とキラは小さなため息をつく。
「……これから、どうしよう……」
 今日、仕事をすることは禁止されてしまったし……と思ったときだ。不意にドアが開く。
「アスラン?」
 どうやら、勤務時間が終わったのか――それとも、使い物にならないと判断されて、クルーゼに自室待機を命じられたのか――そこにはアスランがいた。
「どうしたの?」
 突っ立ってないで入れば? と口にしながらキラはベッドに上半身を起こす。そのまま、アスランを手招きをした。
 次の瞬間、彼はキラをまたベッドに押し倒すような勢いで抱きついてくる。
「……俺がしたことは、迷惑だったのか?」
 そのまま、キラの肩に顔を埋めながら、彼はこう問いかけてきた。
「そういうわけじゃないけどね」
 ただ、とキラは言葉を続ける。
「もう少し、僕を信じて欲しかったな、とは思った」
 仕事とそれ以外はきちんと区別できる様になった、と自分では考えているのだ。
 確かに、今回のことは衝撃だったが、両親はもちろん、カガリもウズミもフラガ達も無事がわかっている。だから、最初の衝撃さえ抜けてしまえば普通に仕事をこなすことに支障もなかったはず、だ。
「僕は……もう、みんなに守られていなければいけない子供じゃないんだよ」
 それどころか、命を預かる立場になったのだ、とキラは言い返す。
「……キラ……」
「確かに、アスランの記憶の中の僕は、頼りないかもしれないけど……今の僕を見て欲しいなって、思うんだ」
 確かに、体格はあのころとそう変わらないかもしれないけど……と付け加える。
「……ごめん……」
 この言葉とともにキラを抱きしめている腕に力がこもる。
「俺は……」
「わかってるよ、アスラン。でも、その思いこんだら一直線って言う性格、治した方がいいと思うよ」
 でないと、誤解をされるだけではなくとんでもない事態を引き起こしかねないから……とキラは口にする。
 月にいた頃であれば、せいぜい殴り合いのケンカぐらいですむだろうが、戦場ではそういうわけにはいかない。
 整備陣の不評を買ったが故にとんでもない事態を引き起こしかけた人間もいるのだ。そんなことになれば、それこそ命に関わるだろう。
 もし、そんなことでアスランを失うようなことになったら……と考えれば、オーブを地球軍に支配されたと聞いたときよりも大きな衝撃を感じるだろう。
 だから、とキラは心の中で呟いた。
「……ごめん、キラ……」
 アスランがまた謝罪の言葉を口にする。
「そう思うんだったら、行動で示してね」
「……あぁ……」
 もう大丈夫だろうか。
 アスランがいつもの彼に戻ってくれれば、自分の心配は少し減るかな。そんなことを考えてしまう。
「大好きだよ、アスラン」
 その思いのまま、キラはそっとこう口にした。
「俺は……愛しているよ、キラ」
 お前しかいらない……といいながらアスランはそっと顔の向きを変える。そして、そのままキラの首筋にそっとキスをした。
「アスラン」
 こら……と、キラは口にする。だが、その声には笑いが含まれていた。だから、まったく説得力がない、ということは本人もわかっている。
「キラ……キス、していい?」
 アスランにも当然わかっているのだろう。それでも、こう問いかけてくる。
「……今は勤務時間じゃないし……部屋の中だから、いいよ」
 そんな彼に、キラは微笑みをとともに許可を出した。
「仲直りもしないとね」
 でしょう? とキラは付け加える。
「そう、だな」
 アスランがすぐに納得をしなかったのは、きっと自分が悪いから……と思っているからだろう。こうやって、すぐに落ち込むのもアスランらしいかな……とキラは心の中で呟く。
 こう言うときは、自分から動かないとダメなんだよな、とも続ける。
「……許可だけもらって、それで終わり?」
 だから、からかうようにこう付け加えた。
「じゃ、ない」
 はじかれたようにアスランは顔を上げる。そんな彼の頬にキラは触れるだけのキスを贈った。
「キラ……」
「アスランからはしてくれないわけ?」
 驚いた様な表情を作っているアスランに向かって、キラはさらに言葉を投げかける。
「する!」
 言葉とともにアスランが顔を寄せてきた。そんな彼の態度に、キラは小さな笑いを漏らす。
「明日はちゃんと仕事をしないといけないからね。それについては、ちゃんと考慮してよ」
 そのままこう口にすれば、
「わかってる」
 アスランは即座に言い返してくる。どこまで信用できるかな、と考えたことは、本人には内緒にしておいた方がいいだろう。キラはそう心の中で呟いた。