久々にクルーゼ隊がヴェサリウスに集合した。 「キラ、大丈夫ですか?」 だが、彼の顔色が今ひとつよくない。そう思って、ニコルは問いかける。 「ちょっと、寝不足なだけ」 出航に間に合わせなきゃなかったし、途中でちょっと邪魔が入ったから……と口にしながら、キラはさりげなく視線をアスランへと向けた。 「……アスランの過保護がますますひどくなっていたわけですね」 その気持ちはわかるが……とニコルはため息をつく。だが、それはキラにとっては逆効果だろう、とも思うのだ。 「まぁ、そう言うこと」 その証拠というようにキラはきっぱりとした口調でこう言ってくる。それに彼の怒りを感じられるのは錯覚だろうか。 「本当にアスランは……」 頭はいいのにバカなんですから……とニコルは呟く。 無駄なくらい知識を持っているにもかかわらず、それをどう活用すればいいのかわからないのだ、彼は。 いや、キラに関わることに関しては、というべきなのかもしれない。すぐにそう思い直す。 その他のことに関しては、今でも普通に対処ができているように思えるのだ。 「アスランが邪魔すれば、それだけ僕の仕事が長引くって理解してくれないから困るんだよね」 いつまで経っても……とキラはため息をつく。 「いつもは、みんなが適当に引き離してくれていたから気づかなかったんだけど」 「僕たちは休暇中でしたからね。キラには申し訳なかったかもしれませんが」 その間、キラは新型のOSを三機分も構築していたのだ、という。それがジンの発展系か、あるいは改良型であれば、さほど手間がかからなかったのではないか。 しかし、新しい機体は全てのシステムを一から構築したのだとニコルは父から聞いている。だからこそ、クルーゼ隊に配備することに関しては誰も文句言わなかったのだ、とも。 つまり、キラでなければ運用できるところまでOSを整えることができないと誰もが認識していた、ということだろう。あるいは、最初からキラをあてにしてとんでもないスペックの機体を作り出したか、だ。 おそらく後者だろうな、とニコルは思う。 「で、終わったのですか?」 ともかく、それを確認しておこう……と問いかける。 「機体の方はね」 くすりと、キラはどこか壊れているような笑いを漏らす。 「キラ?」 「僕の使う機体とアスランのそれには、バックアップシステムがあるんだって……それとの調整までは無理だった」 バックアップシステムが完成するのが遅れたのと誰かさんの邪魔のせいで……とキラは付け加える。 「何と言っていいのか……」 やはり、イザーク達と協力をして、一度アスランにきっちりといった方がいいのではないか。ニコルはそう思ったときだ。 「キラ!」 噂をすれば影、とでも言うのだろうか。 声がした、と思った次の瞬間、アスランがものすごい勢いで二人に近づいてきた。そのままキラの腕を取る。 「ダメじゃないか。少しでも休めるときに休まないと」 彼の視界にはニコルの姿が入っていないらしい。まっすぐにキラだけを見つめてこう言っている。 「だから、ミーティングが終わったらちゃんと休むって。僕は今、勤務時間なんだ」 これからバルトフェルドとの打ち合わせが待っている、とキラは言い返す。 「でも、キラ」 そんな彼に向かって、アスランは何かを言おうとした。ひょっとして、毎日この調子だったのだろうか。ニコルは思わずため息をついてしまう。 「アスラン」 ともかく、何とかしなければいけない。そう思って、彼に声をかける。 「……いたのか、ニコル」 やはりキラだけしか目に入っていなかったか。アスランのこの言葉に、ニコルは別の意味で関心をしてしまう。 しかし、だからといってここで気を緩めるわけにはいかない。 「いたのかではないでしょう! そもそも、貴方が邪魔をしていたから、キラさんがせっぱ詰まった状況になったのだ、ということをちゃんと自覚しているんですか?」 精神的にキラは大変な時期だったことは否定できない。 だからこそ、アスランの過保護ぶりが度を超したとしても、多少は同意できる。 それでも、だ。 任務に支障が出ていたのであればアスランの方が妥協しなければいけないだろう。そうも思う。 「キラさんだって、子供じゃないんです! 任務中であれば、自分で自分の面倒を見られますよ、キラさんは!」 それ以外の時はともかく……と付け加えれば「ひどいな、それ」というキラの主張が耳に届く。それでも、あえて彼は口を挟んでは来ない。 「第一、貴方が邪魔をしたせいで、みんなにしわ寄せが行ったらどうするつもりだったんですか!」 それで被害が出た場合、どう責任を取るつもりだったのか! とニコルはさらに言葉を重ねる。 「……俺は、キラが倒れないか……それが心配で……」 「それはわかります。でも、TPOを考えてください!」 今必要なのは何かのかをとニコルは詰め寄る。 「俺だって……普通の状況なら放っておいた、さ」 でも、と付け加えるアスランに、どうしてこんなに物わかりが悪いのかとニコルは考えてしまう。 「……いい加減にしないと、ラクスさんに連絡を入れますよ……」 最後の手段、というわけではないが、ニコルはアスランに向かってこう囁く。 「ニコル!」 それは……とアスランがあからさまに表情をこわばらせる。 「いやなら、少し状況を考えてくださいね」 にっこりと微笑みながらこう告げるニコルにアスランは首を縦に振って見せた。 「……ラクスに言えばよかったんだ、最初っから」 その様子を見ていたキラがこう呟く。 「キラ……」 彼の言葉に、アスランは泣きそうな表情を作る。 「実は、本気で怒っていらっしゃったんですね、キラさん」 まぁ、当然かもしれませんけど、という言葉に、アスランは反論ができないようだった。 |