しかし、とキラは思う。
 アスランを付けてくれたのはいいが、この口うるささは何とかして欲しい。本気でそう考えてしまう。
 ただでさえ、時間がないのに、とも。
「アスラン……」
 こうなれば、少しどこかに行っていてもらった方がいいのではないか。こき使ってもいいと言われているんだし……と思いながらキラは口を開く。
「悪いけど、ヴェサリウスからイージスの戦闘データーを持ってきてくれないかな」
 これに入れちゃいたいから……と近づいてきたアスランに告げれば、
「……わかった。誰かに頼む」
 と言い返される。
 つまり、どうあっても彼はこの場に残ろうと言うつもりなのか、とキラは眉を寄せた。
「でも、イージスのロック、はずせるのはアスランだけだろう?」
 他の誰かでは無理ではないか……とキラは言い返す。
「そうかもしれないけど……でも、キラ」
「命令、されたい?」
 以前から過保護だ、とは思っていたけど、ここまでひどくなかったよな。キラはそう思いながら彼を見つめる。それとも何かあったのだろうか、とも思う。
「……俺がいない間、休んでいるって言うなら行くけど」
 アスランはこう言い返してきた。
「無理」
 そんな彼に向かって、満面の笑みとともにこう言い返す。
「キラ!」
「さっき、隊長から連絡があってね。これとフリーダム用の支援パーツのテストもしないといけないから、明後日までに仕上げろって言われたんだよね」
 だから、休んでいる暇なんてない……とキラはきっぱりと言い切る。
「……そうは言うけど、キラ!」
 だから邪魔をするな、といったつもりだったのに、彼には伝わっていなかったらしい。
 これはきちんと引導を渡すべきなのだろうか。
 自分に余裕があるときならば、アスランのこんな態度も『心配してくれているんだな』と受け止められるのかもしれないが……とため息をつく。
「キラ!」
 そんなキラの態度をどう受け止めたのか。アスランがコクピットの中に体を滑り込ませてきた。そして、そのままキラの腕を掴んで引っ張り出そうとする。
「邪魔しないで!」
 いくら彼でも、これは越権行為だ。
 その点だけはしっかりと線引きをしておかなければいけない。そう思ってキラは声を荒げる。
「心配してくれるのはありがたいけど、君がそうやって声をかけてくるせいで僕の仕事の邪魔をしているんだ、ってはっきり言わないとわからないわけ?」
 そんなことなら、立ち入り禁止にするよ! と本気で付け加える。
「俺はそんなつもりじゃ……」
「なかったんなら、さっさと手を放して! そして、言われたとおりのことをしてよ」
 本気で時間がないのだから、とキラはアスランの手を強引に振り払った。
「……キラ……」
「うるさい!」
 アスランが呆然としている前で、キラはハッチを閉じる。最初からこうしておけばよかったか……とため息をついてしまうキラだった。

「そりゃ、お前が悪いな」
 ヴェサリウスにイージスのデーターを取りに行ったついでに、その場にいたミゲルに愚痴れば、あっさりとこう言われてしまった。
「……ミゲル……」
 彼なら自分に味方をしてくれるのではないか。そう思っていたわけではないが、面と向かってこう言われてはショックを隠せない。
「システムを組んでいるときのキラがどれだけ集中をしているかなんて、お前だってよく知っているだろう? それをぶつぶつととぎれさせられれば、俺だってキレる」
 心配なのはわかるが、邪魔をするな……と彼はきっぱりと口にした。
「だけど……昨日から、少しも休んでないんだぞ……」
 仮眠も取っていないんだ……とアスランは言い返す。だから心配で仕方がないのだ、とも。
「その半分以上の理由は……お前にありそうだな」
 キラの実力であれば、どれだけ複雑なスペックの機体でも、二日も徹夜すればOSを何とか実用可能な状況にできているはずだ。
 いや、形にするだけならば、数時間でも可能なはず。
 ストライクの基本OSは数分で構築したはずだ。
 それができていないとするならば、アスランがキラの集中力を削いでいるからに決まっている。
 ミゲルのこの言葉に、アスランは反論をすることもできなかった。それはキラに言われたセリフと同じなのだ。
「わかったんなら、おとなしくしていろ。見ているだけが辛いなら、自分で何か仕事を探してしているんだな」
 それができないなら、別室で待機をするか、だ。
「ミゲル……」
「キラががんばっているのは、結局お前のためなんだろう。だから、黙ってみているのもお前の役目だ」
 といっても……と不意にミゲルは視線をそらしながら付け加える。
「ミゲル?」
「俺も、怒られたばっかりだからな」
 ラスティの邪魔をして……という言葉に、アスランも苦笑を返す。
「そう言えば、そういう話を聞いたな」
 お互い様、という訳か……と頷けば、
「先輩の話は聞いておけ」
 といってくる。
「あぁ、キラはゼリー飲料が好きだぞ。それくらいなら、差し入れても怒らないんじゃないかな」
 オレンジ味の奴、というのは、彼なりのフォローなのだろうか。
「ありがとう」
 取りあえず、キラが機嫌を直してくれるようにがんばらないと……とアスランは心の中で呟いていた。