ドックに船体が固定される。その衝撃をキラはパイロット控え室で感じていた。 「久々の休暇だな」 前に戻ってきたのは、ラクスを連れ帰ったときだったろうか……とアスランが声をかけてくる。 「そうだね」 こう答えながらも、キラはこの帰国の裏に何かあるのではないか、と思っていた。どう考えても、今回の帰国はどこか不自然なのだ。 もっとも、とキラは心の中で呟く。 確かに一時的とはいえ戦場を離れられるのは気分的に楽だ。少なくとも、いつでも戦闘に飛び出せるように緊張している必要がなくなることだけは間違いがない。 「緊急戦闘がないだけ、のんびりできるかな」 まぁ、書類と格闘はしなければならないだろうけど……とキラは苦笑を浮かべる。 「開発局からの依頼が?」 「手ぐすね引いて待っていると思うけど……」 隊長がうまく断ってくれないかなぁ……とキラはため息とともに付け加えた。そうすれば、少しは休めるだろう、と思う。 「キラは……優秀だからな」 自分が手伝えればいいのだろうが、とアスランもため息をつく。 「その気持ちだけで嬉しいよ」 アスランの特性は自分とは別の所にあるのだし、何よりも彼等にはこのような時期だからこそ果たさなければならない義務があるはずなのだ。 「……ともかく、一晩ぐらいはゆっくりと一緒に過ごせればいいな」 本当は、ずっと一緒がいいのだが……とアスランはさりげなく付け加えた。 「そうだね」 確かに、ヴェサリウスの中でもいつも一緒に眠っていることは眠っている。しかし、いつ何があるかわからない以上、なかなか行為に及ぶことができない、ということも事実だ。だから、こう言うときに……と思うアスランの気持ちも理解できる。自分にしても、そう思うことがあるのだ。 「でも、お互い義務だけは果たさないとね」 苦笑とともにこう言えば、アスランは何故か複雑な表情を作る。 「アスラン?」 どうかしたのか、とキラが問いかければ、 「ラクスが……キラも連れて訪ねてこい、といっていたんだ……」 とアスランは言い返してきた。 「そう、ラクスが……」 アスランが悩む気持ちもわかる。確かに、自分と彼女の間で密約があるとはいえ、その対象である彼としては複雑な気持ちなのだろう。 「なら、一度顔を出さないとね」 だから、あえて明るい口調でこう言い返す。 「彼女も、僕たちのことを心配してくれての言葉だろうし……僕は立場上、公式の席ではなかなか会えないからね」 だからといって、さすがに自宅に一人で押しかけるのははばかられる。それは彼女もわかっているのだろう。だから『アスランと一緒に』と行ってくれたのではないか、とキラは口にした。 「それだけなら、本当にいいんだが……」 「アスラン?」 「ラクスの性格を考えると、他にも何か考えているんじゃないか……と思ったんだ」 考え過ぎかもしれないが……とアスランは乾いた笑いを漏らす。 「否定できないね、確かに」 残念だけど、とキラも同じように笑う。そのまま、微妙な雰囲気が二人の間に満ち始めた。 「ともかく」 その雰囲気を変えるかのようにアスランが口を開く。 「今日は、家に泊まっていくか? それとも、俺がキラの所に泊まっていい?」 そっと囁かれた言葉の裏に隠されている意味にキラはしっかりと気づいてしまう。 「……あぁ、ホテルでもいいか」 くすくすと笑いながら、アスランはこう付け加える。 「アスラン!」 何を……とキラは言い返す。 「だって、そうすれば同居人を気にしなくてすむだろう、お互い」 自分はともかく、キラの方は……とアスランが口にしたのは、間違いなく彼もクルーゼのことを気にしているからだろう。 「そうだね……」 そうすれば、何かあってクルーゼが踏み込んできたとしても慌てることはないのではないか。そう思う。 「でも、ホテルって……」 二人で泊まっても大丈夫な所ってどこだろう、とキラは小首をかしげる。すぐに思い浮かばないのだ。 「……多分、ミゲルあたりに相談しすれば、きっといいところを教えてくれるよ……」 よく知っているに決まっている、という彼にキラは苦笑を返すしかできない。 「そうだね」 これに関しては、彼に迷惑をかけっぱなしだな……とは思う。だが、彼とその恋人以外に相談できることでもないし……ということもわかっている。 「後で何か、お礼を考えないといけないかな」 まぁ、それはその時に……とキラは心の中で呟く。 「……じゃ、そう言うことでいい?」 キラの言葉を合意と受け止めたのだろう。アスランはこう問いかけてくる。 「うん。もっとも、居場所だけは取りあえず報告しておかないと行けないけどね、僕は」 何かあったときに呼び出されるだろうし……とキラは頷きながらも口にした。 「キラの場合、休暇って名目だよな」 頼むから、倒れないようにしてくれ……とアスランはキラの体を抱きしめてくる。 「気を付けるよ」 取りあえず、しばらくは大丈夫だろうと思う……と頷きながらも、キラは彼の胸にそっと頭を預けた。 |