「……やっぱり、アスラン、ですか?」
 クルーゼの言葉にキラは確認のためにこう問いかける。
「それが、一番バランスがいいだろう」
 ミゲルでもいいが、その場合、他の者達のフォローが大変になる……とクルーゼは苦笑とともに告げた。
「……そう、ですね」
 確かに、イザークにあれを預けるのは不安だ。もちろん、実力が……ではない。性格的に何をしでかしてくれるかわからない、と思ってしまうのだ――もっとも、最近はあれでもかなり気が長くなったらしいが――そんな彼に背中を預けることができるか、というとまだ無理だと思ってしまう。
 アスランであれば、まだその心配はない。
 だから、ミゲルがダメならばアスラン、というのは納得できることだ。
「他の者の不安は無視してもかまわない。隊内の人事だからな」
 文句は自分が聞く、とクルーゼは言外に告げてくる。
 だが、大丈夫なのだろうか。
 彼にしても、かなりストレスを感じているはず。それなのに、全てを背負って……とキラは思う。
「キラ」
「はい」
「余計なことは考えなくていい。義務は義務だからな」
 どうやら、キラの心配を彼はしっかりと読み取っていたらしい。こう言い返されてしまう。
「……すみません……」
 やはり僭越だったか……とキラは心の中で呟く。
「心配してくれるのはありがたいがね」
 くすり、と笑いながら彼はこう口にした。そのままそうっとキラの頬に触れてくる。
「ただ、私の方が少しだけとはいえ、長生きをしている。それなりに手を抜く方法も知っている、というだけだよ」
 他人に押しつける、ということもね……と彼は笑いながら口にした。
「隊長」
 それは、すなわち、全てミゲルに押しつけようとしている、ということなのか。キラはそんなことを考えてしまう。
「多少忙しい方が、余計なことを考えなくていいだろう」
 案の定、というべきなのか。クルーゼはこう言ってさらに笑みを深める。
「……でも、そうなるとイージスは、誰に?」
 あえてその事実には触れずにキラはこう問いかけた。
「イージスか……ラスティにストライクを預ける以上ミゲルでもいいのだろうが……アストレイが性に合っているようだしな」
 かといって、他の者では……と彼は考え込む。
「……まぁ、いざとなればバルトフェルド隊長に押しつけるという手段も使えるがな」
 どうやら、しばらく合同で任務に就かなければならないようだし……とクルーゼは言葉を続ける。
 それはそれで問題なのではないだろうか。
 隊員同士はともかく、隊長二人は決して友好的と言えないのではないか。
 もっとも、二人ともそれなりに妥協をしてくれるだろうが……とキラは決して口に出しては言えないセリフを心の中で呟く。
「ともかく……アスランにあわせてジャスティスのOSを整備します」
 後は、実際にテストをしてみないと……とキラは呟く。
「テストの方は……そうだな。すぐにでもチャンスがあるだろう」
 不本意だがな、という言葉の裏に隠されている意味にキラも気づく。
「地球軍が何か?」
 オーブの制定を終えたのか――それとも、セイランが何かをしたのかもしれないが――地球軍が動き出したのではないか。キラはそう判断をする。
「月の駐留部隊に動きが見られるそうだ」
 あるいは、アメノミハシラを目標にしているのかもしれない、とクルーゼは口にする。
「……カガリ、ですか?」
 狙いは……とキラは聞き返す。
「だろうな」
 もっとも、それだけではないだろうが……と彼は続ける。
「あの」
「奴らにしてみれば、お前も十分魅力的な存在だ、ということだ」
 その才能は特にな……と彼は付け加えた。
「セイランがあちらとつながっていたのだ。少なくとも、お前の存在は地球軍に知られていると考えていいだろう」
 年齢が離れている自分はともかくな、と彼は付け加える。
「私の場合、こちらに来るときに戸籍を別に用意したからな」
 だから、連中にしても気づいていないだろう……とクルーゼは笑う。
「もっとも、カガリがどこかで口走っていなければ……の話だがな」
「……その可能性は否定できませんね……」}  カガリの性格はお互いによく知っている。だからこそ、即座に苦笑が浮かんでくるのだ。
「それに関しても、しばらくは考えなくていい。別口で確認を取っているところだ」
 オーブのウズミ達の安否も含めて……とクルーゼは微笑む。
「だから、お前は少しでも早く、あれらを実戦で使えるようにしてくれ」
 アスランをこき使っていいから……という言葉をどう受け止めればいいのだろうか。そう思いながら、キラは頷いた。