オーブの中枢で、一番重要と思える者達をことごとく取り逃がした。
 その事実に、アズラエルは忌々しい思いを抱いてしまう。
「ウズミ・ナラ・アスハ、それに、カガリ・ユラ・アスハ。この両名を逃がしては意味がないでしょう!」
 あの二人が、ある意味《オーブ》なのだ。
 彼は言外にそう告げる。
「……ですが、セイランは……」
「セイランでは、意味がありません!」
 確かに、今は彼等の存在が人心を掌握させているように思える。だが、それは彼等が現在目の見える場所にいる《首長》だから、だ。
 同時に、地球軍という目に見える脅威がその背後にいるからだ、とも言える。
 それでも、セイランの二人は曲がりなりにも五氏族の一つであるから、辛うじてその言葉に従っている、という民衆の本音がしっかりと伝わってきていた。  だが、彼等の前に《アスハ》が現れたらどうなるだろうか。
 彼等の言葉があれば、民衆はあっさりと《セイラン》を見捨てるだろう。
 それは、アスハとセイランの格の違い、だけではない。アスハの者達が民衆の気持ちを掴むよう、努力していた、というだけだ。
 自分にしても、彼等に使い道がなくなれば見捨てることはやぶさかではない。
「やはり、アスハの誰かを、手持ちのカードに入れるべきなのでしょうね……」
 一番いいのは《カガリ・ユラ・アスハ》だ。
 だから、セイランの息子をたきつけたのだが……とアズラエルはため息をつく。
 自分の目から見ても傀儡にする以外どうしようもない、と思える相手を彼女が無条件で選ぶはずもない。
 だが、今はどうか。
 この状況で国民を盾に取ればあるいは……とも思う。
 それにもう一人。
 アスハの血をひきながらも隠されている少年。
 彼も自分の手の中に収めたい。
 本人そのものの利用価値はもちろん、隠された秘密の方も重要だ。
「あれさえ手に入れてしまえば、我々は有能な人形をいくつでも作ることができますからね」
 しかし、肝心の少年は今一番遠い場所に隠れている。
 ならば、こちらにおびき寄せるしかないだろう。
 そのためにはどうすればいいのか。
 あれの《両親》は自分でも手を出せないところにいる。忌々しいが、自分たちでもうかつに手出しをしてはいけない相手、と言うものが存在しているのだ。
「まぁ、お嬢さんさえ手に入れてしまえば、その他はおまけで付いてくるでしょうけどね」
 そのためには……とアズラエルは付け加える。
「カガリ・ユラ・アスハの居所を、最優先で探しなさい!」
 この指示に、即座に地球軍の者達が動き始めた。

「……セイランらしいといえば、セイランらしいな」
 地上からの報告に、ミナがあきれたように呟く。
「どう、なさいますか?」
 彼女はどうも苦手だな……と心の中で呟きながらフラガはこう問いかける。
「どうするもできないだろうな。カガリをあそこに戻すわけにはいくまい」
 それこそ、連中も思うつぼだ……と言う指摘はフラガの考えと同じものだ。
「そう言っているのですけどね」
 一時期は収まっていたカガリがまた無謀なことをし始めたのは、地球軍がオーブの国民にどのようなことをしているかを聞きつけたからだろう。
「あれが行っても、何の役にも立つまい」
 むしろ、自分たちの足手まといになるだけだ、ときっぱりというミナにフラガは苦笑を浮かべるしかできない。
「いっそ……キラ達と合流をしてラウにあれを押しつけた方が無難かもしれんな」
 彼の言葉であれば、カガリも耳を貸すのではないか。
「その可能性は大きいですが……」
 それでも、とフラガはため息をつく。
「あの二人は、今は一応ザフトの軍人ですからね」
 そして、自分たちの立場であれば、彼等と協力体制を取るわけにはいかないのだ。そんなことをすれば、それこそ地球軍の指摘が正しいと自ら証明してしまうことになる。
「もちろん、わかっているが……」
 しかし、そうでもしないとアメノミハシラが破壊されるのではないか、と彼女は苦笑ととも付け加える。
「……そこまでバカだとは思いませんけどね……」
 というよりも、物理的に不可能だろう……とフラガは思う。
「取りあえず、キサカとシンが側にいますから……無謀な行動を取る前に取り押さえてくれるとは思いますが」
 それもいつまで続くか……と呟けば、
「いざとなれば、シン・アスカとお前とでカガリを連れてプラントに逃げろ」
 根回しだけはしておいてやる……と言い返してくる。
 その言葉をどう受け止めればいいのだろうか。
 だが、最悪、それしかないような気もする。
「その時には、ラウやキラではなく……ラクス・クラインに連絡を入れてください。同じ年齢ながら、カガリを手玉に取れる女傑です」
 それが一番、周囲の負担が少ないのではないか。そうも付け加える。
「覚えておこう」
 しかし、真顔でこう言い返されては、ちょっと不安になってしまう。ひょっとして、自分は告げてはいけないことを口にしてしまったのだろうか。そう考えてしまうフラガだった。