「まさか、イザークとディアッカも一緒だ、とは思いませんでしたよ」
 こう言ってくれたのは、先に店まで足を運んであれこれ交渉していてくれたニコルだ。
「ごめんね。人数多い方がいいかなって、そう思ったから」
 勝手に決めて……とキラはそんな彼に向かって言葉を口にする。
「いえ。キラさんのご希望がそれなら、問題はありません」
 人選に多少意外性を感じたが……と付け加えるニコルに、キラは苦笑を返す。
「兄さんやバルトフェルド隊長達よりはいいかな、って思ったんだけど」
 自分は大丈夫だが、他のものは気を遣ってしまうのではないか。そう思って、彼等には声をかけなかったのだ。
「確かに……イザーク達の方がマシ、ですね」
 公式の場では文句は言わないが、こういう場ではちょっと遠慮したい……とニコルもためらうことなく口にする。
「それって、暴言か?」
「というより、マシとはなんだ、マシとは!」
 つっこむべき所はそれなのか……とキラは思う。
「いいのか。それ以上そう言うことを口にしていると、ラクスに聞かれるぞ」
 そして、アスランのこの注意も何なのだろうか。
 しかも、これが効果覿面だから余計に判断に困る。
「……何か、ラクスって無敵?」
 ようやく口から出たセリフはこれだ。
「心配するな……」
 そんなキラの肩にディアッカが手を置いてくる。
「そのラクス嬢も、お前にはかなわないって」
 というよりも、最初から無条件でキラの味方だろう、あの人は……と彼は口にしてきた。
「状況次第では、アスランでさえ敵に回すだろうなぁ」
 もっとも、アスランが彼女に勝てるはずもないが……とキラにだけ聞こえるような声で付け加える。
「アスランが、僕の敵になることはないと思うけどね」
 だから、ラクスが彼を敵にするはずがない、とキラは囁き返す。
「それはそうなんだが……な」
 彼が何を言いよどんだのかは想像が付く。
 だが、それもあり得ないことだ……とキラは心の中で呟いた。でなければ、自分たちの正体を知っている彼等が、あれを自分たちに預けるはずがない。もっとも、それは決して口に出すことはできないことも事実だ。
「取りあえず……カガリは今、宇宙だから……」
 人質になっていることはないだろう、とキラは微かな笑みとともに口にする。
「……そうか」
 なら、とディアッカがさらに言葉を続けようとしたときだ。不意に彼の姿がキラの視界から消える。
「何をやっているんですか、貴方は」
「……キラを励ましに来て、逆に落ち込ませてどうする!」
 どうやら、二人の会話に気づいたらしいニコルとイザークの鉄槌が下ったらしい。
「……大丈夫、かな?」
 それだけではなく、二人の口撃を一心に浴びているのだ。それはそれで問題ではないか、とキラは思う。
「気にするな」
 苦笑混じりのアスランの声がキラの耳に届く。
「アスラン?」
「あれは、アカデミー時代からの恒例行事だ。ディアッカも慣れているって」
 そういう問題なのか、と一瞬考える。
 だが、自分とミゲルの関係を思い出せば納得するしかない。
「本当、殿方のコミュニケーションは楽しそうですわね」
 さらにラクスの声がキラの耳に届いた。
「……ラクス……」
「私も、アカデミーに入学すべきだったのでしょうか」
 そうすれば、彼等のように扱ってもらえたのか……と彼女は真顔で付け加える。
「……それは無理だと思いますが……」
 アスランが即座にこう言い返す。
「そうですね……ラクスは女性ですし……」
 女性を手荒に扱うのはこわい……とキラは苦笑を浮かべる。もちろん、そんな彼にも例外はあるということは否定しないが。
「カガリ様はよろしいのに?」
 予想通り、というべきなのだろうか。ラクスがこう問いかけてきた。
「カガリは……僕が女性扱いをすると怒りますから」
 それに、そう思わなくていい相手だし……とキラは笑い返す。
「何よりも……カガリの場合、趣味が体力作りですしね」
 あれだけ体を鍛えている相手だ。多少のことをしても大丈夫だろう、と苦笑とともに告げる。
「……あら、それでは私も……」
「やめてください、ラクス。皆が泣きます」
 そんなことになったら、誰もラクスを止められなくなってしまうのではないか。そう考えてしまう。
 カガリであれば、まだストッパーがいるのだから、と。
 しかし、ラクスにはそれがいない。
「本当、残念ですわ」
 わざとらしいため息を彼女はついてみせる。
「それよりも、中に入りませんか? さすがに、そろそろ人目が辛いですよ」
 ラクスのファンらしきものも確認できた。彼等が一斉に押しかけてきたらどうなるか。
「そうですね。先に入っているからな」
 適当なところで切り上げてこい、とアスランは三人に向かって告げる。
「では、ラクス」
 こう促した瞬間、ラクスはアスランだけではなくキラの腕にも自分のそれを絡めてきた。
「あらあら……これも両手に花、というのでしょうか」
 そして、こう言って笑う。それに、キラは何と言い返せばいいのか判断に困ってしまった。