久々に戻って来れば、やはり雰囲気が違う。
「こうなれば……さっさと宇宙に出たいね」
 こう呟いたバルトフェルドの言葉を聞きつけたのだろう。アイシャが小さな笑い声を立てる。
「でも、そうなれば彼等と合同ヨ」
 それでもいいのか、と言外に付け加えられた。
「かまわないよ。当人はともかく、オコサマ達は可愛いからね」
 それに、もれなく彼が付いてくる……とバルトフェルドは言い切る。それだけで十分おつりが来るだろう、とも。
「まぁ、それは否定しないけど、ネ」
 それでも、いろいろと解決しなければ問題があるのだ。一足飛びに宇宙に飛び出せるだけがない、とアイシャは冷静に指摘をしてくる。
「それに」
 ふっと彼女は表情を変えると遠くに視線を向けた。
「とんでもないことが起きているようだワ」
 彼はもちろん、あのこにも関わっているでしょう……と彼女は付け加える。
「それもあるから、さっさと宇宙に出たいんだけどね」
 そうすれば、どこかで巡り会うこともあるだろう……とバルトフェルドは笑う。近くにいれば、フォローもできるしね、とも。
「おやおや」
 その時だ。
 ある意味、今は聞きたくない、と思っていた声が耳に届いたのは。
「家のキラだけではなく、シン・アスカまで気にかけて頂いているようですな」
 ありがたい、というべきなのでしょうかね……と口にする彼の口調がどこか力無く感じられるのは錯覚なのだろうか。そんなことをバルトフェルドは考えてしまう。
 いや、キラにとってオーブがふるさとであるのなら、彼にとっても同じだ。
 同じように衝撃を感じていないわけはないのか。
 ただ、自分自身の立場と年長者としての意地がそれを表現することを戒めていると言っていいのかもしれない。
 さて、何と言うべきか。
 ここで下手に彼のプライドを刺激すれば、後々面倒なことになるだろうし……とそんなことを考えていたときだ。
「だって、二人とも可愛いんですもノ」
 アイシャがこんなセリフを口にしてくれる。
「可愛い子は守らなきゃ、ダワ」
 その瞬間、クルーゼの体を包んでいた緊張が一息に霧散した。
「……さすがだねぇ」
 こんなことは彼女でなければできない。だから、彼女は自分に必要なのだ、と思う。
「……アイシャ殿にはかないませんな」
 くすりと笑いを漏らした彼は、いつもの《ラウ・ル・クルーゼ》だった。
「お褒めの言葉、として受け取っておくワ」
 本当に女性は強い。そう考えるしかないバルトフェルドだった。

「キラ……今日は帰ろう」
 アスランはこう言って、キラの手を取る。
「でも……」
 そんな彼に向かって、キラは少しためらうような表情を作った。キラが悩んでいるのはきっと、帰った後であれこれ考えてしまうのが嫌だからだろう。
「キラが何も考えたくないって言うなら……」
 考えなくてすむようにしてあげるよ……とアスランはキラの耳元でそっと囁く。
「アスラン!」
 その言葉の意味がわかったのだろう。キラは頬を真っ赤にするとにらんでくる。
「俺がずっと抱きしめていていれば、安心できるだろう?」
 違うのか、と付け加えれば
「……違わない……」
 とキラはすぐに言い返してくれる。
「でも……」
「でも? 何?」
 キラの言葉に、アスランはそっとこう聞き返す。
「……兄さんに見られるのは、恥ずかしい……」
 いつ帰ってくるかわからないから……とキラはそっと口にした。
「家に来ればいい」
 大丈夫だよ、とアスランは笑う。
「隊長も、きっと、その程度のことは予測済みだって」
 自分に頼むと言ったときから……と囁けば、キラの頬はさらに赤く染まる。
「……アスラン……」
「大好きだよ、キラ……」
 アスランはさらにこう囁いた。
「だから、キラを支えさせて」
 こんなことをしても何の解決にもならないかもしれない。
 それでも、キラの気持ちが少しでも軽くなるのではないか。そう思うのだ。
「ごめんね、アスラン……」
 しかし、キラは全く別の意味に受け止めてしまったのか。こう言ってくる。
「キラの面倒を見るのは、俺の権利なんだから。気にしないの」
 そんな彼に、こう言うのが精一杯だった。