「……なんて言うか……キラってやっぱりじゃじゃ馬だよな」
 ストライクのOSを確認しながら、ラスティはこう呟く。
「お前だって似たようなものだろうが……」
 その脇で――監視というわけではないのだろうか――作業をしていたミゲルがため息とともにこう告げる。
「何が言いたいわけ?」
「さぁな」
 ラスティの言葉に、ミゲルは意味ありげな笑みを浮かべながらこう言い返してきた。
「だから、何が言いたいんだよ!」
 ぶぅっと頬をふくらませながら、ラスティはミゲルに詰め寄る。その時、余計なキーを叩いてしまったのか。周囲にエラー音が鳴り響いた。
「あっ!」
 やべっ、といいながらラスティは慌てて視線を戻す。
「整備の連中がバックアップを持っているはずだろう?」
「だからといって、うかつなことができるか!」
 これは、ある意味、クルーゼ隊の象徴みたいな機体なんだし! とラスティは叫び返した。
「そりゃ、キラに隊長も別の機体に乗り換えるんだろうけどな……だからといって、これに対する印象が変わるわけじゃないだろう!」
 いっそ、ミゲルが使えばいいのに……とラスティは付け加える。
「だから、俺じゃこのじゃじゃ馬を乗りこなすのは無理なんだって」
 適正でそう出ただろう、と真顔で言い返してきた。そう思った次の瞬間、ミゲルは不意に表情を変える。
「まぁ、別のじゃじゃ馬なら乗りこなせる自信はあるけどなぁ……」
 っていうか、乗りこなしているつもりだし……と彼はさりげなく付け加えた。
 いったい何を乗りこなしているのか。
 今まで使っていた機体じゃないよな……とラスティは心の中で呟く。それでは何なのだろうか、とも。
「……って、ミゲル……」
 あることを思いついて、ラスティはゆっくりと口を開く。
「まさかと思うんだが……」
 しかし、それは本人にとって、一番認めたくないことではある。しかし、ここで確認しないのも精神衛生上よくない。
「そのじゃじゃ馬って、俺のことか!」
 否定してくれ、と心の中で呟きながらもラスティは確認のための言葉を口にする。
「他に誰がいるって言うんだ?」
 しかし、その願いもむなしくミゲルの口から出たのはこんなセリフだった。
「それとも、他の誰かの方がよかったのか?」
 こう言うところが意地が悪いんだよな、こいつは。
 それでも、他の誰かに手を出されてはたまらない。そう考えながら、ラスティはすぐに首を横に振って見せた。

 キラの手が止まった。
 どうやら、一通りの満足行くところまで構築が終わったらしい。
「キラ?」
 もういいの、と取りあえず確認の言葉を口にする。
「これは、ね」
 それと《フリーダム》と呼ばれている機体も取りあえずは終わったかな、とキラは付け加えた。
「問題はあれだけどね」
 そう言いながら、キラは視線を真ん中の機体を挟んで反対側にある一機へと向ける。
「いい加減、誰が使うのかを決めてくれればいいんだけど……」
 そうしてくれれば、もっと細かな調整ができるんだけどな……とキラは呟く。
「あれ、か」
「システムがシステムだから……うかつな人間に任せられないって、言っていた」
 だからこそ、慎重に決めたいのだ、ともクルーゼは口にしているらしい。
「隊長はともかく、僕には荷が重いような気がするんだけどね」
「そんなことはない!」
 キラの言葉を、アスランは速攻で否定する。
「アスラン?」
 その勢いに驚いたのだろうか。キラが目を丸くしてアスランを見つめてきた。
「キラは……人を失うことの怖さも、自分の望むがままに力を使う怖さも知っている。それに」
「それに?」
 アスランの次の言葉を促すようにキラは問いかけてくる。
「キラは、ナチュラルを憎んでいないだろう?」
 それにクルーゼも、とアスランは付け加えた。
「……アスラン?」
「俺たちじゃ、無理だ」
 例外がいると言うことはわかっている。だが、それでも《ナチュラル》が憎いと思ってしまうことがあるのだ。
 他の人間よりも、自分はナチュラルに知人や友人が多い。
 いや、大切だと思える人も数多くいる。
 そんな自分ですらこうなのだから、他の人間ではなおさらだろう。
 しかし、キラとクルーゼは違うといいきれる。
 だからこそ、最高評議会――パトリックも、彼等にこの二機を預けることにしたに決まっている。残りの一機を誰が使うかはわからないが、現在、ザフト内でも最高といわれているパイロットである二人が対処できないわけがないのだ。
「だから、キラが適任なんだよ」
 それだけは間違いがない。そう言いきるアスランに、キラは複雑な微笑みを返した。