だが、一番苦労していたのは、実はフラガだったかもしれない。 「ダメだ、といっただろう!」 言葉とともに、細い体を床にねじ伏せる。普段であれば、決してやらない行動だ。そして、他の者も認めないに決まっている。 だが、今日だけはそういうわけにいかない。 「放せ!」 じたばたと暴れる体を、さらにしっかりと拘束する。 「そういうわけにいくか!」 自分の行動で周囲がどうなるのか、きちんと考えろ! とフラガはカガリに向かって怒鳴った。しかし、それは彼女には届かないらしい。 「放せってば!」 さらに抵抗を激しくしてくれる。 「オーブを、守らなければいけないんだ!」 そう思っているのはこの場にいる全員だ。 しかし、そのために地球に戻ることは誰も許されていない。 「お前が戻って、何ができるんだ!」 むしろ、邪魔になるだけだ! とフラガは言い返す。 「私は!」 「それだけじゃない! お前のせいで、キラやラウまでも危険にさらすつもりか!!」 いや、彼等だけではない。この場にいる全員の命を自分のワガママに巻き込むつもりか! とさらに声を荒げる。 この場にいる者達よりもあの二人の名前を先に挙げた理由は簡単。それが彼女にとって一番威力があるからだ。 そして、その効果は絶大だ、とすぐにわかった。 「何で、キラやラウ兄様の名前が……」 ここに出てくるのか、とカガリは呟く。同時に、彼女の体から力が抜ける。 「お前とあの二人の関係は……オーブでは公然の秘密、だからだろう」 もっとも、彼等が今ザフトに所属していて、地球軍に多大な被害を与えているということまでは知られていないのではないか。知られていたら、本気でやばいが……とフラガは心の中で呟く。 それでも、絶対に《安心》といえないのは、今回の一件にあのバカ親子が関わっているからだ。 どんなバカでも五氏族家の首長とその跡継ぎ。 どこからどのような情報を掴んでいるのかわからない、とフラガは思う。 「お前が掴まって……お前の存在を盾にされたら、あの二人が我慢していられると思うか?」 その結果が、彼等だけならば自業自得だ。 しかし、プラントにまで被害を及ぼす可能性がある。そうなった場合の責任をカガリが取れるのか。フラガは矢継ぎ早に言葉を口にした。 「そんなこと……」 「ないとは言い切れませんよ、カガリ」 ようやく、第三の声が割り込んでくる。その事実にフラガはほっとした。 彼女にしても自分のお目付役である彼には頭が上がらないらしいのだ。 「あくまでも噂ですが……」 こう言いながら歩み寄ってくる彼の姿に、フラガはゆっくりとカガリの上からどく。それでも、彼女の体はまだ拘束したままだ。 「連中は、人間の脳をコンピューターに組み込んでいるとかいないとか……それも、コーディネイターのです」 優秀なコーディネイターは喉から手が出るほど欲しいかもしれませんね……と彼は続ける。 「それでなくても……外見さえあれば中身はどうなっても使いようがあるわけですし……」 キラ達の意志を奪った後でプラントを混乱させるぐらいやりかねない……と言外に付け加えた。 「そんなこと」 「絶対にない、といいきれますか?」 カガリの反論をこう言ってキサカは封じる。 それだけでも彼女にとっては思い切り衝撃的だったはずなのだ。だが、それだけではまだ不十分と判断したのか。 「……そう言えば……」 これもやはり噂ですけど……とマリューがため息混じりに口を開く。 「遊ぶだけなら、男相手でもかまわないと、ユウナ様が言ったとか言わないとか……キラ君なら、見た目はカガリ様そっくりですし、何をしても妊娠しないから……と」 そんなことを言っていたらしい、と彼女はさらに付け加えた。 この言葉には、フラガやカガリはもちろん、さすがのキサカもあきれたらしい。 「……何を考えているんだ、あいつは……」 よりにもよって、キラをそういう対象で見るな! とカガリは今までとは別の意味で爆発をする。 これならば、もう無理矢理本土に戻ろうとはしないだろうか。 そんなことを考えながらキサカへと視線を向ければ、彼は小さく頷き返した。それを見て、フラガは彼女のから手を放す。 「それと、ウズミ様からの御伝言です」 目の前の状況を的確に判断をしながら、キサカが言葉を口にした。 「お父様から!」 何、とカガリが彼を見上げる。 「あちらのことは心配いらないので、ご自分の義務を果たされるように、とのことです」 さすがはウズミ、というべきなのだろうか。 それとも、カガリの性格がいつまで経っても変わらない、というべきなのか。 だが、ウズミの言葉で、カガリは完全に無謀な行動を封じられたことだけは事実だ。 それならば、後は自分たちの役目だろう。 いつ、どのように動くか。それをカガリに判断させるわけにはいかないし……と心の中で呟く。 「……取りあえず、ラウと連絡を取れるようにしておくか……」 キラあたりであれば、きっとプログラムを作ってくれるだろう。 連絡さえ取れていれば、何とでもなる。 そう思うフラガだった。 |