誰もが、その情報を耳にした瞬間、信じられない思いになった。
「……なんだよ、その理屈……」
 というか、理屈にもならないだろう……とディアッカが呟いている。
「無理を通すのがあいつらだろうが」
 吐き捨てるように口にしたのはイザークだ。
「それは真理ですけどね」
 だからといって、そこで暴れていても意味がないのでは……とニコルはため息をつく。
「だよなぁ」
 イザークが怒る理由がわからない、とディアッカも頷いてみせる。
「……袖すり合うも多生の縁……というだろうが!」
 あのバカ姫はキラの身内だろうが! とイザークが反論をしてきた。ついでに、クルーゼの婚約者だろうが、とも。
「そうですけど……」
「だが、それだったら、それこそ怒りを爆発させるのはキラか……隊長の役目だろう?」
 まぁ、似合わないけどな……とディアッカはため息をつく。
「そうですね。隊長はともかく、キラさんは……その分無理をされていらっしゃるのではないかと心配なんですが」
 ストレスで倒れなければいいのだが……とニコルもため息をついた。
「体調は心配いらないだろうが……あいつはな」
 それにはイザークも即座に同意を示す。
「しかし、あいつの仕事を俺たちがフォローできるかって言うと、な」
 あまりに専門的すぎて不可能だし……とディアッカはまたため息をつく。
「MSの操縦に関しても、僕たちよりも、上ですからね」
 フォローしようとして足を引っ張りかねない……と考えれば、実力を上げることを考えなければいけないのではないか。
「できることは、自分たちのことでキラさんの手を煩わせないようにすることだけですか」
 後は……と不意にニコルは表情を変える。
「アスランにがんばってもらいましょうか……」
 この言葉の意味がわからなかったのだろうか。二人は目を丸くしている。だが、ディアッカはすぐにそれは意味ありげな笑みを作った。
「いや、がんばられると困るだろう?」
 キラが疲れて……と彼は口にする。
「ディアッカ!」
 そんな彼に何と言い返そうかとニコルが本気で考え始めていたときだ。
「アスランががんばると……どうしてキラが疲れるんだ?」
 何と言っていいのかわからない疑問を、イザークが口にしてくれる。
「……まさか、本当にわかっていないんですか?」
 いまだに……とニコルは怒りの矛先を収めつつディアッカに問いかけた。
「イザークだからなぁ……」
 それに対する答えがこれだった。しかし、それで納得してしまうというのは何なのだろう。本気でそう思ってしまうニコルだった。

「……地球軍がオーブ侵攻、ですか?」
 同じ頃、その情報をキラはクルーゼの口から聞いていた。
「本当だ」
 きっぱりと言い切る彼の表情は、仮面のせいではっきりとは見えない。だが、その声には苦渋が滲んでいる。
「地球軍に協力をしないオーブは、プラント協力国であり、その存在は認められないものなのだそうだ」
 もちろん、それが侵略のための口実だ、ということは誰の目からもあきらかだろう。
「それで……」
「わかっていると思うが……勝手な行動は取るな……」
 こう言いながら、彼はゆっくりとキラの側に歩み寄ってくる。そして、その体を抱きしめた。
「お前さえ、連中の手に入らなければ……まだ、いくらでも方法はある。カガリもムウも、宇宙だしな」
 だから、うかつに動くな……と告げるクルーゼの指が微かに震えていることにキラは気づく。
「……わかっています……でも!」
 だからといって、黙ってみてもいられない。キラはそう思う。
「それでも、だ」
 苦しげな口調で、クルーゼは言葉を口にする。彼がそんな態度を示しているのは、間違いなくここに自分たちだけしかいないからだろう。
「今の私たちは……ザフトの軍人である以上、うかつな行動は取れない」
 それが、自分の肉親を救いに行くため、でもだ……と彼は続ける。
「あの二人が、取りあえず地球軍の手の届かないところにいるだけでよしとしよう」
 何よりも、と彼はキラを抱きしめる腕に力をこめた。
「ウズミ様達は、あれでも一流のレジスタンスだ。国民の安全さえ確保できたなら、きっと、それなりの行動を取られるはずだ」
 それに、と彼は囁く。
「ヤマト夫妻は、マルキオ様の所にいらっしゃる。だから、何も心配はいらない」
 だから、今は我慢してくれ……と言われては、頷かないわけにはいかない。
「……わかりました……」
 それでも、心が引き裂かれるような気がするのはどうしてなのだろうか。
 しかし、義務は義務だ。
 自分にそう言い聞かせるキラだった。