その報告を耳にした瞬間、誰もが信じられない思いを抱いた。
 だが、目の前のそれが消えることはない。
「……どうして、これが……」
 ここにあるのか、とその中の一人がようやく言葉を絞り出した。
「簡単なことですよ。準備は早くから始めておく方がいい。そして、スパイは有能な方がいい、というだけです」
 金髪の青年がこう言って笑う。
「いったい、いつの間に……」
 自分たちは知らない……と他の者達は呟く。
「あなた方に教えておけば、くだらないことでそれを使おうとしたでしょう? それでは、意味がありません」
 このような重要な情報すら手に入らないままだった……と青年は口にする。
「だがな、アズラエル!」
「あなた方のどのような計画よりも、これの方が重要だとは思いませんか?」
 これさえあれば、地球上のエネルギー事情は解決する。
 いや、あの忌々しい砂時計にまた報復をすることもすることも可能だ。ものだけは山ほどあるのだから……とアズラエルは付け加える。
「今、あれのことで騒ぐときですか? それよりも、さっさとあの化け物どもを従わせることを考えたらいかがです? いっそ、全滅させてもいいかもしれません。もちろん、使えるものは残して、ですけどね」
 違いますか、と言うアズラエルに、誰もが言葉を返せないらしい。
 静けさの中で、誰かがつばを飲む乙だけが周囲に響いた。

 同じ頃、プラント最高評議会は混乱の中にあった。
「何故、そのような重要な機密が……」
「いや、それ以前に、何故そのような者を」
「……少なくとも、有能で信頼できる、という態度を取っていたのだ。それに、あれはプラント建設時からの住人でもあったのだぞ」
 まさかそのような人物が地球軍の手の者だったとは、誰も考えないのではないか。そう付け加えれば、言葉を返してくるものはいない。
「だが、何故あのようなものを開発していたのだ?」
 不意にエザリアがこう問いかける。
「……いずれ、この戦争は終わる。我々が憎むべきなのは、我々の存在を否定する者達だけ。その他の者達、そして地球に残っている同胞まで戦後苦しい思いをさせるわけにはいくまい」
 そのために開発をしていたのだ、とシーゲルが口を開く。
「だが……あれらはそうか考えまい」
 忌々しいというようにパトリックが言葉をはき出す。
「あやつらのことだ……同じ悲劇を、また繰り返そうとするに決まっている」
 それだけは何としても避けなければいけないだろう……と彼は付け加える。
「無論だ」
「我々は、そのために戦争を始めたのだからな」
 無駄に誰かの命を奪うためではない……と誰もが口にした。
「だが、このままでは……」
「わかっている……不本意だが、あれの開発を急がなければなるまい」
 あまりに強大な力を持つがために封印すべきではないか、といわれていたあの二つの機体。その開発を……とパトリックは口にする。それにユーリも頷いていた。
「だが、誰にあれを預ける気だ?」
 下手なものには預けられないだろう、とルイーズが問いかけてくる。
「……一人は決めてある……」
 もっとも、本人には不本意だろうがな……と彼は続けた。それだけでわかるものにはわかったのだろう。
「キラ・ヤマトか」
「あぁ。彼であれば、不用意な殺戮は行わないだろう」
 第一世代であるという事実。そして、クルーゼの部下であれば、という言葉に誰もが納得をする。
 しかし、それだけではないのだ、ということをパトリックとシーゲルだけが知っていた。だが、それを口にすることはできない。どこに何者の目があるのかわからないのだ。
「では、もう一機の方はご子息に?」
「それは……クルーゼの判断に任せようかと思っている」
 彼であれば、適切な判断をするだろう、とパトリックは口にした。それに異を唱えるものはいない。
「では、彼等を呼び戻すか」
 そろそろ休暇を取らせてもいい時期だろう、とタッドが行った。彼等は、それなりの戦果を上げているのだし、とも。
「では、異論はないな?」
 シーゲルの確認に、誰もが頷いて見せた。

「……宇宙、ですか?」
 フラガは目の前の人物に確認の言葉を投げかける。
「そうだ。M−1の改良データーを取りたい」
 にやりと笑いながら、目の前の人物は声を潜めた。
「というのは名目だ。連中の目があちらに向いているようなのでな」
 おそらく、近いうちに宇宙で何かあるのではないか。そして、それに彼等が関わってくるのはわかりきっている。
「……あいつらのフォローも、ですか?」
「そう言うことだ。残念だが、多くの人員は割けないが……かまわないな?」
「仕方がないでしょう。オーブ本土を戦渦に巻き込むわけにはいかない」
 最小限の者達で行動してくれ、と付け加える相手に、フラガは頷いて見せた。 「メンバーに関しては、自分が選んでかまいませんか?」
 そのような状況なのであれば、ある一定レベル以上のものが欲しい。そして、自分と相性がいいと思えるものも、だ。
「それに関しては、軍及びモルゲンレーテから許可を得てある。ただ……」
「ただ?」
「アスハとサハクの手の者以外は選ばぬ方がよいだろうがな」
 その理由は言われなくてもわかっている。
「最初からその予定です、ウズミ様」
 でなければ、こわくて作戦行動ができるか、とフラガは心の中で呟く。
「では……頼む」
 ウズミのこの言葉にフラガはしっかりと頷いて見せた。