まずは、カガリとラクスを安全な場所へと送り届けるのが先決だろう。それが本国及びオーブの出した結論だった。その後で、カガリとフラガをオーブへと送り届ける。そのための準備が整うまでは彼らはクルーゼの私邸に滞在することになるだろう。
 こう告げられたのは、一晩明けた後でだった。
「それはいいのですが……アスラン、疲れていません?」
 妙に、と口にしたのはニコルである。
「キラがフォローしていなければどんなぽかをしでかすかわかったものじゃなさそうだな」
 困ったものだ、と眉をひそめているのはイザークだ。
 それも無理はないだろう。実際、かなりふらふらで、あちらこちらにぶつかりながら移動をしているようなのだ。
「まぁ、勘弁してやってやれよ」
 ともかく、事情を知っている身としてはフォローの一つや二つしてやらなければならないのではないだろうか。そう思いながら、ラスティは口を開く。
「アスランの奴、ラクス嬢だけではなくオーブのお姫様からもめちゃくちゃこき使われていたようだし……」
 キラはキラで、あの二人の側に留め置かれていたようだったが……と付け加えれば、
「……まぁ、もてるな」
 苦笑と共にディアッカがこういった。
「っていうか、あのアスランを使いっ走りに出来るお姫様って、どういう奴なんだか」
 気になるな、とディアッカが呟けば、他の二人も頷いてみせる。
「顔だけなら、先ほどお見かけしましたけどね」
「確かに気の強そうな女だったが……」
 こう付け加えられた言葉に、ラスティは苦笑を深めた。
「キラの従姉だってさ」
 で、アスランは彼女に弱みを握られているらしい……とミゲルから聞いた話を暴露してやれば、彼らは驚いたような表情を作る。
「なるほどな」
 だがすぐに納得したというようにディアッカが言葉を口にし始めた。
「あいつも、一応普通の人間だった、と言うわけか」
 しかし、どんな弱みを握られているのか、興味があるな、と彼は言葉を締めくくる。
「そうだな。そうすれば、俺としてもあいつをこき使えそうだな」
 普段の遺恨を、あれこれはらせそうだ……とイザークも笑みを浮かべた。
「……やめておいた方が良いと思いますけど?」
 本気でアスランが大ぽかをしかねない、とニコルが彼らを制止しようとする。
「そうだな。そんなことでアスランが怪我をしたら、キラが怒り狂うだけじゃすまないと思うぞ」
 はっきり言って、キラの怒りを真正面から受けるのはゴメンだ。
 大概のことでは動じないあのミゲルがピロトーク代わりにこういったのをラスティはしっかりと覚えている。
「……それは、怖いな」
 想像しただけでも、と納得をしたのはディアッカだ。  この男はなんだかんだと事態を引っかき回すくせに、実は結構細やかな気遣いも出来る相手だったりする。だから、イザークのフォローを押しつけられているらしいのだが、それも飄々とした態度でこなしているところを見ればいやではないのだろう。
「隊長よりも怖そうだ、と言ってしまっては怒られるでしょうか」
 ニコルもまた、苦笑混じりにこう言ってくる。
「いいんじゃないのか。っていうか、隊長が怒ったら本気でまずいだろう」
 キラとミゲル、それにアデスあたりが先に怒りを爆発させているから、彼は我慢してくれるのではないか。ラスティはそう思う。
「……いい趣旨返しだと思ったんだが……やめておくか」
 残念だがな、と言うイザークが本気で悔しそうだという事実に、ラスティはため息をついてしまった。

 そんな彼らが怖がるキラの怒りを、真正面から向けられていた者がいた。
「……カガリ、僕の話を聞いているわけ?」
 怒りに菫色がより深まっている。その事実に、フラガですら腰が引けていた。
「聞いているが、何で怒られなければならないのか、わからない」
 だが、カガリは違ったらしい。けろりとした口調でこう言い返してきた。それがまたキラの怒りをかきたてている。
「……ここは戦場で、僕もアスランもパイロットだって言うことはわかっているんだよね?」
 それでも必死にそれを押さえつつキラは言葉を口にした。
「パイロットにとって、一瞬の判断ミスが命と引き替えになりかねないってことも」
 理解できないわけじゃないだろう、と。出来ないというのであれば、フラガからでも話を聞け、と低い声で問いかけられて、カガリは微かに視線を伏せる。
「だけど、あいつはいやだって言わないじゃないか!」
「言えるわけないだろう? アスランは基本的に女性には優しいんだから」
 それがレノアの教育だったのか。
 アスランは基本的に女性の頼みを断るようなことはしない。それはカガリも知っているはずなのだ。
「キラはそう言うけどな……」
「カガリ!」
 なおも自分の正当性を訴えようとするカガリに、とうとうキラの怒りが爆発をしてしまった。
「君は僕たちが何をしているのか、本当に理解しているわけ? オーブのように、表面上平和な場所にいるわけじゃない!」
 命のやりとりをしているのだ、自分たちは、とキラは怒鳴る。
「どうしても、自分が正しいというなら、戦争が終わるまでアスハ宮殿から出てこないで! もし、今日何かあって、アスランが傷つくようなことになったら、僕はカガリを絶対に許さないからね」
 二度と会わないし、オーブにも戻らない、とキラは言い切った。
「キラ!」
 まさかそこまで言われるとは思っていなかったのだろう。カガリがキラに手を伸ばしてくる。だが、それが届くまえに避ける。
「……仕方がないだろう。私がどんなに望んでも立てない場所に、あいつがいるんだから……」
 このくらい可愛いものじゃないか、と彼女は何とか自分の行動をキラに理解して欲しいというように訴えてきた。
「それで、死ぬような相手であれば……キラにはふさわしくない」
「……本気で、僕を怒らせたいようだね……」
 カガリの言葉に、キラはもう完全に堪忍袋の緒が切れた、と態度で表す。
「本国についても、僕はアスランの所に行くから。二度と、カガリには会わない」
 そういう人間が首長になる国にも帰らない、と口にすると、キラはカガリに背を向ける。
「キラ!」
「今のは、どう考えてもカガリが悪いな」
 何とか二人の仲を取り持とうと判断したのか。それとも、彼も怒りを覚えたのか。フラガがこう言ってくる。
「ムウ兄様!」
「そうだろう? お前と違って、こいつらは命のやりとりをする場所にいるんだ。第一、ふさわしいかふさわしくないか、決めるのはキラ自身だろうが」
 他の誰が何も言うことは許されない、と彼はカガリに声をかけていた。
「第一、今のセリフをラウの奴が聞けば、本気で婚約を解消されるぞ」
 そういう考えをしているのだ、彼女は……とフラガはさらに彼女に告げる。
「……でも……」
 キラは自分の弟で、側にいてくれるのが当然なのだ。そう主張をする彼女に、
「いいから、一度頭を冷やせ。それまでは、キラだけではなくアスランにも会わないんだな」
 それができなければ、自分もカガリがアスハを継ぐの反対をするぞ、とフラガは言い切った。
「そう言うことだから、キラ。お前も短慮を起こすな。ラウには説明をしておいてやるから」
 彼にこう言われては、キラも頷かないわけにはいかない。
「わかりました」
 それでも、今はカガリの顔を見ていなくない、と部屋を後にした。



この話のカガリはちょっとワガママですね。単なるキラLOVE度が強いだけかもしれないけど……う〜ん。初めてちょっと嫌な性格にしたかも(^_^;