クルーゼとフラガ、それにカガリはまだ相談しなければならないことがある。
 ミゲルはミゲルで、早速根回しに動き始めた。
 と言うわけで、ラクスに艦内を案内する役目はアスランとキラに割り当てられてしまった。
「本当にお久しぶりですわね、キラ様」
 ラクスが言葉と共に微笑みを彼に向ける。
「そうだね」
 自分がヘリオポリスに行く前だったから、とキラは柔らかな笑みを彼女に返す。
「あの時は本当にお世話になりましたわ」
「当然のことをしたまでですよ」
 キラはともかく、ラクスの自分にも見せたことがない態度に、アスランは驚きを隠せない。確かに彼女は誰に対しても柔らかな態度で接している。しかし、こんな風に親しげな態度を見せる相手、と言うのをアスランは知らなかった。《婚約者》である自分に対しても彼女はどこか一線を画したような態度を崩さないのだ、ラクスは。
「お二人のご様子から推測させて頂きますに、どうやら上手くいかれたようですわね?」
 だが、彼女のこのセリフがアスランの耳を殴りつけてくれた。
「……キラ……」
 まさか、と言う思いがアスランの中で膨れあがってくる。
「何?」
 どうかした? と憎たらしいと感じるくらい可愛らしい仕草で、キラが振り向く。
「お前、ラクスと一体……」
 何の話をしたんだ、と言う言葉をアスランは飲み込む。誰に聞かれるかわからない、と思ったのだ。
 それを察したのだろう。
 キラはラクスを展望室へと案内していく。ここならば、誰にも話を聞かれないのではないか、と思ったらしい。一番安全なのは自分たちの部屋なのだが、それができない以上、彼の判断は正しいとアスランも思う。
「ラクスの護衛に付いたときにね。一応、確認をさせて貰っただけ」
 周囲に誰もいないことを確認してから、キラは唐突にこう切り出す。
「君の婚約者だし、反対されたら自分の気持ちは封印しようかと」
 アスランの幸せの方が優先だから……と微笑むキラに、何と言い返していいのかわからない。
「俺は……」
 ラクスとのことはあくまでも《義務》としか思えない、とアスランは口にする。だから、キラの方が大切なのだ、と。
「私もですわ」
 キラがそれに反論を返す前にラクスが口を開く。
「確かに、私たちは次世代を生み出さなければなりません。ですが、別段そのために体を重ねる必要はありませんわ。ですから、アスランがキラ様を愛していらっしゃるのでしたら、その思いを受け止めてくださいませ……と申し上げましたわよね?」
 ラクスもまたキラに向かってこう言い切る。
「それに……あの時もお約束しましたが、キラ様がお望みになるのでしたら、私がキラ様のお子様を産んでもかまいませんのよ?」
 そうすれば、キラもアスランに対する気兼ねがなくなるだろう、と彼女は付け加えた。
「……ラクス、それは……」
 さすがのキラも、彼女の考えには付いていけないのだろうか。困ったような菫色がアスランへと向けられる。
「いいんじゃないのか? そうすれば、俺もキラの子供を可愛がることが出来る」
 キラがラクスと体を重ねないのであれば妥協できるよ、とその形の良い耳元に唇を寄せると囁いた。
「アスラン、君ね……」
 キラがそれに小さくため息をつく。
「そうでしょう? キラ様の血を引くお子様なら可愛らしいと思いません、アスラン?」
 だが、ラクスは我が意を得たり、と言う様子でアスランに話しかけてきた。
「えぇ。あなたも可愛らしいお方ですから」
 ただ、性格だけはキラに似て欲しい、とアスランは本気で考えてしまう。でなければ、大変なことになるような気がしてならないのだ。
「……プラントの人って、みんなそんな考え方をするわけ?」
 キラがアスランの肩にすがりついてくる。同時に、こう吐き出した。
「キラだって、今はプラントの人間だろう?」
 オーブの首長家に連なる血脈だったとしても……とアスランはさりげなく付け加える。
「私たちにとって次世代は大切な存在ですもの。ですから、可能性があるのであれば、と思うだけですわ」
 そして、自分がキラの子を欲しいのだ、と微笑んだ。
「一人目は、対の遺伝子を持つ相手の子を産むことは当然ですけど、二人目は私の自由にしたいと思いますもの」
 アスランの子であれば可愛がれるかどうか自信がない、とまでラクスは付け加える。
「ラクス……それならお断りします」
「冗談ですわ。父親が誰であろうと、自分の体の中で育てた子供を愛せないような母親はいませんわ」
 だから、同様に可愛がれる、とラクスは苦笑混じりキラに言葉をかけた。
「ただ、カガリ様に関しては責任を持てませんけど」
 さりげなく続けられた言葉にはどう反応を返せばいいのだろうか。一瞬、アスランは悩む。いや、アスランだけではなくキラもきょとんとした表情を作っていた。
「何故、ここでカガリの名前が出てくるんですか?」
 そしてこう口にする。
「約束しましたの。私の子とカガリさまの子を結婚させましょうって」
 一体いつの間に……と思って、アスランはすぐその答えに辿り着いてしまった。間違いなく、二人が一緒に捕らえられていた時期だろう。
 彼女たちが意気投合をしたことは、プラント及びオーブの将来にとっては良いことなのかもしれない。だが、それが自分の将来にとっていいのかどうか、となると大きな疑問なのだ。
「出来れば、それはキラ様の子が良いと、カガリさまがおっしゃいましたの。アスランの子では心配だからと申されて」
 だから、どうしてそう言うことになるのか。
 とは言っても、カガリの性格を考えればそういうに決まっているのだ、と言うこともアスランは知っている。彼女は自分以上に《キラ至上主義》だと言っていいのだから。
「と言うことは、ラウ兄さんの子でもあるわけだよね……またもめるかな?」
 キラはキラで別の問題を見出したらしい。困ったような表情を作っている。
「ともかく、ラクスの許可が出ているならかまわないって事か」
 少なくとも、彼女の前でも隠さなくてすむのだから……とアスランは良い方向に物事を考えようとした。
「そうですわ。私としても、お二人の仲むつまじいお姿を拝見できるのは嬉しいですもの」
 どこか違うぞ、とアスランは彼女のセリフを耳にして考えてしまう。同時に、彼女の思考パターンだけはどうしても理解できないと。
 キラのそれであれば、多少突飛なことを言い出しても、その間の思考が理解できる。
 だが、ラクスのそれはどこからどのような経路で飛んでくるのかわからないのだ。
 それでも、彼女が自分たちに好意を持ってくれているのだけはわかる。だからこそ、キラの次ぐらいの位置に彼女を据えているのかもしれない、とこっそりと付け加えた。
「まぁ、いいけどね。最中に飛び込んでこられなければ」
 もう自棄、と言う素振りでキラは呟く。
「ロックを厳重にしておこう」
 それにこう言い返すだけで気力が尽きてしまったアスランだった。



ラクスにこう言わせるのが好きかもしれませんね、私(^_^;